51 お姫様な気分
ホワイトデーの今日はお祖父様とディナーだ。
何が食べたい?と聞かれれば迷わずパフェだ。
先月のバレンタインデーには友チョコを頑張って作ったからホワイトデーもお返しがあるかな?と期待してしまう。クッキーの1枚でも貰えたら嬉しいんだ。
前世ではお誕生日が12月だったからクリスマスにプレゼントはなかった。”プレゼントはお誕生日にあげたでしょう”なんて言われて。
最も我が家では父がクリスチャンじゃないからと何もしなかった。
時々売れ残りのクリスマスケーキを買ってくれた。
何故売れ残りかって?次の日の26日に食べたからだ。それでも何だか嬉しかった。
つまり3月誕生日の私はホワイトデーに何か貰える可能性が低いんじゃないかと思ってた。
だから前もってお祖父様がディナーに行こうと言ってくれたのは凄く嬉しい。
朝からディナーのことを考えてうきうきしている。
幼稚園の帰りがけに翔君がすみれちゃんと私に小さな花束をくれた。
虎太郎君からは何もなかったから翔君がくれた花束が虎太郎君と翔君からて言う事なんだね。
2人から1つだけって、ちょっと寂しい気分。本当に虎太郎君ごめん。翔君は大人だね。翔君もごめんね。
家に帰ると寺森や厨房のスタッフからは美味しそうなサブレ。
焼きたて!最高!
高島からは小さなクマのマスコット。
買っている姿を想像してしまった。
大きな高島が小さなクマを手にしてレジに並んでいたら面白い。ふふふ……
頬の筋肉が緩んでニマニマしてしまう。
そんなところに、いつになく暗い雰囲気のお祖父様がやって来た。
あれれ?どうしたんだろう?
「愛梨花、今日は2人だけじゃなくなった」
何だそんな事なの。
「誰と行くの」
「ああ、東郷寺とな」
東郷寺のお祖父様とはお正月以来だ。久しぶりで嬉しい。
でもあまり喜ぶとお祖父様の機嫌が悪くなる。かといってイヤだと言うのも失礼だから困った。
「お祖父様も久しぶりで嬉しいでしょう?」
顔色をうかがうように見上げる。
「正月に会ったではないか、久しぶりではないな」
私を抱き上げると困ったように笑った。
その雰囲気で私にすまないと思っていることが伝わってきた。なんだそう言うことなら大丈夫なのに。
「お祖父様と2人も楽しいけど東郷寺のお祖父様ならご一緒も嬉しいわ」
お祖父様にほほえみかけた。お祖父様が私の頭にを撫でてくれる。
「愛梨花は優しいな。まだ小さいのだ気を遣うでない」
「お祖父様がお友達と楽しそうにしているのを見るのが好きなの」
お祖父様は少し驚いた様に目を見開くとしばらく言葉に詰まっていた。
今、変な間があった?どうしたのだろう?
「昔、同じ事を言っていた友人がいたな。愛梨花、あまり早く大人になるな。我が儘で良いのだ」
少し遠くを見て懐かしむようなお祖父様、学生時代を思い出しているのかも知れない。
「お祖父様、今日はパフェ食べる」
はっとしたように私を見ると、お祖父様は笑いながら降ろしてくれた。
「着替えておいで」
昔を懐かしむお祖父様を初めて見た。
お祖父様のいっていた昔の友人って誰なのかが気になる。
もしかしたら西園寺のお祖父様だったのだろうか?
虎太郎君のお祖父様はどんな人だったんだろうか?今度聞いて見よう。
♢ ♢ ♢
お祖父様が予約したレストランは住宅街の中にあった。
一見大きな門構えのお屋敷かなと言う雰囲気で門から入り口までの石畳には灯籠の様なライトがついていてリゾートホテルに来た様な気がした。
出窓にある大きな円形のテーブルに案内された。
ライトアップされた中庭に早咲きのしだれ桜が満開だ。綺麗……
お祖父様はおしゃれなレストランをたくさんご存じだ。
思わず先日を思い出して、お父様は来てないかと周りを見渡した。
キョロキョロしているとお祖父様と目が合う。
お祖父様が苦笑された。
「お父さんは出張中だ。日本にはいない」
お見通しだったみたいだ。
「えへへ」
笑ってごまかした。
レストランで私は何となくお祖父様が暗い雰囲気だったのがわかった気がした。
今日、お祖父様達2人は子守役だったんだ。
テーブルには東郷寺の兄弟に虎太郎君、お兄様まで並んでいた。3人じゃなかった。
どうりで千鶴がやたらと張り切って私の支度をしたわけだ。
今日は秋の音楽祭の時と同じ紺のワンピースに真珠のチョーカー。髪は軽くカールをかけてサイドは編み込んで後ろにリボンで止めている。リボンはワンピースとお揃いのレースだ。
サイズが全く変わっていない。私は成長していない?まさか……そんな事はないよね。
きっと気のせいだ。気にしない事にした。
「お正月だってフリースのパーカーだったのに、ご飯食べに行くだけで、何故ここまでおめかししないといけないの?」
カジュアルな装いの方が好きなの。パフェこぼしても大丈夫だし。
「今日は紅一点です。ちゃんとおめかししなくては」
千鶴が言っていた。幼稚園生には必要ないと思う。庶民の考えなのだろうか?
千鶴とのやり取りを思い出しながら周りを見る。
さっきお祖父様から言い訳のように今日、どうしてこうなったか、教えてもらった。
東郷寺のご夫妻はご夫婦でディナー、西園寺様のご夫妻はご家族3人でディナーの予定だったのを、幼稚園で私が今日、お祖父様とディナーに行くのを聞いた虎太郎君が割り込んできたのだ。
虎太郎君のごねる姿が目に浮かぶ。
西園寺様と東郷寺様の奥様方がご夫妻のディナーの予定があるとお話をされた所、子供達の話になり、虎太郎君のお母様が私達のことを東郷寺様にお話しになった。
それを聞いた東郷寺様が龍一郎君に話しをて龍一郎君が東郷寺のお祖父様に相談されたという話だった。
ちなみにお兄様は龍一郎君に誘われたらしい。
普通逆だよね、お兄様!突っ込みたい。
私は虎太郎君と龍一郎君に挟まれている。
虎太郎君の隣が雪二郎君、龍一郎君の隣がお兄様、そしてお祖父様達となっている。
お兄様からはホワイトといちごのキスチョコ。
虎太郎君は白いハート型の高級チョコレート。
龍一郎君と雪二郎君からはピンク色の花束とチョコレートの詰め合わせを貰った。
「愛梨花ちゃんのワンピースは去年の音楽祭の時に来ていたのだよね?」
雪二郎君が花束渡しながら聞いてきた。へぇ~良く覚えているんだね。
「そうなの。よく覚えていましたね」
「初めて会った時だからね。凄く似合っているよ」
「てへへ、ありがとうございます」
褒められると何だか恥ずかしい。
千鶴のおかげかな。龍一郎君からチョコレートの詰め合わせを受け取った。
「バレンタインデーにチョコレートを送ってはいけないことを知らなくてごめんなさい。来年からは気をつけます」
気になっていたことを龍一郎君に謝った。
「愛梨花ちゃんからのチョコレートは凄く嬉しかった。ありがとう。学校では先生からも注意されていたんだ。年々派手になっていたからね。気にしないでくれる?」
龍一郎君は私の手をポンポンと叩いた。良かった。気分悪くしたんじゃないかと思ってた。
虎太郎君にも言わなきゃ。
「虎太郎君、来年はもっと豪華なのにするからね」
私が見つめると、虎太郎君は照れくさそうに横を向いた。
「豪華じゃなくてももらえたらそれでいい」
虎太郎君は赤くなりながら言う。意外と照れ屋なんだな。
ほっこりとした気分になる。お姉さんだからね!
ホワイトデーの今日は皆に囲まれてプレゼントまでもらっちゃった!
円卓で騎士に囲まれたお姫様な気分。幸せ!