46 行くの忘れてた!
高島は私を見ると急いでこちらに来た。
顔がこわばっていたんだ。高島は最近勘が良い。
「お嬢様、どうしました」
そう言うとさっと抱き上げてくれた。
「高島携帯カメラにして貸して」
高島は何も言わずにポケットから携帯電話を出すと、カメラモードにして渡してくれた。
携帯のカメラで足早に去って行く女の人を撮った。左に曲がるときに顔が写ったと思う。
「何がありましたか、手に持っているものはどうしたんです」
一息ついたタイミングで聞いて来る。よく見ているんだね人の事を。
「愛梨花ちゃん顔が白いよ」
虎太郎君が私の手を取った。優しいところがあるんだ。愛情豊かに育っている証拠だね。
と、思っていたら、次々と容赦なく二人に質問攻めにされてトイレで見たことを説明した。
何だか警察の尋問みたいだった。
女の人のポケットから拝借した携帯を拾ったと言って渡した。
「慌ててたみたいでね、携帯電話を落としたの気がつかなかったみたい」
高島が疑うように目を合わせてきた。”眼力には負けない”と思いつつ下を向いた。
(取ったのバレた?)内心ドキドキだ。
「良いでしょう、大体はわかりました」
高島は険しい顔をすると私を抱いたまま虎太郎君の手を取って歩き出した。
いつもよりもぎゅうっと力が入っている。
「高島?何処へ行くの?」
真っ直ぐ前を向いたまま一言も喋らない。
ん?何だか様子が変だ。大丈夫か?思わず虎太郎君に目配せした。
黙ったままかけるように歩いて行く。
そのままサービスセンターに入ると、一目散に落とし物係に携帯電話を届けた。
すみのカウンターで私を離さずに何処かへ画像を送る。
サービスセンターを出ると、脇目も振らずに駐車場の車に入るまで一言も話さなかった。
虎太郎君はいつも空気読まないくせに何かを感じ取ったみたいで足早に歩く高島に一生懸命小走りでついてきた。
車に入るなり高島がハンドルにしがみついて大きなため息をついた。
後ろを振り返るといつになく低い声で話し出した。
「お嬢様、何度も目が合ったと言いましたね?つまり狙われていたと言う事です。一歩間違えばお嬢様が掠われていたのです。わかっていますか?」
高島の目が据わっている。まるで魔王降臨みたいな怒りのオーラが出まくっている。
私はただトイレに行っただけだ。
「トイレに行っただけなの」
下から高島を見上げてこてっと首を曲げた。トイレ行き損なったけど。
「いいですか、怪しい人間がいたら直ぐに戻ってこないとダメです。観察したり、ましてや携帯電話取るなんて、バレたらどうするんです。そう言うことは警察に任せるんです」
終わることを知らない高島のお説教。お願いポーズが威力を発揮していない?
携帯電話は拾ったと言ったはずだよね?
「昨日といい今日といい、お嬢様には危機意識がなさ過ぎです」
虎太郎君が心配そうに私の顔を伺って手を握ってくれた。優しい。
ここはあれだ、奥の手を使うしかないね。
引いてダメなら押してみろとはよく言ったものだ。んっ?逆か?まっどっちでも良いんだ。
後部座席から高島の首に抱きついた。
「お、、お嬢様な、何を」
焦る高島が面白い。とどめの一言を耳元でささやいた。
「心配かけてごめんなさい」
慌てて私を突き放すように剥がすと前を向いた。
「わ、わかれば良いんです」
よし!お説教強制終了。
「愛梨花ちゃん凄い。今度僕も父様にやってみよう」
虎太郎君が感心したように小声で言った。Good Luck !虎太郎君。
西園寺様もお説教しつこいのかぁ。
これからどうするのかなと思いつつ、忘れていた。
「高島、トイレ行くの忘れた」
「おむつにして下さい」
「ぶっ」
虎太郎君が吹き出した。
誤解だおむつはしていないよ!!!
「レディーに向かって失礼な!」
後ろから思いっきり高島の頭を叩いた。
そこに置いてあった、ティッシュペーパーのボックスでべちべちやって、ティッシュペーパーを丸めては前へ投げ込んだ。
虎太郎君も参戦してきたぞ。参ったか。
高島が両手を挙げて降参のポーズ。
虎太郎君と顔を見合わせてハイタッチ。
勝ったよ!
「わかりました。予約したレストランに行きますからそこまで我慢して下さい」
なんだ最初から言ってくれればいいのに。大人だから我慢できます。
ほっぺたを思いっきり膨らました。
高島は笑いながら車を出した。
虎太郎君がさっきからほっぺたをツンツンする。
うっとうしい奴め。