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P30

「高城君ってえ、そういうアニメも観たりするのぉ?」


 魔法少女のDVDを手にしたままいろんな事を思い出していて、数秒ぼんやりしてしまった。ふいに掛けられた声にはっと我に返って、声の主に口角を上げてみせ、DVDを所定の棚に戻した。

 

「ちょっと意外かもー。私、アニメとか詳しいんだあ」


 くねりと身をよじり、パチパチと目をしばたくバイト仲間に、秘かに小さなため息が漏れた。


「俺は、こういうアニメは興味がないんです」


「ええー、そうなんだあ? 今度一緒に観てみない?」


「いや、俺は」


「キミたち、職務中じゃないのかね?」


 棚の陰から現れたのは、バイトのチーフ。

 俺と、話しかけてきていた同僚の女性――南塚さんを比べるようにじろじろ見ながら、きつい調子で言った。


「すみません」


「高城君さあ、まだ戻し終わってないの? もっと、ちゃっちゃとやってくれないと困るなあ」


 神妙な顔で頭を下げて、手早く返却されたDVDを棚に戻した。背後で、チーフと南塚さんがヒソヒソと話し、笑い合っているのを聞きながら。

 このバイトは、シフトの融通が利き、屋内なので暑い、寒いがなく、時給もそこそこいいのが魅力だ。ただ、この店舗で、特にレンタル部門と、コミック販売部門は、スタッフのキャラが、なんというか、特殊なのが難点。コミュニケーションが苦手らしい人たち、というか。

 彼らは、どこか挙動不審で、似た者同士で徒党を組み、何かしらの秘密を共有し、どういうわけか、俺を妙に目の敵にする。俺を疎外する事で、仲間同士、より親密になろうとしている部分がある。そして、何より謎なのが、どうやら俺に怯えているらしい、という事。こんなに温厚な好青年なのに。俺が何をしたっていうんだ。わけがわからん。

 ま、自画自賛は言うほど本心ではないが、心当たりもないのに警戒されるのは居心地がいいとは言えない。

 それと、シフトがよく被る、南塚さんという女性。

 女性の年齢って、よくわからないが、多分、二十代後半から三十代半ばくらい。もしかしたらもう少し上かも。この店舗は、化粧品、ケータイ販売コーナーの女性は、それなりにきっちり化粧しているが、それ以外の部門の女性は、かなり薄くしかしていない。南塚さん以外は。前記のような事情があって、俺は、バイトの人たちとはあまり関わらないようにしているのだが、ある時、


「高城君ってぇ、彼女にするとしたら、年下派?」


 と、聞かれた。


「気が合えば、特にこだわりは」


「へえ、そうなんだあ? 私の知っている子、二十歳くらい年上の人と結婚して」


 ああ、年の差婚ってやつか。ふと、早瀬の事が過った。


「俺の親友の彼女も、一回り位年上らしくて。いつも惚気られていて。

 年齢差がある方が、うまくいくこともあるのかもしれないですね」


 まるっきり雑談のつもりで言ったのだが、南塚さんの表情を見て、もしかして、やらかしたか? と、嫌な予感が過った。

 予感は、微妙にあたっていた、らしい。それ以降、やたらグイグイくるようになった。

 けれど、ほんの一歩分くらい距離が近いな、とか、それでうっかりぶつかる事が多かったり、冗談っぽく職場以外でも会おう、といわれたりする程度。マジな雰囲気で断るほどでもなく、こっちにはその気はない、なんてきっぱり言えば、勝手に勘違いしないでと返されそう、という、なんとなくモヤモヤした距離感。一人で作業をしていると、あれこれ話しかけられ、そんでもって、大抵、チーフに睨まれる。

 仕事さえしていればいいわけだけれど、正直、人間関係にうんざりと気が重くなる。こういう、面倒な事が無ければ悪くないバイトなんだけどな。

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