56 陰険メガネ降臨
私は助けを求めるように船長の顔を伺った。
船長はおやっ、と言うように少し首を傾げたが、大きな手を私達の肩にのせてポンポンと安心させるように叩いてくれた。
「大丈夫だ」
そう言うと立ち上がってドアの方へ行った。
どうやら入り口で勲章おじさんと立ち話をしているみたいだ。取り込み中で入室許可は出せないと言っているみたい。
ホッと胸をなで下ろした。何だか苦手なんだ。生理的に受け付けないって感じでダメなんだ。
しばらく話をしてから船長がこちらに戻ってきた。
副船長が何か船長に耳打ちをした。すると驚いた様に私達を見る。
「君達の言うように警備員が怪我をしていた。今救護室に搬送している。命に別状はない。ありがとう」
虎太郎君の両手を大きな手で包んだ。虎太郎君もやっとホッとしたみたいだ。良かった。
涙で虎太郎君の顔がグチャグチャだ。
カバンからハンカチとティッシュペーパーを出した。虎太郎君の鼻をかんであげよう。
お姉さんだからお世話は得意よ!
なのに虎太郎君はイヤがって逃げた。
「虎太郎君!?待ちなさい」
いつもはひっついてくるのに、どうしたんだろう?
追いかけると嬉しそうに逃げていく。何なんだ。
しばらくデッキで追いかけっこをして、疲れてすみではぁはぁ息をしていると、船長が声をかけてきた。
「元気が出たのなら下に行くぞ」
船長に連れられて下の階にある応接室に通された。
隙を見て虎太郎君にハンカチを渡した。
「はい、自分で拭いてね」
もうお世話はしてあげないんだから。
しばらくすると数人が入ってきた。
一番後ろに高島の姿を見つけると私と虎太郎君は思わず駆け寄った。
高島は屈むと私と虎太郎君を両手に抱きかかえた。双子のお父さんみたいだ。
心細かったんだ。ボコボコの映画みたいな場面を隠れて見たから。
ぎゅうっと首に抱きついた。それからポンポンと高島の肩を叩いた。
高島はキリッとした顔で入ってきたのに私と目が合うと途端に眉尻が下がって情けない顔になる。
それを最初に入ってきた背の高い銀縁の眼鏡のインテリが横目で見ていた。
あきれているな、と思う。でも良いんだ高島はうちの子ですから。
「この子達が目撃者と?」
銀縁の眼鏡を左手の中指ですっとあげると値踏みをするように私達を見た。
この少しかん高い声を聞いてピンときた。
こいつが陰険メガネかぁ~わかる気がする。ぴったりなネーミングに虎太郎君と目を合わせた。
虎太郎君もわかっている。思わず吹き出した。
「お嬢様!」
高島が小声でとがめるようにささやいた。
まずいよね、ごめん。口に人差し指を当てて黙った。
その様子を黙ってみていた陰険メガネが口を開いた。
「船長からは説明を受けています。君が月光院愛梨花ちゃんだね」
そう言うとヤレヤレというように頭に手をあてて大きなため息をついた。
んっ?何?私は何かした覚えはないし、初対面なんですけど。
不服そうな顔をしていたみたいで高島を見ると苦笑してる。
「この半年はトラブル続きなのでね。何故かいつも月光院家の影がちらつきます」
「お嬢様は関係ない!被害者であられる」
低い声で高島がくってかかった。珍しい。
「確かに、そうではあるのですが。今回は目撃者であると、しかも幼児である事から公にはしないように、上からお達しが来ています」
陰険メガネはソファーに腰掛けると私に目を合わせてきた。
「ここだけの話にします。記録も取らないので知っている事を話して下さい」
高島の顔を見ると高島が力強く頷いた。
私は虎太郎君と見た事を話した。後は勲章おじさんが苦手な事を。
陰険メガネは頭が良い。話していて思った。
一を聞いて十を知るタイプだ。
私が何か他にも知っているんじゃないかと色々鎌をかけてきた。
でも言えないこともあるんだ。信じてもらえないこともね。
しかもこのタイプは証拠がないと動かない。話しても無駄だと思った。
「だいたいわかりました。また何か思い出したら高島君に伝えて下さい」
それからまた大きなため息をついた。
相当お疲れみたいだ。
王族関連なんて相当気を遣うものね。
「本当に君はトラブルメーカーだ。閣下にまで目を付けられるとはね」
えっ?聞き捨てならないんですけれど……
「まっ、こちらは上手く処理します。向こうとは接触させないで下さい」
船長に声をかけると高島をおいて他の2人は部屋を出て行った。
「高島は行かなくていいの?」
「大丈夫です。早いですが保護者としてご一緒します」
いやぁ~それを聞いて虎太郎君とハイタッチ。
やっと安心したよ~~~




