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第17話 休息日と居酒屋

 アイと王都の露天を特に目的も無く歩いていると、見覚えのあるポーション売りが見えた。


「安いよー。五本買ってくれたら一本サービスだよー」


「げ、あいつは……」


 手口を知っている俺たちはどうしても顔が苦くなる。


 今の所客はいなさそうだが、釘くらいは刺しておいた方が良いだろうか?


 店の前へと顔を出すと、店主が人の良い顔をして声を掛ける。


「ポーションあるよー。今なら……」


「お前、まだやってたのか」


「……あ」


 少しの間を置いて、優しげな顔が強張る。


 どうやら、まだ顔は覚えられていたらしい。


「……今日は店じまいだ」


「待ってくれ。そのポーション、他のと何か違うのが入ってるよな?」


「……ウチの故郷で育てた薬草だ。狩りをする前に煎じて飲むと元気が出て、いつもより多く捕まえられると父が言っていた」


「やっぱり……それ、エナドリじゃないか?」


「エナドリ……?」


「体力回復の薬がポーションとするなら、疲労回復の薬がエナドリだ。疲れが抜ける分、結果的に体力が回復するけど、効果はポーションよりずっと小さい」


「……文句を言いに来たわけじゃないのか?」


「そりゃ適当なもの売ってることには言いたいことくらいあるけど、それはそれとしてあんたのくれたものにも使い道があったからな。それくらいは言っておこうと」


「……そうか。俺の村じゃポーションが出回ることが少なかったから、あまり違いを意識することが無かったんだ。ありがとう」


 そうして薄口ポーション改め、エナドリ売りの商人は片付けを始めて店仕舞いの準備をする。


「ユーは博識なのね。『えなどり』なんて初めて聞いたわ」


 隣ではアイが俺を尊敬の眼差しで見つめている。


「博識なんて……たまたまだよ」


 当然ながら、この世界でエナドリと名付けられたら商品は一度たりとも見たことがない。


 ……一瞬、雑居地でシダレに注文した炭酸と思しき奇妙な飲み物が脳裏によぎったが、あれだってエナドリとは名乗っていない。


 恐らくは彼とその村での特産品が唯一無二のものだろう。


 それを赤の他人である俺が勝手に名付けてしまって良かったのか、という疑問がどこからともなく湧いてきたが……まああの店主も、名前くらいちゃんと聞いてくるだろう。


「そういえば、ユーは商人には興味ないの? 色々知ってそうだし、大成しそうなのに」


「商人か……」


 興味が無いとまでは言わないが、ニコニコ笑顔を作りながら金をふっかけてみたり、頭の中で瞬時に利益率を計算したりするのは苦手だ。


 それならば、ある程度モンスター相手と割り切って剣を振るう方が楽かもしれない。


「多分向いてないよ。それに魔法を使う機会が減りそうだしな」


「そんなに魔法が使いたいの?」


「もちろん。この世界で今、一番にやりたいことだからな」


「ユーは本当に魔法が好きなのね」


 朗らかに笑うアイと話していると、いつの間にか坂の手前までやってきた。


「それじゃあ、今度は先生も呼んでおくね」


「よろしく頼む」


 昼間にあまり食べなかったこともあり、お腹から届く空腹のサインが強い。


 夕食にはまだ早いが、先に席を取っておいた方がゆっくり食事をとれるだろう。


***


 たまには普段行かないようなところにしようと思い、冒険者ギルドにほど近い居酒屋に来た。


 いつもは人が多すぎて敬遠しているのだが、今日はまだそこまで人が詰めている印象はなかった。


「あれっ、ユーじゃないか! 久し振りに見た気がするぞ」


 偶然にもテーブルにはシルバーがいた。


「偶然だな。一緒に飲んでも良いか?」


「今日は仲間たちが来ないから一人で飲むところだったんだ。むしろ嬉しいぜ」


 テーブルを見ると、すでに何杯か飲んでいるらしく、空のコップが置かれていた。


「せっかくだから、今日はユーも飲めよ」


「いや、俺はそんなに酒は……」


「言うな言うな。奢ってやるから! すみませーん、エール二つ!」


 有無を言わさず注文された酒は、あっという間に机に置かれた。


「ここはエールだけはすぐ出てくるんだよな。それじゃ、乾杯!」


「か、かんぱーい」


 流れで軽く口を付ける。


 マズくは無いが、喉奥がひりつくような感覚にはどうしても慣れない。


「最初にソーセージも頼んだハズなのに、来るまでに三杯は飲んだぞ」


「むしろ良くツマミも無しに飲めるな」


「酒のツマミは酒だからな。いくらでもいけるぜ」


 『そんなバカな』と言いかけたが、机の上にすでに置かれている空のコップが何よりの証拠だろう。


 あっという間にシルバーは空のコップを一つ増やし、店員を呼ぶ。


「エールをもう一杯と、いい加減にソーセージを持ってきてくれ」


 そうして店員をキッチンへと確認に行かせる……が、やはり戻ってきたときに持っているのは酒だけだった。


「すみませーん、今焼いてるのでしばらくお待ちくださーい」


「どんだけ焼いてるんだよ、炭になっちまうぞ」


「すみませーん」


 酔っ払いの相手など慣れているのだろう。店員はそそくさと他のテーブルへ向かってしまう。


「じっくり焼いて炭になってたら、金払わねえからな……」


「絶対今から焼き始めてるだろ」


「かもなあ……」


「そういえばユーは最近どうしてたんだ? 何日か見なかった気もするが……」


 最近の出来事をかいつまんで話をしたのだが……。


「もういい、訳が分からん」


「聞いておいてそれか」


「財布を落として、剣を探したら攫われて……って、めちゃくちゃだろ」


「自分でも王都の中にしては随分な大冒険だと思うよ」


「たまにはいいニュースが聞きたいなあ……」


「いいニュースか……」


「お待たせしましたー」


 店員がソーセージを持ってきた。


 丁度いい焼き加減でハーブが香り、食欲をそそる。


 一本口に放り込むと、噛んだ部分から口に肉汁が注ぎ込まれ、熱さに驚く。


「おっ、結構いけるな」


「だろ? ここの店で一番美味いんだぜ、出てくるのは遅いけどな」


 味の濃さに釣られて、酒が進む。


「今日の良いニュースはこれかな。『メシが美味い』」


「随分単純だが、悪くない。いつかは毎日贅沢出来るようになるってのも目標になるしな」


 ニヤリと笑い、コップを傾けるシルバー。


「いつかは、か……」


 今はまだ、シルバーとアイと、ポプラしかいないけど。


 知っている人が増えたときには人を呼んで、店を貸し切ってみるのも面白いかもしれない。


 出来るかも分からない絵空事を話しながら、王都の夜は深まっていく。



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