第32話 とある団員の証言
ある団員の視点となります。
少々延びすぎた雑草に足を取られ、すぐ前を進んでいたはずのホムラは随分先に行ってしまっていた。
あんな動きやすそうな装備とかずりぃぞホムラ。
ぐぎゃあぁぁああぁあぁ!!!
「団長!!」
俺がそこに着いたとき、団長がホムラを庇っていた。
でかい牙に穿たれた団長の腕は、意識を保っているのが不思議なくらいの深い傷になっている。
そんな瀕死の状態でもホムラのことを考えている辺り、この人は本当にいい団長だと思う。今の状況に全く関係ないけど。
団長の腕を穿ってしまうような敵は、奴しかいない。
――魔獣だ。
土色の毛皮を纏うあいつは、地の魔獣だとすぐにわかった。
本来なら、団長が怪我をしているしここで助けに入るべきだが、なかなか入れる隙がない。
下手に助けに入ろうとすれば、俺だけじゃなく近くにいる団員も巻き込んじまう。
それだけじゃない。団の連携も崩れる。
ホムラが団長の怪我に気づいて青ざめている。
まずい。
あの魔獣はホムラを狙っている。
なぜかはわからないが…火の魔獣がハツカ村を襲っていたときも、魔獣はホムラを狙っていた。
おそらくホムラを狙うだけの何かがあるのだろう。
そして、団長はそれに気づいていて、ホムラを遠ざけていた。
だけど、今回は出現報告がなかった。
それでも団長は、なるべく魔物討伐に当たらない地点に配置したみたいだけど…。
結局、魔獣は現れた。
「おいっ!ホムラ!何ぼーっとしてやがる!団長を連れてこっから離れろ!」
魔獣の視界に入らない、少し離れた場所からホムラに向かって叫んだ。
立ち上がったホムラは、魔獣から目を離せないでいた。
俺の声は全く届いていないようだ。
くそっ。
魔獣の注意をどこかに逸らさないと。
たった今着いた2班の副団長とアイコンタクトをとる。
少々危険だが、ゆっくりとホムラたちへ近づく。
副団長らがあいつの意識を逸らせている間に2人を魔獣から離してやらねば。
「…ああっ!団長!ホムラ!」
誰かが声を上げた。
ホムラたちから視線を動かすと、左の前足を上げて殴りかかろうとしている魔獣の姿が映った。
「いけねぇ!」
走ったが、追いつくか追いつかないか。
副団長は魔獣の後ろから攻撃したが、あいつの後ろ足に蹴られ、大きく後方へ吹っ飛んだ。
「よしっ!」
あいつが副団長に気を取られた今がチャンスだ。副団長、あなたのことは忘れない。
「ホムラ、足を竦ませてる場合じゃねぇ!一旦引くぞ!」
そう言って腕を掴もうとした。
が、できなかった。
「があぁあ!!」
ものすごい衝撃が、体を押しつぶすようだった。
どうやら俺は、あいつに吹き飛ばされ近くにあった木に体を打ちつけたらしい。
やばい。
「か、体が、動かねぇ…。」
たった一撃で体が軋んで動かなくなるなんて…訓練サボった罰か、な。
副団長も俺と同じ感じだし、他の団員も動けなさそうだった。
打つ手なし。
…どうにかしなければ。考えろ。考えるんだ。
あいつがもう一度前足を上げた。
今度こそ助ける手段がないなんて。
「ホムラァああぁ!!」
あいつが、足を振り下ろす瞬間。
スローモーションのようで―――
―――一瞬だった。
「…ぇ…?」
ずっと凝視していたが、何が起こったのかわからなかった。
あいつの、魔獣の足が、なくなっていた。
ぐぎゃあぁぁあぁ!!
あいつの悲鳴が響き渡る。
いつの間にかホムラの持っていた剣が抜かれていた。
団長がやったのかと思ったが、団長はホムラの傍で横たわっているし、魔獣を切ったであろう剣はホムラ持っている。
先ほど振り上げていた前足がなくなり、片足が使えなくなった魔獣は、ホムラに食いつこうとその凶悪な口を開ける。
俺から見えるホムラからは恐怖という感情が見えなかった。
むしろ、全ての感情が消えたようだった。
そして、あいつの懐に潜り込むと、あいつの腹を刀で斬り上げた。
全ての攻撃をすんでのところで避け、関節や顔、皮膚の薄そうなところを狙って攻撃している。
…やっぱり、ホムラだった。
ホムラが、剣を握り、剣であいつの足を切り落とし、今、戦っている。
ホムラは…。
「…っ!…魔術を使っているのか…!?」
まるで蝶が風に乗るように、ひらりひらりと敵の攻撃の軌道を避けるように宙を舞っている姿は、魔術によるものだと思われる。
俺のような魔術の使えない人間にあのような動きは出来ない。
風を受けて体が舞い上がるように攻撃を避ける。
そして、ふわり、という浮遊感をもって着地し、隙のない攻撃を繰り出す。
だが、汗の滲むホムラの顔には余裕がなく、なんとか戦っているのがわかる。
半年前まで武器も触ったことのない人間が魔獣相手に余裕なわけがない。
しかも一人で。
一人で魔獣とやりあってるんだ。
さらにホムラには魔獣に対してトラウマもある。
俺も今出来ることをやらなければ。
「団長、しっかりしてください。」
ホムラにばかり負担はかけられない、と俺は団長の元へ軋む体に鞭打って駆け寄った。
雨が降ってぬめっている土と雑草に足を取られながら進む。雨にこれほどイラついたのは初めてかもしれない。
なんとか団長の元へたどり着けたが…。
腕の出血量が多すぎる。
自分でなんとか抑えているが…止血だけで間に合うのかこれ。
「…ホムラ…魔力があったんだな…。道理で魔獣に…。」
団長は無理やり声を絞り出している。
顔は青ざめるどころか真っ白で、唇も血の気が引いていた。
団長が自分で患部を強く掴んでいたから、止血代わりになってなんとか意識があるが、普通の人間なら死んでるような怪我だ。
「団長、喋らないで下さい。とりあえず止血は完了しましたから、集落に戻りましょう。」
団長はこの場から離した方が懸命だと思って、自分が持っている布で止血し、自分の篭手で固定した。
そして、怪我をしている方とは逆の腕を自分の肩に回して引きずる。
「い、や…ホムラを置いていくわけには…。」
団長はまだホムラを気にしているが、この怪我で置いていったら足手まといになるのは団長だ。
俺は無視して歩き始めた。
なんとか集落に団長を置いていって、戻ってくると副団長におぶられて林から出てくるホムラがいた。
「ホムラが倒したよ。力を使い果たしたみたいで、グノームが事切れるのと同時にホムラも意識を失った。」
ホムラの顔も真っ白だった。おまけに呼吸が浅い。
団長に負けず劣らず危ない状況みたいだ。
その後、集落にて2人の回復を待った。
脅威の生命力と回復力によって、1週間でなんとか歩けるまでに回復した団長はともかく。
ホムラは一向に目覚める気配がなく、これ以上集落に滞在できずホムラは担架に乗せて運ぶことになった。
目が覚めないホムラを気にして、団長が自分も運ぶと言い張っていた。
だが、まだ腕の調子が万全でなく歩くのがやっとなため、大人しくするようにいろいろな人間から怒られしぶしぶ従っている。
団長はこれ以上ないくらい落ち込んでおり、顔面蒼白なホムラを見るたび悲痛な顔をしていて、部下に重症を負わせた自分を酷く責めているみたいだった。
自分だって大怪我しているのにな。…そういうところは団長らしいと思う。
ただ、団長が責任取るって言って騎士団辞めかねないから早く目覚ましてくれ、ホムラ。
ウェイロー君の視点でした(^^
わかりにくくてすみませんっ。
「団長の怪我は常人だと危ないけど、団長だから大丈夫だった」っていう認識でお願いします。医療の知識はないので、止血方法などは全く知りません…。
この回はホムラが無意識で戦っている、ということをお伝えしたく書きました(^^




