初日~前半~
高校三年の夏休み初日から俺、矢坂部紅斗は自室でゴロゴロしていた。
ある特殊な事情から俺は進学することを諦めていたのですることがないのだ。
午前中ずっとそうしていると携帯電話から着信を知らされる。
俺に電話してくるのは一人しかいない。久木凪香だ。
「もしもーし」
『暇だ』
「………いや俺も暇だけどさ」
『ときに紅斗、知っているか?最近近くのゲームセンターに新しいガンシューティングゲームが追加されたらしい』
「へー、それで?」
『なんでも難易度が異常らしく、一週間たった今でも1ステージすらクリアされていないらしい』
「そりゃすごいな」
『でだ、このゲーム、二人協力プレイが必須らしい』
まぁ、言いたいことはわかったが。
「そうか」
『そして今さっきお前は私の暇だという言葉に俺も暇だと返したな?』
「だー!もうややこしいな!わかった。わかったよ。で?いつだ?」
『もしもし私よ。今ゲームセンター前にいるの』
なんでいきなりメリーさん?
そして、この待ち合わせが、俺たちの人生を変えたのだ。
「あぢぃ~。暑すぎる」
夏の猛暑に耐えながら、歩く。
目に映る世界は相変わらずの遅さだ。周りの人の動きや、空を飛ぶ鳥、自分の動きすら緩慢で、やっていられない。
一秒一秒がとても長く遅い、俺の世界。
変化に乏しい自室が一番落ち着くが、暇だ。
だから俺は無限にすら感じる距離を歩き、ゲームセンターを目指した。
到着と同時に着信。
『「もしもし私だ。今お前の後ろにいる」』
振り向くと、プロポーションの良い黒髪ロングの女性、凪香がいた。
「ゲームが苦手な俺にこんな誘いをするなんて、よっぽど暇なんだな」
「あぁ。まさしく退屈に殺されそうだ」
俺と凪香は良く似ている。特殊な事情や異常なところまで似ている為、お互いがお互いに尽くす関係を、高校一年で出会ったころから続けてきた。
「こっちだついてこい」
ゲームセンターの中に入って、目当ての場所に行くまでに説明を受けた。
魔境伝説というタイトルで、よくあるガンシューらしいのだが、プレイヤーの武器が弾薬無限ハンドガンとナイフの2パターンで、武器が増えることもなければ、強化されることもない。しかし敵キャラは雑魚からすでに一般人にはキツイレベルで、やりこんだ人でも1ボスで詰むらしい。
「どんなゲームだよ……」
「今では金の無駄とされていてほとんど誰も近づく者はいないらしいな」
「へぇ、でも普通では無限弾薬ハンドガンはかなり脅威だよなー」
昔を思い出し、少し身震いしてしまった。昔は昔、もう、終わったことだ。
「確かにな。もし実在すればかなりヤバイかもな」
さて、その魔境伝説とやらに到着したのだが
「一回千円!?二人で二千円とか・・・詐欺じゃねぇか!」
「言ったろう?金の無駄だと」
無駄すぎる。二人プレイ必須だから5回で万だと?ありえない。
「さぁ、やるぞ」
マジか・・・?マジでするのか?千円だぞ?あぁ、そういやお前はお嬢でしたねチクショウ!
「ぜってぇクリアしてやる」
俺は模擬銃を持った。
俺の世界は遅い。全てが遅い。目の前の画面に敵がでて来るのが遅くて仕方ない。敵の動作どころか画面の色彩変化すら目を凝らせば見えてくる。
こんなに遅ければ射撃経験は無い俺でも簡単に当てられる。隣でもかなりの速度で手を動かす凪香がいた。
雑魚を倒して1ボス登場。
やはり遅い。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。たまに斬る。
ナイフを使うとたとえ画面内でも反応してしまう。
昔の記憶を抑えながらひたすら撃ちまくる。
~10分後~
つーか、おかしくね?
え?なにこれ?敵の体力多すぎないか?一発が軽すぎだろ!そのくせ相手からの攻撃は二回で死?
うん。たしかに普通は無理だなこれ。でも、相手の攻撃には当たる気がしない。攻撃モーションに入ったら弱点を撃つだけだ。凪香と二人でさらに5分攻撃を続けると。
敵の体力ゲージはとうとう無くなった。
「やった!」
「ふぅ。なかなかの暇潰しだったな」
お互いに顔を見合わせると、凪香の顔の輪郭が歪んみ、俺は意識を失ったのだ。
そして今現在、俺は凪香の身体になって森の中にいる。
「なんなんだこれは?」
「知るか。私が知りたい」
二人でしゃべりつつ、俺はひそかに感動していた。
世界が、早いのだ。一秒はすぐに過ぎていく。
あぁ素晴らしきかなこの世界。しかし変に身体が軽く、力がみなぎるのは気のせいか?
凪香を見る。
「?」
コイツの身体だからなぁ。多分、コイツも俺と同じくどこかに異常を抱えてるんだろう。
聞いてみるか。
そう決めると俺は凪香に声をかけ
「おい」
声をかけられた。
「なんだよ?」
「どういうことだ?目がおかしいぞ?周りが止まっているように緩やかにしか進まない。それに、かなり遠くがはっきり見える。100メートル先の木の葉の葉脈まで見えるぞ。なんだこれは?お前も私と同じくなにか異常だと思っていたが、意味がわからん」
やはり、そうなるのか………。
「お前の身体も変だぞ。身体が軽すぎる。力が溢れ過ぎているし、さっき石を握り潰せたんだが…?」
お互いに無言になる。
「わかった。説明してやるから紅斗、お前からだ」
わがままなやつだなぁ。
俺は説明してやることにする。自分の異常を。
「俺は感覚が異常なんだよ。特に視力がおかしい。動体視力は世界が止まって見えるほど緩やかに見えるし、視力も40.0以上は確実にある。動体視力で世界が止まって見えるかは謎だが、まぁ、簡単に言えば、だ。目を開けている限り、周りと時間の進み方が異常な千里眼持ちだ」
凪香はゆっくりと説明を整理しているのだろう。小さく「・・・・これは・・・・・私が望んだ……」と聞こえてきた。
「で?」
俺は凪香に説明を求める。
「お前の身体はなんなんだ?まぁ、少しわかってきたが……」
「ん、あぁ。私は身体能力に異常を持っている。どんなにセーブしてもメダルが取れるレベルになるし、おそらく、私は出したことは無いが全力で走れば時速100は超えるし岩でも余裕で破壊できるだろうな」
身体能力か……。昔、俺が渇望したものが、ね。
俺は試しに辺りを走り回ってみた。
おぉ、速い!何だこれ?うおぉおおお!すげ!
長い髪が風で浮き上がる。軽くジャンプしてみる。
たっっっっけぇえええ!うぉ?マジか?軽く5メートルはいったぞ。
「ん?」
ぴょんぴょんと跳んでいると、なにやら人外生物の軍団が見える。
「なぁ凪香」
「何だ?」
「あっちのほう見てくれないか?」
軍団がいた方向を指差す。
凪香はそちらに目を向けると一瞬固まって、納得した顔になった。
「なるほどな」
「なんだよ?」
凪香に詰め寄る。
「私の身体で引っ付くな!どうやらここは、魔境伝説の世界、もしくはそれに類ずる異世界だろう」
「ほー」
まぁ、薄々そうじゃないかと思っていた。だってゲーム中にこんなんなったし。
「あぁ、あと人外生物たちにローブを羽織った奴が追われているな。あ、追いつかれた」
「ふむ、よし、助けに行こう」
「いいぞ」
素直な返事に俺は衝撃を受けた。
基本的にコイツは興味がないことにはまったくと言っていいほど関与しない。
「ちょうどこれらを試したかったからな。木に撃っても良くわからないし」
凪香は懐からハンドガンを取り出した。
いったいどこからと問おうとして、俺は腰にある凪香と同じハンドガンとナイフを見つけた。
ナイフに触れた瞬間フラッシュバック
火薬の匂い。爆撃音。目が飛び出し、脳漿をぶちまけた死体。血の味。ナイフの柄の感触。
ナイフ、か。俺の命の恩人。大切な相棒にして使い方を熟知した殺人道具。
「紅斗、行くならさっさとしろ」
「あぁ……。わかってる」
俺と凪香は人外生物たちに向かって歩いて行った
一気に書いたので誤字脱字はお目こぼしを。
二人とも真面目な顔してむちゃくちゃです