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発端の報告

タイトルに拷問ってついてますけど、どちらかというとインタビュアーみたいなことが多いかもしれません。

ファイグ・エセティオス。

年齢は30歳前半で、配偶者はおらず独身。

ムバート王国有数の公爵家でありながら、他家に比べて勢力も領地も低い一族『エセティオス公爵』の現当主である彼は、実家を反映したかのように影の薄い男であった。

仕事の手腕そのものは優秀なのだが今一つ野心も自己顕示欲もなく、他貴族との集会に参加した時などは壁と同化しているのかと思えるほど存在感のない男で、その薄さは声をかけられるか他人に指摘されて『ああいたのか』とやっと気づかれるほどである。

そのせいか貴族同士のゴタゴタに巻き込まれず、あらぬ悪評すら聞いたことがない。彼自身が無表情なのもあって何を考えているのかわからず、ゆえに誰も彼の人となりも趣味も人間関係も、普段どういった生活をしているのかすら知らない。


ある一定の人物以外は。















その日、王から登城を命じられた彼は、誰にも気づかれることなく玉座の間へ通されていた。


「よくぞ来てくれたな、エスティオス公爵」


「陛下のご下命とあらば、馳せ参じるのがエスティオスの使命にございます」


感情のない声で答え、膝をつき頭を垂れるファイグの眼前には、隣り合わせの玉座に座る初老の男性と女性。

この国の王デイビス陛下と王妃エリアナである。

チラリと周囲を見れば玉座の間には衛兵の姿すらなく、王と王妃と公爵以外はいなかった。こんな状況の中で自分が呼ばれた理由がなんなのか、考えられるのは一つだけだ。


「此度は『裏』の密命だ」


王からの予想通りの言葉に、ファイグの伏せられた顔が狂喜に歪む。


『エスティオス公爵家』の裏の顔、それは特殊な事情を抱えた罪人から情報を搾り取る、所謂拷問官の総本部である。

公爵と銘打ってはいるが、エスティオスの当主は一般的な貴族のような世襲制ではなく、現当主が拷問官の才があると判断した孤児や他家から引き取った子供を養育し、最も優れた者を選定する襲名制で受け継がれている。

そしてファイグ自身ももとは平民の生まれだったのだが、生まれつき他者をなぶらずにはいられない性分を抱えていた彼は、親から教えられていた倫理観から己の歪みに苦悩していた。自傷行為でその衝動を抑えていたものの、当事はいつ爆発してもおかしくなかった。

そんな彼を見初めたのが先代当主で、自身の衝動を満たしながらも国の役に立てる拷問官は、ファイグにとっては正に天職である。


無論公爵家に養子入りするからにはそれに見合った努力もいる。読み書き計算、テーブルマナーに領地の経営、社交性、ダンス、それらを完璧に体得した者のみがエスティオス当主の座を受け継がれるのだ。


そういうわけで、『裏』の密命で王に呼ばれるということは、よほど重要な罪人が捕まったということなのだろう。はてさて今回はどのような仕事か。


「………貴公は先の『卒業式の騒動』を知っているか?」


「今や社交界の話題を独占しておりますゆえ」


それは二週間ほど前に起きた、第一王子が由緒ある学園の卒業式で公爵令嬢を糾弾した事件である。

当時の第一王子は学園内で婚約者がいる身でありながらとある伯爵家の令嬢に移り気し、あろうことか両家の同意すらせずに独断で婚約破棄を突きつけてきたのだ。

破棄するだけならば両家の親族を集めて内密に手続きをすればいいのに、よりにもよって公共の場を乱すようなやり方で、しかもその理由も『公爵令嬢が伯爵令嬢に嫌がらせをしたから』という自身の行為を棚上げするような蛮行だったという。


さらに調べてみればその嫌がらせとやらは根も葉もない捏造されたものばかりで、当然ながら娘に冤罪を被せられて公共の場で家を侮辱された公爵家は激怒、醜態を晒した二人は速やかに取り押さえられたという。

その後は騒ぎの発端になった令嬢の実家である伯爵家が賠償金を支払い、社交界で笑い者にされ肩身の狭いをしていると聞いている。第一王子は継承権を剥奪され、第二王子に王位を継承する手続きをとっている最中だ。


しかし王曰く此度の密命は愚息に関してではなく、彼を誑かした件の伯爵令嬢に関してだという。


「そのご令嬢が何か?」


それは取り調べの最中、彼女は第一王女であるクリシェラ姫のことを口にしていたというのだ。彼女はその特異な能力ゆえに存在を好評されていないので、本来ならば一部のものしか知らないはず。

事前に伯爵家に探りを入れてみてはいたが、伯爵令嬢が姫に関する情報を得る機会はなかったらしい。

これはもしかしたら他国のスパイが関与している可能性が高いと見た王は、彼女の手引きをした首謀者がいると踏んだ。


「ゆえに此度の拷問には、一級魔法の使用を許可する」


一級魔法とはエスティオス家にのみ伝承される上位回復魔法の一つであり、どれだけ瀕死の状態からでもあらゆる傷や病を治せる万能さから使用には王の許可が必要になる。


その言葉だけでも、なんとしてでも首謀者を洗い出せという王の気迫が感じられる。


「御心のままに」


表面上は礼儀正しく頭を垂れる忠臣の仮面を被りながら、ファイグは久々に楽しめそうだとほくそ笑むのだった。

直接的な暴力描写を省略したバージョンをなろうにも上げてみることにしました。



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