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「何を、修に突っかかってんだよ」
不貞腐れた様に黙り込むいっちに、告げるべきか迷って、けれど結局、思いを一人で抱え込むよりは、話すだけでも楽になるだろうと思って、水を向けた。
俺は、お前の修への気持ちに、気付いているんだ、と。
「どうすんの?」
「どう、って?」
「お前が、どうしたいかって事」
俺の口調と視線に、いっちは、俺の言いたい事を察したらしかった。
「前に、いい加減な手で、修に触るなって言ったよね。この部屋に来る女との事、隠せって。あれ、なんで」
なんで、って。
理由はいくつかあったが、一番に思い付いた事は、誰にも告げる気はない。特に、いっちには。
ぼんやりしながらも、口だけは別な事を話していた。
「ああ、あれか。別に、たいした意味はない。
修はそういう事、知りたくないだろうなって思っただけ。
あいつは何て言うか。女とどうこうとか、そういう事に。んー。なんか、だめなんじゃないかと思う。これも、トラウマレベルで。直接聞いたわけじゃないけど」
「不潔、とか?」
「そんな感じかな。
普通の、恋人とかそういうのじゃなく、遊びとか。潔癖なのかな」
「そっか」
いっち。本当に話したいのは、そういう事じゃないだろ?
俺の真意を探るような言葉と態度に、小さく息を吐いた。
「あのさ、修とダチとしてやっていきたいんなら、謝っておいた方がいいと思うぞ?」
「うん」
そう応えた途端、いっちの頬を涙が伝って落ちた。
「みー、頭でわかっていても、苦しいんだよ。いつか、消えんの? この痛みも」
修を想ってテーブルに突っ伏して嗚咽を漏らすいっちを見ているだけで苦しかった。いつかこの痛みが消えるのか。聞きたいのは俺の方だ。
弟を迎えに行くのは妹に頼み、家の事は気になったがこんな状態のいっちを置いて帰り難く、その日はいっちが泣き止んで落ち着くまでマンションにいた。
その次の週だったか、修の家に遊びに行ったいっちから、夜にメールが来た。
急に泊まる事になった、修の彼女の唯ちゃん→ という文章の下、スクロールしていくと、現れた画像は、明るい毛色の、柴に似た犬だった。秒針がぐるっと一周するくらいの間考えて、その意味をやっと理解して、脱力した。
あの日の涙と苦しいほどの切なさはなんだったんだ。後から笑い話になったけれど、あの時、俺といっちは真剣だった。