01 泣き虫な聖女
アイオラは、少しくすんだような蒼鉛色の髪と目の、聖女の資格を持つ少女だった。
『移しの器』として教会に来たのは、彼女が十四歳のときで、ずいぶんと遅かった。
生まれつき病弱な娘は、ある貴族の家で長い間かくまわれていたからだ。
アイオラは、引き離された家族を思い出しては、夜な夜な声を殺して泣いた。
(優しいお母様、お父様、お姉様。見つかってしまってごめんなさい――神様どうぞ、私を家族の元に返してください)
――しかし、アイオラの願いは叶わなかった。
アイオラは、本当に病弱になってしまったかのように、ベッドから起き上がれない日が続いた。
ときどき、検査や身辺の世話のために来る人間も、丁寧な手つきではあるが、言葉少なに手際よく用を済ませて去っていく。
アイオラはベッドから窓の外を見た。柔らかな日が差し込んでいる。空を飛ぶ鳥の影が、その光の中をさっと横切っていった。
(……私も、この窓から飛び立てたら、家族の元に帰れるのに……)
――かすかな歌声が聞こえた気がした。
(……賛美歌? ……いえ、違う)
アイオラはゆっくりゆっくり窓に近づく。中庭を見下ろしたアイオラは、小さく息をのんだ。
同じ年頃の少女が、楽しげな旋律の歌を歌っていた。真っ先に目に飛び込んできたのは、日差しを受けて輝く蒼鉛色の髪だった。
(私と……同じ!)
アイオラが歌声に聴き入って、じっと見つめていると、くるくると躍りながら歌われていた楽しげな曲が終わり、少女がこちらをパッと見上げた。
「!」
驚いて一歩下がった瞬間に、アイオラはふらついて慌てて窓枠をつかんだ。
庭にいた少女は目を丸くして――それから、やわらかく笑った。
彼女は、地面を大げさに指差すと、そのまま走り去っていく。
目を凝らすと、きれいに整えられた庭に『元気になってね』と、地面を削ったメッセージが残されていた。アイオラは、彼女が後で叱られるのではないかと心配になった。
――数日後
アイオラが起き上がれるようになり、部屋を出ると……果たして蒼鉛色の少女は、アイオラを待っていた。
「良かったー。起きられるようになったのね! あっ……わたしの名前はオリヴィエです。よろしくお願いします」
オリヴィエという名の少女は、駆け寄ってくる途中で慌てて立ち止まり、ぎこちなく礼をしてみせた。
「……私はアイオラです。先日は、素敵な歌をありがとうございました」
微笑みながら礼を返すと、蒼鉛色の目がキラキラと見つめてくる。
「本当にお姫様みたい……! あ、ごめんなさい。お嬢様がいらっしゃるというので、楽しみにしていました。仲良くしてくれたら嬉しいです」
オリヴィエは二つ年下の十二歳。生まれたときから、この教会で暮らしているとのことだった。
「どこでも案内いたします! と言っても、行ける場所は少し限られてしまいますけど。とっておきの場所もありますよ!」
(限られた場所……)
アイオラは長い間、限られた場所で生きてきた。
隠れるために。
(隠れる必要がなくなっても、また同じ……)
「ありがとう。では、今日は少しだけお願いします。情けないことですが、まだあまり歩けないのです」
「わかりました! ありがとうございます」
オリヴィエは、嬉しそうに笑った。
続きはまた明日。10:45頃に。
この話は、本編
『国家転覆は狙っていません! ――家族を奪還したい弟は、学園に潜入し過保護な兄と姉に溺愛される―― 』
のスピンオフです。5話完結。
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