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第15話 決着

 カラスへと狙いを定めた突きは、脇の下をすり抜けた。


 そしてそれに対する俺の切り札は、背中に隠すように仕舞っていたナイフ。


 それを左手で瞬時に抜き取り、右手の剣と併せて挟み込む。


 狙い合わせた通りカラスの持つ聖剣へと命中し、剣をハサミで抑え込むような構図となった。


「――――!」


 ここまでほとんど無表情だったカラスの顔に、始めて焦りが浮かぶ。


 剣を引き抜こうとするが、両手の刃で挟み込まれてカタカタと音をたてるばかりで簡単には引き抜けない。


「やれっ、ポプラ!」


 声に合わせて木刀を構えたポプラは、腕を狙って渾身の振り抜きを決める。


 流石に攻撃を食らうわけには行かなかったのだろう、剣を手放してその場を離れる。


 地面に落ちた剣を、ポプラが大切そうに握り締める。


「おかえり、オデュッティロフ……」


「そんなに大切なものだったのか?」


「……うん」


 鍔の中心にはめ込まれた宝石が、ほの赤い光を放っている。


 刀身の輝きは一等強くなり、剣も本来の持ち主を理解しているようにも見える。


「やっぱり使い慣れた剣が一番しっくりくるわね……さて、どうしてくれようかしら」


 己の手に取り戻した聖剣を構え直し、二度素振りをして味を確かめると、改めてカラスを睨んだ。


 この場の空気が再度引き締まっていく……と思ったそのとき、カラスは両手を見えるように高く掲げた。


 降参、のサインだ。


「これは……なんと、武器を奪っての完全勝利だ!」


 実況の声に盛り上がる観客たち。


 耳を塞ぎたくなるほどの盛大は盛り上がりは勝利をより強く印象付けさせる。


 俺をさらっていった太い男も歯並びの悪い歯を見せ付けながら歯ぎしりをするばかりで、何らかの行動を起こす気配は無い。 


 この状況ではとても文句を言える空気では無いしな。


 実況の男は金貨を持って俺の元へやって来た。


「おめでとうございます! これはあなたへの分け前です」


 どうやら掛け金のうち一定割合は勝者に与えられるシステムらしい。


 オッズに応じて貰える金額も大きく変化し、俺が勝つと予想した人間が非常に少なく、ダークホース出来ない存在であった俺にはかなりの額の金貨が手に入った。


「あなたたちもここでファイターになりませんか? 正式に所属してくれれば負けても一定の金が入ります。二人ペアでの登録も歓迎ですよ」


「え、えーっと……どうしよう、ユー」


「すみませんが、冒険者をしていますので」


「そうでしたか……もし気が代わったらいつでも来てください。歓迎しますよ」


 そう言って俺たちを解放してくれた。


「おい、ポプラ。今悩んでなかったか?」


「だってあの中で戦うだけで、買っても負けても金が貰えるのよ? 良いじゃない」


「あのなぁ……いくら負けても金が入るとはいえ、勝率が低けりゃそもそも試合に呼ばれもしないんだぞ。あれで稼げるのはホンの一握りだ」


 と言いつつ、ポプラならあるいは良い線行きそうだ、と思ったのは内緒だ。


「とにかく、これで一件落着だ。とっとと帰って、パーティーメンバーを探すぞ」


「え、あんたパーティー編成メンバーを探してるの?」


 きょとんとした顔で首を傾けるポプラ。


「ああ、と言っても貼り紙もなにもやってないから、これから準備するところだが……」


「あたしもこれまで一人でやってたからパーティーメンバーがいないのよ。だから、仲間になってあげるわ」


 何故かやや上から目線なのが癪ではある……が、前衛で火力があり、これまでソロでやっていたのならば大体のことは任せられるだろう。


「ありがとう。よろしく頼む、ポプラ」


「ええ!」


 花が開くように笑うポプラは、時々生意気でありながらも、無邪気な少女のようであった。


***


 パーティーメンバーとしてポプラが増えたので、その登録をするべく冒険者ギルドにやってきた。


 あまり広まってないとは言え、誘拐で何日かギルドに来なかった事に対して何か言われたらどうしようかと心の片隅で身構えていたが、二、三日空ける程度良くあるのだろう、特に言及は無く、つつがなくパーティー登録は完了した。


「ユーさん、この前のゴブリンを討伐した際の報酬をいただいていませんよね?」


「……あっ、忘れてた」


 貼り紙ついでに貰おうと思っていたのを、すっかり忘れていた。


 もっとも、全身筋肉痛で取りに行くことすらままならなかっただろうが……。


「こちら、ゴブリンリーダーの討伐に関与されたとの話をいただいておりますので、割り増し報酬とさせていただきました」


 カウンターにしっかりとした金貨袋が置かれる。


「ありがとうございます」


 平静を装って受け取ったものの、過去最高どころでない金が手元にあるせいで落ち着かない。


 ポーカーフェイスでギルドを出ると、赤い太陽が瞳を覗き込んできた。


 夕焼けに照らされた街で、見慣れた王都の露天売りたちの様子を見ていると、無事に生きて帰ってきたんだ、という実感が湧く。


 ゴブリンといい今回の誘拐騒ぎといい、いくらなんでも事件が多すぎやしないだろうか。


 やはり都会は治安が悪いのだろうか……。


「じゃあ、あたしはここで」


「おう、気をつけろよ」


「それはお互い様でしょ。じゃあね」


 ポプラとも店の前で解散し、手持ち無沙汰になる。


 せっかく懐具合が財布を落とす前よりも改善しているのだ。


 今度は無くす前に武器の話をしておきたい。


 そう思い、見慣れた鍛冶屋の扉を開けた。


「悪いが、今日はもう閉店……って、ユー!?」


「こんな時間に悪いんだが、武器の金だけ置いてって良いか? また落としたら立ち直れない気がする」


「もちろんだ……むしろよく生きてたな」


 目を見開き驚愕の表情を浮かべるその対応に、むしろこっちが違和感を持つ。


「なんだってそんなに驚いてるんだ? そんなに頻繁に来ていた覚えは無いんだが……」


「落とした財布を探しに行ったっきり戻ってこないんだぞ、ちょっとはこっちの気持ちも考えとくれ」


「あー……すまん」


 金を失ったせいでパニックになっていたこともあり、完全に忘れていた。

「それに、武器のメンテナンスもある。もっとちゃんと来い」


「……すまん」


 流石に心配を掛けてしまった申し訳なさがあり、あまり強く言い返せない。

「それより、武器の話だったな。また剣か?」


「他もそこまで詳しい訳じゃないしな。剣にしてくれ」


「ふむ。これだけ金があれば専用に打ってやることも出来るぞ。好みはあるか?」


「急に言われても、特に思いつかないぞ」


「なに、武器が欲しい時に言えばそれで良い。どの道すぐには作れないから、必要なら何か買っていくんだな」


「いや、しばらくはナイフで良い。すっかりお気に入りだ」


「そうか。そういえば、仲間がお前を探していたぞ」


「仲間?」


 パーティーメンバーのポプラはさっき会ったばかりだし、状況を知っている以上探すはずが無い。


 シルバー辺りだろうか。また飯を奢ることになるのだろうか……。



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