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しんみりした話ではあったが、突然泣き出すなんて。あまりに急すぎて焦ってしまった。
「急に、どうしたんだよ」
「俺、俺さ」
ひっく、ひっくとしゃくり上げながら、必死で何かを言おうとしている。
「友だち、できるかな。ヒロムじゃない、ヒロムとサッカーを足したのより、いい友だち。私立の中学に来て、よかったって思えるくらいの」
まだ、小四なのに。弟は。
卒業は二年以上先で、それは、まだ十年しか生きていない朝陽にとって、かなり遠い未来。けれど、別れることがほぼ決まっている親友と、割り切って無邪気に付き合えるほど幼くもなく。言えずに、どれだけプレッシャーや不安に耐えていたのだろう。
何か言いたかったけれど、うまく言葉が見つからなかった。何を言っても、うそ臭くなりそうで。
「つらかったな」
「うん、少し」
毎日を、楽しんで欲しい。小学生なんて、バカでいいじゃないか? とまで思ってしまう。勉強は、確かに大事だけれど。こんな、不安になって泣くくらいなら。
「朝陽。
新しい友だちは、どこでもできる。
それに、友だちは、ずっと友だちだと思う。ケンカしても、しばらく会えなくても。
父さんと母さんがずっと朝陽の父さんと母さんで、俺が一生、朝陽の兄貴なのと一緒で」
うーん、家族と友だちは、やっぱり、違う、か? 少し無言になって、朝陽からもリアクションは無くて、どんな顔をして聞いているのか気になって朝陽の方を見た。
「寝てんのかよ」
すうすうと寝息を立てている弟に、呆れて小さくつぶやいてしまった。
涙の後が痛々しい。手のひらで冷たい頬を拭ってやった。
外は、相変わらずの嵐。
ああ、もう、ベッド、狭いなあ。寝返りをうって無理やり体制を整えた。
向かい合う形で、腕の中にすっぽり収まっている弟の髪は、細くてふわふわと柔らかく、体温が上がったせいか、幼児特有の、懐かしい甘い香りが立ち昇る。
最近は生意気な事を言うようになり、背も伸びて体付きもしっかりしてきたし、生活も勉強中心で、我慢強く自分を律しているように見える。意識のどこかで、大人と同じ扱いをしていた気がする。けれど、まだまだこんなに幼い部分が多い。
人はいつ、大人になるのだろう。弟は、まだまだ子供だ。中学二年の妹も、大人とは言い難い。
じゃあ、自分は? 同じ年の、いっちや修は?
あいつらは、今、どうしているのだろう。
いっちは、修と二人きりで、辛い思いをしていないだろうか。胸を痛めるような事になっていないだろうか。
俺ができる事は、あるだろうか。関わるみんなが、笑っていられるようにするために。
風が強く吹き付け、再び、ガタン、と、大きく窓が揺れた。遠く、雷鳴も聞こえる。
夢でも見ているのか、すん、と、しゃくりあげるように寝息を立てる弟に、布団を掛け直した。
翌日、臨時休校の一日はあっという間に過ぎて、さらにその翌日、どこかソワソワと余所行きの気持ちで登校すると、いっちは、とても静かな目をしていた。何かを受け入れ、心の奥に沈みこませたような。きっと、修の事だろう。台風一過の後の、真新しい空気の中、痛みに耐えるように笑ういっちに、心臓のあたりがジン、とした。




