57 水色のリボンの髪飾り
今夜はみんなでビュッフェだ。
クラス全員でのお夕飯は騒がしいことこのうえない。
大人な私はちょっと引いてしまう。
さすがに高島は他の幼稚園児の手前ここにはいない。陰険メガネ達と行動を一緒にしている。
それでも同じ船にいるというだけで安心感が違う。虎太郎君の顔も明るい。
ふふふ……デザートコーナーに見つけてしまった。チョコレートタワーがあるの。
前世では縁がなかったタワー系。
シャンパンタワーは勿論のことチョコレートタワーにも憧れてたんだ。
いつものようにうに、すみれちゃんと手をつないでいこうと思うんだけど虎太郎君がガッチリ手を握って離してくれない。
やっぱり怖い思いをしたからだと思う。
そう言えば、何となく口数も少ないし、大人しい。
すみれちゃんも苦笑している。
でもねビュッフェなの。色々取りたいんだけど。
仕方ない。ため息をつくと虎太郎君にトレイを取ってあげる。
「私が取るからトレイ持ってね」
虎太郎君は頷くと、やっと手を離して両手でトレイを持った。トレイにお皿をのせてあげる。
トレイを持ちながらこちらを見るその姿は、”まて”をしている犬なんだな。
見えないしっぽがブンブンしている。
気分はお母さんだよ!
とにかく食べれば元気が出るね。
男の子と言えばお肉だよね、ローストビーフを3枚にして貰って、フライドポテトに付け合わせの野菜。虎太郎君はパンよりご飯だね。
「先に食べてね」
虎太郎君のトレイをテーブルに置くと自分のを取りに行こうと立ち上がった。
えっ、虎太郎君もついてくる?
んっ?飲み物か?
「飲み物を取るの?」
「僕が愛梨花ちゃんのを取るよ」
トレイを私の手に乗せながら言う。なんだ自分で出来るじゃない。
「ありがとう」私は苦笑した。
最近は一緒に食事することが多いせいかお互いに何を食べるかよく知っているんだな。虎太郎君は私の食べそうなものを取ってくれていた。
んっ?ローストビーフそんなに食べられないんだけど。見れば5枚もお皿にのっている。
とがめるように虎太郎君を見れば
「余ったら僕が食べる」
ですって!自分の分ですか……
四人がけのテーブルにはもう翔君とすみれちゃんが待っていた。
席に着くと虎太郎君のお皿にローストビーフを乗せた。私は2枚で良いんだ。
「仲良しだね」
翔君が含みのある笑顔を向けてくる。
あっ翔君もローストビーフ欲しかったのか?
それとも虎太郎君が最近私の方ばかりに来るからジェラシー?
虎太郎君なら、いつでものしを付けてお返ししますが。
「みんな仲良しです」
すみれちゃんと目を合わせて笑う。
「愛梨花ちゃん、もう調子は良くなったの?」
「うん」
それから下の階で見た事を簡単に説明した。
陰険メガネからは色々黙っているように言われていたから、説明できる範囲でね。
「何となくおかしいと思ったんだ」
それから私達がブリッジに行っている間に王女様一行が来たときのことを翔君が話してくれた。
勲章を付けた紳士が何度も先生達にこれで全員なのか確かめていたと。
水色のリボンの髪飾りを付けていた女の子はいないかと聞いていたんだ。
そう言って3人で私を見る。
思わず頭に付けていたリボンに手をやった。
これのせい?
つまり高島から貰ったリボンが、あの勲章おじさんのボウタイと同じ色だったから目を付けられたんだ!
オイオイ高島、お前のせいだった!
すみれちゃんが私達がいない間に先生が言っていた事を教えてくれた。
お夕飯の後はアニメ映画の上映があるんだって、皆でわいわい遅くまで起きていられるなんて楽しい!
その時会場の入り口がザワザワと騒がしくなった。
「困ります。突然の訪問はお控え下さい」
何事かと思って、大きなローストビーフを頬張りながら入り口を見ると、あろう事か勲章おじさんと目が合った。
げっ!何故ここに?接触禁止じゃないの!
私はとっさに片手でリボンを隠すとそのまま食事を続けた。
知らんぷり、知らんぷり、心の中で唱える。
何だか足音が近づいてくるんだけど……怖くて顔を上げられない。
ホラー映画のようだ。
いきなりリボンを隠していた左手首を捕まれた。
驚いて声も出ない。
顔を上げると勲章おじさんと目が合った。
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