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いっちは、普段、オンナに対してあんなに軽薄なのに、修には何も言い出せないようだった。
まあ、賢明だな。修は恋愛に疎く、真面目すぎる。いっちを憎からず思っていたとして、同性の「大事な友人」を恋人と認識するのは難しいだろう。
二人がすっぱり仲良くなってくれれば、俺もまだ割り切れるというか、気分的に楽だったかもしれない。が、二人の関係は、どこか不安定な友人のまま、安定してしまっていた。
その安定を吹き飛ばすような台風が来たのは、文化祭から約一カ月後の十月半ばだった。
「きっと、電車もダイヤが乱れていて、いつ来るかわからないし、こんなひどい雨の中帰るのも危ないよ。うちに泊まっていってよ」
と、学校から歩いて十分くらいの場所に住んでいるいっちは俺と修を誘ってくれた。
その数日前から仕事がめちゃくちゃ忙しくなっていた母は、その日、どうしても遅くなる、もし台風がひどくなったら帰れないかもしれない、と言っていたし、父親は県外に出張していた。簡単に食べられる食料はある程度用意してあったが、家に弟妹だけでいさせるのは心配だった。
いっちは早瀬も誘ったが、他に泊まるアテがあるといって断ったようだった。
ずぶ濡れになりながらも、電車は思っていたほど混雑も遅れもせず、無事に家に帰ると、先に帰っていた妹がタオルを持って出迎えてくれた。
「お風呂も沸いているんだよ。朝陽と私はもう入っちゃった」
リビングでテレビを見ている弟を横目に、妹から促されて風呂に入った。体が温まると人心地ついて、やっとほっとした。
「ねね、兄ちゃんの学校も停電した?」
興奮気味にいう弟に、おう、と応えた。
「朝陽の学校も停電したのか?」
「うん。オンナとか泣いたやつもいたよ。みんな、わあ、って言って。
俺はマジ冷静で、みんな落ち着けよって言ったんだ」
「おお、オトナだな。で、机の下に隠れたんだ?」
「うん。え、それは。それは、地震の時だろ! 隠れないよ」
「へえ、そうだっけ? 今日はまた停電するかもしれないから、早めに晩飯食っちゃおう」
笑いながらそういうと、弟は、また停電するかな、と、不安そうに眉を寄せた。
「テレビ、台風ばっか」
「飽きたなら部屋行っていろよ」
「やだよう」
簡単に夕食を済ませた後、口を尖らせて、つまんない、と文句を言う弟が、一人になりたがらないのを知っていて、わざと意地悪く言うと、妹が、じゃあ、これみようよ、と出して来たのが、魔法少女アニメのDVDだった。
俺としては、つまんなかろうがニュースで台風に情報を得るか、自室で勉強でもしていたかったが、強がってはいても実際ビビっているらしい弟の気が紛れるのならその方がいい。
雷鳴が轟き、強い風がぶつかって建物自体を揺らし、窓にバチバチと雨があたる音は、俺ですら不穏な気分になる。
最初のうち、他のないの? と、不服そうにしていた弟も、ストーリーが進むにつれ、夢中になっていたようだ。俺は、あまり入り込めもせず、リビングを離れるのも素っ気ない気がして、ソファでまったりとコーヒーを飲んでテレビに映し出されている魔法少女アニメと、それを食い入るように見ている弟と妹を眺めていた。




