48 チョコ作ろう
「すみれちゃん、おはよう」
1週間ぶりの幼稚園、昨夜は嬉しくて寝られなかった。
やっぱりお友達って最高!
「愛梨花ちゃん風邪はもう良いの?」
そうなの風邪で休んでいたことになっているらしい。
「うん、もう平気」
「へえ、風邪だったんだ」
翔君が後ろの席にカバンを置くと話に加わってきた。
その僕は知ってます的な態度イヤなんですけど。
「愛梨花ちゃんおはよう。翔、外へ行こう」
虎太郎君が翔君を誘って中庭へ行った。中々空気読めるようになった?
虎太郎君は先週も高島に空手習いに来ていたし、私も西園寺家にお花を習いに行ってる。
遊園地にも行ったから何だかんだと1番会っているかも知れない。
お互いに大分気心が知れてしまった。
小学校へ上がれば距離が出てくると思うんだ。
小説で虎太郎君は高校から入ってきた桃子ちゃんの事を好きになるはずだしね。
今だけ懐かれているんだと思う。
実は小説の愛梨花ちゃんは虎太郎君の事が好きなんだ。
中学校の時の運動会で虎太郎君とペアになったの。その時に頼りになる虎太郎君を好きになるんだ。
我が儘なお嬢様だけど異性に対してはもの凄く奥手で中々告白できない。
だから、余計桃子ちゃんとの事がわかったときに自暴自棄になってしまう。
家族から好きな人まで全てを奪われるような気がするんだよね。
小説の中では愛梨花ちゃんの周りにはろくな男の子がいなかった。
翔君は女たらしに育ってたし、東郷寺の兄弟もいなかったから。
大きくなってからの事はわからないけど私は皆の恋を応援するからね!
バレンタインデーも来週に迫っている。そろそろ準備を始めないといけないな。
そんな事を考えているとすみれちゃんから声がかかった。
「愛梨花ちゃん、バレンタインデーのチョコレート一緒に作ろうよ」
願ってもいない事、1人で作るより楽しいに違いないもの。
「うん」
笑顔で答えると、すみれちゃんと2人で作戦会議を始めた。
すみれちゃんとかぶっているのは虎太郎君と翔君。2人であげる事にした。友チョコだからね!
「うちでお姉ちゃん達と作らない?」
「えっ、いいの!」
嬉しい、すみれちゃんち行ってみたかったんだ。
「うん!お母さんも連れておいでって言ってたよ。愛梨花ちゃんは好きな人いるの?」
う~ん、幼稚園児の好きな人レベルがわからない。
「いないけど、すみれちゃんは?」
「いないかな?」
「お友達や家族にあげれば良いよね」
虎太郎君と翔君と東郷寺様の兄弟とお兄様に寺森、失敗作は高島にでもあげれば良いかな。
あれからお父様はまた出張で海外に行ってしまい両親は相変わらず不在だからいらないしね。取りあえず10個もあればいいや。
「すみれちゃんは何個作るの?」
「お姉ちゃん達にもあげたいから6個もあればいいかも」
「じゃあ2人で10個づつ作らない?」
「あっ、そうしようよ」
「決まりね」
バレンタインデーの前の日に2人でチョコを作る約束をした。
私はそれまでにカードとブリザードフラワーを用意する事になった。頑張るんだ。
メッセージカードは東郷寺様のお母様が張り切って作ってくれた。
カードには”いつもありがとう”とだけ。幼稚園児だからね私は。
東郷寺様のお母様がポツリと”雪二郎のお誕生日も近いのよ”と……
えっ?そうか、冬生まれだから雪二郎君なんだね。チョコレートは大きくしておこう。
急遽バースデーカードも作成。お母様が笑いながら手伝ってくれた。
ブリザードフラワーは虎太郎君のお母様が手伝ってくれた。
何故か虎太郎君のが1番立派に見える。お母様が作ったからだね!
すみれちゃんの家は外からしか見たことがなかった。
前世でお金持ちのお友達の家に行ったことがあったけどそこのお家と似ていた。
鉄筋コンクリートの3階建てでキッチンは2階にあった。
すみれちゃんが”小さい家でしょう”と言うけどこれが小さかったら前世の家は物置になっちゃう。
とんでもないです。
虎太郎君や翔君のお家が特別なんです!
うちもかぁ~~~
将来、自力でこんな豪邸に住める訳もなくうらやましい限りです。
チョコはすみれちゃんのお姉様達の邪魔にならないようにキッチンのすみで、クマさんの型に流していった。
チョコが固まるまでキッチンのすみで見ているとお姉様達のは本気のチョコ。
トリュフをつくっている。
本命がいるんですね!お話聞きたいなぁ。恋バナ大好き。
小声ですみれちゃんにお姉様方はおつきあいしている人がいるのか聞いて見たら、わからないって。
そうだよね、幼稚園児には言わないかも。
私には一生そんな事はないなと何処か冷めた自分がいる。
キラキラした顔で見ているすみれちゃん。いつか本命チョコあげるときは応援するからね。
バレンタインデー当日は幼稚園にチョコレートは持ち込み禁止だった。
車に用意しておいたチョコレートを帰る時に虎太郎君と翔君にすみれちゃんと渡した。
「愛梨花ちゃんからはないの?」
虎太郎君がすねたように聞いて来る。
2人からだと言ったよね?すみれちゃんと顔を見合わせた。
「それだけど?」
「虎太郎君、愛梨花ちゃんと2人で作ったんだよ」
下を向きながら石を蹴っている。何なんだ、それが人から物をもらう態度?
「ありがとう」
後ろから翔君が虎太郎君の肩を叩くと小さな声で言う。そのまま虎太郎君は顔も上げずに行ってしまった。
「2人ともありがとう」
翔君はニッコリ微笑むと虎太郎君を追いかけた。
ちゃんと友チョコあげたのに何なの?不機嫌て。
2個狙っていたのかな?食いしん坊な奴め。
それから東郷寺様のお宅で執事にチョコレートを言付けてから帰宅した。
もちろん寺森に、高島、千鶴に厨房のスタッフにもあげました。後はお兄様だ。
「愛梨花、今日は少し遅いんじゃないかな」
ニコニコ顔でお祖父様がやって来た。
あれ?今日、お祖父様は早くない?
手もとに残っていたチョコレートをあげると、嬉しそうに抱き上げてくれた。
なんだ、チョコ狙いだったんですね!
着替えてからリビングルームでお祖父様とおやつを食べながらお兄様の帰宅を待つ。
夕方にお兄様が紙袋2つに山盛りのチョコレートを持って帰宅した。
思わず用意したチョコレートを隠すとお祖父様が笑った。
「ほほう、凄いな。これじゃあ愛梨花のチョコレートはわしがもらうかな」
「お祖父様、いらしていたんですね。いつも龍一郎のほうが多いですよ」
そう言って荷物を置くと私の方に来て手を出した。
「愛梨花のチョコレートは?」
後ろに隠していたチョコレートを出した。
「お兄様はたくさんもらったのに良いの?」
「ああ、今年は龍一郎がもらわない宣言をしたから皆、僕に流れただけだ。迷惑な奴だよな」
えっ?もらわない宣言?聞いていないんですけど。
さっき届けちゃったんだけど!
「んっ?愛梨花、どうした?」
固まっていたらお兄様が顔を覗き込んできた。
年末以来お兄様との距離も少し縮まった気がする。
「東郷寺様にチョコレート届けちゃった……」
消え入りそうな声で言うとお兄様はチョコレートを受け取りながら片手で私の頭を撫でた。
「愛梨花のは気にしないと思うよ。幼稚園児だからね」
そうだよね。友チョコだしね。
来年からはあげるのやめよう。
心に決めた瞬間だった。
読んで下さる方が増えたので嬉しい限りです。いつもリアクション下さってありがとうございます。




