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P39

 早瀬は二学期から一組になったから、クラスマッチの時は別のクラスだったし、夏休みにいっちのマンションへ来る事もなかった。席も離れていたし、いっちや修は文化祭の発表を一緒にやったりしていたから、四人ではよく話していたが、思えば俺と二人きりで何かをするという事はほとんどなかった。こんな風に、一緒に帰ったり、買い物をしたりする事も。

 そういえば、早瀬の事は、シニカルで人付き合いを面倒がるタイプと思っていた。

 知るほどに印象は変わってきて、実は周囲に気を使い過ぎるために深く関わるのを避けているだけ、自らの手を貸せる範囲は狭い、と、手の中に入れられる範囲を絞っているようなヤツだった。

 元からそうだったのか、少しずつ、少しずつ、漏れて見えはじめた彼の本性は、痛々しいほどに孤高で、暖かかった。

 思えば、いっちと修の事にも気付いていて、ずいぶん気にかけていたようだった。けれど、不満を漏らす事もなく、時折、痛みに耐えるように微笑みながら、寄り添うように支えようとしてくれていた。巻き込んでしまった。

 

「なんか、悪いな」


 俺が声を掛けると、きょとんとした風に俺を見た。


「二人ともバカだから。修はまだしも、特にいっちは」


「なんで高城が謝るの」


 笑いながら言われて、ちょっと答えに困った。


「や、一応、ダチだし」


「僕だって、二人の友達のつもりなんだけど」


 さりげなく返って来た言葉に、思わず固まってしまった。


「そっか、そうだよな、すまん」


 なんとか、思い付いた言葉を口にすると、笑って首を横に振る。

 そう、だよな。早瀬だって、あいつらの事を友だちだと思うからこそ、自分がそうしたくてそばにいたのだろう。俺が、勝手に謝ったり責任を感じたりするのは、おかしい。


「そういえば、戸川、ホモ野郎とか呼ばれていたよ」


 クスクス笑ったまま、早瀬がそう続けた。ホモ野郎? いっちと修が、じゃなくて、それを言った、戸川の方が? 不思議そうな顔をしてしまっていたのだろう、早瀬が説明してくれた。

 多分きっかけは、修が「そんな事を考えるのは、自分に願望があるからだろう」とか、言い返したからだ。戸川に乗っかってからかっていたヤツラは、元々、悪ふざけが過ぎる部分はあったが、基本的にそこまで強いわけじゃない。軽くいじるつもりだっただろうに、俺はいい加減にしろ、とか怒鳴ってしまったし、修は救急車で運ばれるし、いっちはマジギレして俺や戸川に掴みかかろうとするし、と、予想以上に大事になってしまった。

 それで今度は、戸川を標的にした、と言ったところだろうか。

 責任を一人に押し付けられた戸川は、可哀想ではあるが、自業自得だ。


「ちょっと気の毒だとは思うけどね、正直、ざまあみろ、だ」


「ったく、しょうがねえなあ」


 笑って肩をすくめる早瀬に、呆れて吹き出してしまった。

 見上げると、クリスマス前の、年末が近づきつつある空が、澄んで遠い。

何かの準備を忘れているような、そわそわと落ち着かなく、それでいて、何かが起こりそうなわくわくもあって、妙に寂しく、人恋しい気持ちになった。

 嫌な感じじゃない。動き出して、変わっていく予兆。今が過ぎて、新しい何かが始まる。

 ああ、そうか、コイツも、早瀬も俺の仲間だ。


「早瀬」


「ん」


「なんつーか、お前、変わったよな」


「え、僕?」


 今なら、こんな風に話してもいい気がした。それがとても、自然な気が。


「うん。いっちも、修も変わった。

 いや、俺がそういう面を知らなくて、新たに気付いただけかもしれないけど。

 前は3人とも、人と関わろうとしたがらないっていうか、頼ろうとしないし、自分を出そうともしないっていうか。つるんでいても、一人なんだよ。 どっか、一人になろうとするんだよ」


 さっきまでクスクス笑っていた早瀬の表情がこわばった。


「気を悪くさせたら、ごめん」


「いや」


「でも、3人とも変わった。

 一見、修が一番変わったように見えるけど、実は一番変わったのはいっちだな。あいつは多分、これからもすっげー変わって行くと思う。もっとシンドイ思いもするだろうけど」


「僕も?」


 驚きを隠すように無理やり笑おうとしているらしい早瀬のかすれた声に、だろうな、と返して続けた。


「俺は、自分から面倒背負い込むようなおせっかいでもなければ、マメでもない。けど、ダチは見捨てないつもりだ。なんかあったらさ、言ってよ。

 俺でも、あいつらでもいいし。早瀬が誰かを頼るようになったら、あいつらもよろこんで力になるだろうし、何より、楽になるんじゃないかと思う。もっと、よくなっていくと思う。

 むかつくんなら、お前のそういうとこむかつくっていってやればいい。まあ、他人に頼るのは、俺も苦手だから、偉そうに言えないんだけどさ」


 おせっかいじゃない、なんて、どう考えてもこんな事を言いだすのは、おせっかいだよなあ。けど、早瀬にも、もうちょっと本心をぶつけてもらいたい。その事を伝えたいと思った。

 俺はいつでも、一人で抱え込もうとしてしまう。自分がちゃんとしなきゃ、と。けど、俺が仲立ちしたりしなくても、早瀬は早瀬の判断で、あいつらと付き合っている。

 いい加減、「長男」からは卒業した方がいいって、わかってはいるんだけど。


「ありがと」


 軽い自己嫌悪に俯きがちに歩いていると、早瀬がそう小さくつぶやいた。

 心底感謝をしてくれている風の言葉に驚いて早瀬の方を見ると、すん、と、鼻を鳴らして、恥ずかしそうに顔を背ける。

 大人びてクールで、本心を見せないヤツかと思っていた。いっちや修だけじゃない。


「やっぱり、変わったわ」


 なんだかうれしくなって笑いながら言うと、早瀬は照れた様に笑いを堪えて目を伏せた。

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