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おせっかい令嬢はハッピーエンドを目指します!~転生先は現代に似た異世界!?~  作者: 星降る夜
第1章

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68 パフェ食べたい!


 ぼんやりとした意識の中にいた。


 どこか遠くから人の話し声が聞こえる。日本語じゃ無かった。英語?


 「閣下がこんな子にご執心とはね」

 「無駄口叩いていないでサッサと入れ」


 何処かに降ろされた。身体が動かなかった。複数の話し声だけが頭の中に入ってきた。


 「閣下、ジョーカーから連絡が入ってます」

 「何と言ってる」

 「すぐに引き渡せないなら手を引くと」

 「わかったと伝えろ。途中で目覚めるとまずいから、あのチョーカーを付けろ」

 「あれは、王家の秘宝ですよね。そんな物を持ってきたんですか?」

 「ふっ、あれは王族にしか外せないからな。盗まれる心配も無い」

 「しかし、こんな子に?」


 話し声が途切れてまた意識が遠のいた。私の首元でチャカチャカ音がして、また周りの会話が耳に入ってきた。


 「何故つけられない?」

 「これは壊れているのかなぁ。閣下、他のはありませんか?」

 「バカな、2つと無い物だ。価値がわかっているのか?」

 「じゃあ、こちらの普通ので」

 「ダメだ。貸して見ろ」


 相変わらず、何かを私の首元でカチャカチャやっていた。


 「まさか……バカな……そんな事、あるわけが……」


 誰かが私の頬を撫でた。イヤだと言いたかった。でもまぶたが重たくて目も開けられなかった。


 「閣下、ジョーカーから催促が入ってます」

 「閣下、まずいです。すでに空港、封鎖されています」

 「閣下、本国から、予定変更の報告を求められています」


 複数の声が飛び交っていた。


 「誰が本国に連絡を入れた!」


 あせったような声もしていた。


 「ルビー王女かと」

 「しかたない、ジョーカーに取引はキャンセルだと伝えろ」

 「はいっ?!キャンセルですか?」


 ぼんやりとした意識の向こうに、慌ただしい足音が聞こえてくる。私はいまだに身動きすら出来なかった。夢の中で金縛りに遭った、そんな感じだ。指先すら動かせなかった。


 「閣下、日本の警察が動き出しました」

 「思ったよりも早いな」

 「港、封鎖。幹線道路封鎖されました」

 「ご指示を」

 「まずいな、ここを引き払う。急げ」

 「この子は?」

 「ジョーカーに引き渡せない以上この国から連れ出すのは無理だ。放っておく。行くぞ」

 「えっ?!このまま?」


 誰かがまた私の頭を撫でた…耳元で声がする。


 「また会おう」


 たくさんのざわめきや声は段々小さくなり聞こえなくなった。


 私の意識はまた遠くなっていった。






          ♢      ♢      ♢







 良く寝たような気がする。


 寝過ぎたかなぁ~~頭が重かった。まるで二日酔いの朝みたいだ。


 う~んっ。寝苦しくて寝返りを打った。


 「愛梨花ちゃん、良かった。無事で」


 んっ?誰だ?


 目を開けると龍一郎君と目が合った。龍一郎君が握っていた私の手を離すと、優しく頬を撫でた。


 えっ、ちょっと待って!


 いきなりのこのシチュエーションに頭が付いていけない。


 恋人や家族ならわかるけれど、どうなっているの?ぼんやりとした頭では訳がわからず目を瞬くだけだった。


 「何か覚えている?」


 へっ?と思って考えると、とても大事なことを思い出した。


 「パフェ食べる。食べに行きたいの」


 私が言うと龍一郎君が泣き笑いになった。何故?


 「あの、何かあったの?大丈夫?」


 龍一郎君に抱きしめられて私は混乱するばかりだ。周りを見れば白い壁に白い天井、もしかしてここは病院?


 「愛梨花、気が付いたか」


 龍一郎君の肩越しに、険しい顔のお祖父様といつものお医者様が入ってきた。龍一郎君が私を離すとお医者様が手を取って脈を診た。


 「覚えている事は?」


 覚えている事?


 「着替えをしに試着室へ戻って、その時に階段を降りた……その後は……」


 助けを求めるように龍一郎君を見る。龍一郎君は何故かお医者様に視線を投げた。


 「もしかして、私は階段から落ちました?」


 異世界小説では良くあるパターンだ。頭打って色々と思い出すの。でも先生は首を振った。


 「大丈夫、頭は打っていないよ」


 お医者様は私の頭を優しく撫でてくれた。


 「月光院様、ご安心下さい。薬の影響が抜けるまで少し安静にしていれば他に異常は無いです」


 お医者様はお祖父様に言う。お祖父様はホッとしたように頷くと眉尻を下げた。さっきまでは眉間に皺が寄っていた。お祖父様は壊れ物でも扱うようにそっと私を抱き寄せて背中をポンポンとたたいた。


 「何もなくて、良かった」


 私の耳元で呟くとそっと身体を離した。それから私の顔を覗き込む様に目を合わせてきた。


 「今日はおとなしくしているんだよ、良いな」

 「えっ?このままここにいるの?」


 龍一郎君の顔を見る。話が違うよ、パフェ食べに行くの!


 「そうだ。ここにいるんだ」


 いつもより低いお祖父様の声が病室に響いた。


 お祖父様は私の頭に手を置いてそう言い捨てると、見向きもせずに病室を出て行った。お医者様が急いでその背中を追っていく。


 私は初めて見るお祖父様の厳しい姿に涙が出てきた。龍一郎君が慌てたように背中をポンポンしてくれた。何故こんなに悲しいのか自分でもわからず、涙が止まらなかった。


 今までの愛梨花ちゃんの感情?我慢してきたものが、いっきにあふれ出すような感じ。両手で顔を覆って声を殺して泣いていると龍一郎君がそっと抱きしめてくれた。龍一郎君はお兄さんだからいつもこうやって雪二郎君を慰めているのかも知れない。


 「そんなに悲しそうに泣かないで、パフェ食べれるから」


 私は驚いて顔を上げた。そうか、私はパフェが食べられないからこんなに悲しいんだ。でもそんな事出来るのだろうか?お祖父様がダメだと行っているのに。


 龍一郎君はポケットから携帯を出すと何処かへ電話をかけた。電話を切ると、おどけたように片目をつむった。


 おおっ、お母様直伝の技、龍一郎君も使えるんですね。今、ハートが飛びました。周りの女子がダメになるやつです。


 「パフェ食べに行けるの?」

 「ふふ……共犯者もいるから大丈夫」


 龍一郎君はそう言うとナースコールをして点滴の針を抜いてもらった。もう良いんだろうか?しばらくすると病室のドアが勢いよく開いて、高島が飛び込んできた。


 んっ?休暇中だよね?お墓参りはおわったのかな?

 高島と目が合った途端、これはまずいと思って、龍一郎君の手を引っ張って後ろに隠れた。身の危険を感じたんだ。龍一郎君は何故か笑いながら背中をポンポンと叩いた。


 「お嬢様!」


 手に持っていた紙袋を放り投げて大股でベッドの脇に来る。龍一郎君が片手を前に出してストップをかけた。


 放り投げた紙袋は大丈夫?まさか、ケーキとか入ってないよね?


 こういう単細胞には話題を変えるに限る。


 「ちゃんと、ケーキ買ってきた?」


 私が言うと高島はえっ?と言うように一瞬固まった。思考をめぐらせた後、携帯を取りだして確認する。顔を上げると、怪訝な顔で私と目を合わせる。


 「お嬢様、いつ、頼まれましたか?」

 

 龍一郎君が面白いものを見た、という感じで口角を上げている。お手並み拝見ってところ?


 「ずっとお願いしていたのに。以心伝心ってうそなの?」

 「お、お嬢様申し訳ありません」


 高島の眉尻がどんどん下がっていく。龍一郎君の肩が震えている。


 「少しお待ち下さい。すぐに買ってきます」


 きびすを返して病室を出て行こうとする高島に声をかけた。


 「高島、休暇は良いの?」


 病室を出ようとした高島が再び固まった。思い出したようにこちらに来る。龍一郎君を押しのけて私を抱き上げた。私は急いで首に抱きついて危険を回避する。苦しいのはごめんだ。龍一郎君も慌てて高島の腕に手を添えた。


 「もう一生休暇は取りません」


 いや、それはまずいでしょう。労働基準法に違反しちゃうから。前世では働き方改革なんて言うのもあったぞ。


 「えっと、今度は、い、一緒に休暇取ろうね」


 本当はイヤだけど仕方ない。ドタキャンすれば良いよね。私が言えば高島は破顔した。


 龍一郎君のあきれたような顔と目が合った。


 へへ、言葉のあやです。


 所で何があったんだろう?


 試着室に向かった後の記憶がプッツリと切れている。


 記憶の無いことに慣れてきている自分が怖い。あまり不思議に思わなくなってきた。


 う~ん、まずいよね?


 あっ、パフェは前世でおなじみだった緑色のBOXで来ました。


 デリバリーです。ここにもあるとは……


 病院に来るとは思わなかった。







 愛梨花ちゃんはぼんやりとした意識の中での記憶を目が覚めたときに覚えていませんでした。

 夢を目が覚めたときに忘れてしまっているのと同じ様な感覚です。

 夢の中での会話は全部英語です。「」にしてしまいましたが。日本語と会話が混じっているときには『』にしています。


 高島が持っていた紙袋には、愛梨花ちゃんの着替えが入っていました。

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