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教室に戻ると、学年主任が教卓にいて、みんなでプリントを解いていた。
いっちの姿を見た先生は、すぐに帰る準備をして、自分と一緒に修の運ばれた病院へ行ってくれ、と言った。いっちは落ち着いた目で頷き、修の荷物と共に教室を出て行った。
自分の机の上にも、まだ真っ新なプリントが置かれていたので、席について解き始めた。
修はどうしているだろう。もう、そんなには心配していなかった。なぜか、大丈夫だという確信があったので。
薄暗闇に目を開くと、ぼんやりと遠く、テレビの音が聞こえていた。
最近、実力テストのために少し無理をして勉強してしまっていたし、今日は、いろいろあった。自分で思っていた以上に疲れが出てしまったのかもしれない。風呂を出てから少し横になるつもりで寝てしまっていた。
今、何時だろう。
起き上がると、机の上のケータイが、淡く点滅しているのが見えた。ディスプレイに、メールの着信を知らせる表示がされている。操作して呼びだすと、送り主はいっちで、着信時間は八時半頃、今病院を出た、修の意識は戻って、もう心配ない、という内容だった。
時計を見ると、十時過ぎ。いっちも疲れていただろう、寝てしまっているだろうか。今から返信して、着信音で起こしてしまうかも。少し迷って、やはり返さないのは不義理な気がして、メール文を作った。
送信してすぐ、いっちから電話がかかってきた。
「よう、起きてたのか」
「みー」
ケータイの向こうのいっちの鼻にかかった声が、弱々しく震える。
「どした」
「わかん、ない。みーの、声、聞きたく、なった」
「うん、そっか」
電話越しに聞こえるいっちの嗚咽に、胸が、いっぱいになって。
こっちまで泣き出してしまいそうで、無表情な声で返して、数秒、次の言葉が出て来なかった。
多分、修の事がずっと心配で、張りつめていた緊張の糸が解けたのだろう。もう大丈夫だと慰めてやりたかった。いっちは、俺に何を求めているのだろう。
「明日さ、昼、カフェで食わね? 早瀬も誘って」
「でも、みー」
いつも通りを心掛けて、明るい調子で言うと、戸惑うように口籠った。
そっか、外食は嫌いだって言ってあるんだっけ。
「ま、たまにはいいだろ。
この前、カフェの前通ったら、今、スープフェスタとかいうのやってるのな。結構うまそうだなって」
「うん」
ほんの、とてもとても小さな事だとは思うけれど。明日が来るのが、学校へ行くのが、楽しみだと思ってもらえたらいい。俺がそれを望んでいる事を、心のどこかで気付いてくれたら、そして、そんな俺の望みを叶えようと思ってもらえたら、それ以上の見返りはない。
翌日、電話で話した通り、いっちと早瀬とカフェで昼食をとった。テストが終わって、冬休みも目前の今日、午後は、ロングホームルームだけで授業はなく、学校は早く終わる。修のお見舞いに行こう、という話になった。
いっちは、学校が終わったらそのまま直行するという。少しでも早く会いたいのだろう。
「お見舞い持って行きたいんだけど、何がいいかな」
早瀬の言葉に、いっちと俺は顔を見合わせた。お見舞いか。
検査をすると言っていたから、食べ物じゃない方がいいだろう。身の回りの物? けれど、すぐ退院するだろうし、逆に荷物になるかも。定番っぽいのだと、花? けれど、男に花を送っても喜ぶだろうか。
ふと、以前入院した親戚のお見舞いに行った時、ヒマでしょうがない、と言っていた事を思い出した。
「ヒマが潰せるようなものがいいか」
俺が言うと、いっちが嬉しそうに頷いた。
「そういえば、修、本が好きなんだよね」
「ああ、いいね。どんなジャンルが好きなんだろ。歴史とか?」
「宇宙とか星とか、好きみたい。あと、科学とか。
家にはなんたらの定理とかいう本もいっぱいあったけど、あんまり疲れない本がいいよね」
「まじか、そんな本読んでいるのかよ。でも、ま、修らしいな」
俺の言葉に三人で笑い合って、俺と早瀬の二人で本屋によってから病院へ行くことになった。




