50 桃の節句
卒園遠足が水族館からクルーズ船になった。
最初は嬉しくて気がつかなかった。
王室、クルーズ、何か見落としている感じがするんだ。
実はあれからずうっと気になっている。
机の上で何回も書いてみる。王室、クルーズ?何だったけ?
う~ん思い出せなかった。
仕方ないから思いつける限りのパターンを考えてみた。
天災、竜巻や台風、地震に津波、テロ、またはテロに見せかけた暗殺。
今の季節だと竜巻と台風は除外出来る。地震は起きる可能性が低いのともうすでに起きたし、小説では確か2度はなかった。
王族もいるとなるとテロの可能性が高い。
厳しい警備の目をくぐって暗殺なんて考えられないけど、いつでも歴史を見ると味方があやしいんだ。特に警護関係者が敵の場合が殆どだ。
たとえば爆弾を設置するとなると、たまたま前日は見回らなかったとか、たまたま警備対象外だったとかだ。
お祖父様に相談するわけにはいかない。
皆が楽しみにしている卒園旅行がなくなってしまうから。
少なくても私は参加できなくなってしまう。
せっかく招待してくれた、虎太郎君のお母様にも悪いし、万が一何かあるなら現場にいた方が対処しやすい。
取りあえず前日ぐらいに高島に陰険メガネに見回りを強化するように頼んでみる。
そこまで考えて天を仰いだ。
”人知を尽くして天命を待つ”かぁ~~~!!!
「愛梨花ちゃん難しい顔してどうしたの?」
ティールームで天を仰いでいるといきなり目の前に顔が。
「キャッ!」
龍一郎君が上から顔を覗き込んできた。あ~ビックリした。驚くじゃない。
思わず飛び上がった私を椅子から落ちないように手を添えてくれた。
「ごめん、ごめん驚かせちゃったね」
あれ?まだ空手の時間じゃないの?
「今日、空手は?」
いつもならこの時間にはまだいないはずだ。だから油断してくつろいでいたというのに。
「臨時休校だよ」
当たり前のように龍一郎君は言うと近くの椅子に腰を下ろした。
学校帰りのお兄様もティールームに顔を出しす。
珍しい。いつもはお夕飯の時まで会わないのに。
「今日は何かあるの?」
「誕生日だろう」
お兄様があきれたように言う。
えっ?誰の?
プレゼント用意していないよ!私!
「だ、誰のですか?プレゼント忘れちゃったかも……」
しどろもどろで言うと龍一郎君が驚いたみたいだ。
「愛梨花ちゃん知らないの?」
頷くと、龍一郎君が大きな目をさらに見開いた。
うわっ!なんかまずい感じだ!
もしかしてお祖父様か!
丁度お祖父様がティールームに顔を出された。お祖父様に駆け寄る。
「お祖父様ごめんなさい。お誕生日なのに忘れてしまって。お誕生日おめでとうございます」
お祖父様は凄く悲しそうな顔をされて私を抱き上げてくれた。
お誕生日忘れちゃうなんてまずいよね。
いつなのか知らないし。どうしよう……
向こうからケーキのワゴンを押してくる高島と雪二郎君と虎太郎君の姿が見える。
私を見るとバースデーソングを歌い出した。
ここは一緒に歌わないと、お祖父様の顔を見ながら声を張り上げる。
お祖父様は困ったようにますます眉間の皺が深くなった。
んっ?なぜ?
不思議に思いながらも、バースデーソングの後に名前を呼ぶ。
「ハッピーバースデー、お祖父様!」『『『愛梨花ちゃん!!!』』』
んっ?私?
思わず自分で自分を指さすと皆が頷いている。
今日は私の誕生日だった?!
そう言えば小説で一緒に生まれた女の子は、桃の節句に生まれたから桃子と名付けれたのだった。
私は3月3日生まれなのね。実感ないな。前世は12月生まれだったし。
「覚えていないのか?」
お祖父様が心配そうに聞いて来る。私は苦笑いだ。
「うん」
お祖父様が私の頭を撫でながら「6歳おめでとう」とささやいた。
もう6歳になったんだ。
いつの間にか寺森や厨房のスタッフまでティールームに来ていた。皆忙しいのに。
「愛梨花ちゃん一緒にろうそく消そうよ」
虎太郎君が自分の誕生日の様に言う。
お祖父様に降ろしてもらうと一緒にケーキの前に立った。
ろうそくの火を消すと一瞬部屋が暗くなってパンパンと誰かがクラッカーをならした。
『『『『『お誕生日おめでとう』』』』』
一斉に皆に言われて固まった。こんなお誕生日は前世も含めて初めてだった。
視界が曇ってきた。
隣にいた虎太郎君がぎゅうっとハグをしてきた。後ろから誰かがそれを剥がしてハグをする。
皆にもみくちゃにされて泣き笑いだ。
最後はやっぱりお祖父様が抱き上げて救出してくれた。
「皆ありがとう……」
声にならない声でやっとそれだけ言った。
本当にありがとう。
皆で分けたケーキは少ししょっぱかった。




