43 楽しいお稽古事
我が家に週2回空手を習いに虎太郎君や龍一郎君達が来ることになった。
高島は実は凄いんだね。東郷寺家や西園寺家ならいくらでも有名な先生に習えそうな気がするのにわざわざご指名だし。いつも眉尻下げてニコニコしているから強そうには見えない。少し見る目が変わった。そのうち私も護身術とか教えてもらおうっと。
私もおやつ作りに頑張っている。皆とおやつからお夕飯まで一緒に食べている。
ふふっ楽しい!
私は週に1回東郷寺家、西園寺家へお稽古に行く事になった。
今日は西園寺様お宅におじゃましています。
虎太郎君のお母様とはお遊戯会の時にお世話になって、我が家のお母様より親しいかも。ふんわりと優しいお母様が大好きだ。
虎太郎君はどちらかというとお父様に似たのかな、体格もガッシリしてきそうだしね。幼稚園児のこの時点ですでにかなり大きい。私が小さすぎるのか?
緊張はしないんだけど芸術センスの無さがバレてしまうのが、恥ずかしい……
「愛梨花ちゃんは、初めてなんだから楽しむことを覚えましょうね」
虎太郎君のお母様は優しくそう言って花の名前や花言葉を教えて下さった。
目の前には短く切りすぎた花が散らばっている。今度から花は切らなくて良いそうだ。用意して下さった手のひらサイズの籠にお花をさして今日の授業は終わり。思ったよりも楽しかった。おやつと共に虎太郎君と翔君がやってきて興味津々に籠のお花を見ている。
「すごいね、愛梨花ちゃんが作ったの?」
「お母様に教わった通りにです」
「今度僕にも作ってくれる?」
「へっ?お母様の方が上手ですよ」
虎太郎君のお母様が笑いながら紅茶のカップを置いた。
「虎太郎は愛梨花ちゃんのが良いのよね」
しかし下手なんだけど。
「まっ、そのうち作ってあげれば、練習だと思って」
翔君に言われた。しかたない練習作でもやるか。
「もらってもらえると嬉しいです」
ニッコリと営業スマイルで微笑んだ。
「じゃあ僕にもくれる?」
「いいですよ」
翔君には袖の下だ。いつか役に立つと思う。
「翔はダメだ。母様の作ったやつだ」
おっと、お母様と顔を見合わせた。これは気に入ったおもちゃを取られるのが嫌なタイプだ。
「虎太郎君にも翔君にも作りますね」
東郷寺のお母様のまねをして虎太郎君に向けて片目をつむった。ふふふ……どうだ!
虎太郎君は驚いた様に目を見開くと顔を背けた。なにっ?まるでひどい物でも見たように……
翔君が私の横で笑っている。が~ん、まだ修行がたりないのか。
「じゃあ、バレンタインデーに向けて作りましょうね」
虎太郎君のお母様が微笑んで私に言った。
家に帰るとすぐに鏡の前で片目をつむる練習をしてみた。
そんなに変?
よくわからなかった。
慣れないことはやめておこう。
西園寺様のお宅と違って東郷寺様のお宅はめちゃくちゃ緊張する。
お屋敷は広大で古き良き時代からあるような洋館だ。重厚な玄関に高い天井、重そうなドア。お母様は知的な美人。粗相なんてしたら大変。
龍一郎君も雪二郎君もお母様に似ている。将来はカッコイイが約束されている。
おまけに龍一郎君は油断も隙も無い小学生だ。
なんせ、人の心を読むのだ。行きたくない。絵は凄く下手だし。今日は風邪気味だって言おうかなぁ。
そんなことを考えていると千鶴がお迎えの車が来ました。と呼びに来た。
うちの車で行くのではなかったの?
「愛梨花ちゃんお待たせ」
ドアを開けて入ってきたのは雪二郎君だ。
「えっ?あっ!お迎えありがとう」
ニッコリと笑顔を作る。引きつっていないよね?イヤがっていないから。
「兄様が愛梨花ちゃんが緊張しているんじゃ無いかって。兄様は後で顔を出すから大丈夫だよ」
なんと、すでにお見通し?覚悟を決めて東郷寺家へ向かった。
考えるよりも産むが易しとはよく言った物。
今、私は笑いながら東郷寺のお母様と楽しくバレンタインデーに向けたカードを作っている。
いつの間にかさっきまでの憂鬱な気分は何処かへ飛んでいった。
そんなこんなで週に4回は賑やかな食卓を囲んでいるの。
他の3回はどうかって?
何と最近はお祖父様が我が家でご飯を食べるのだ。最初は寺森が恐縮していたけど最近は慣れてきたみたいだ。
そのせいなのかお父様とお母様は海外出張で家にはいない。特にお母様の海外出張は長いみたいだ。三ヶ月はいないらしい。
お母様はお祖父様が苦手だ。離婚されたお祖母様はもっと苦手だったらしい。伊集院家ね!わかる気がする。
逃げ出したわけじゃ無いよね?
空手の日は龍一郎君がいるからか、お夕飯にお兄様もご一緒する事が多くなった。
その後はお二人でお勉強まですることにしたらしい。龍一郎君の家庭教師がわざわざ来るんだそう。何でも龍一郎君の提案だとか。
お兄様と顔を合わせる機会が前よりは増えた。私とも少し会話もしてくれる。
もしかして、龍一郎君が私に気をつかってくれた?まさかね。
両親がいなくても私の保護者はお祖父様だから不自由なことは何も無い。
変に気を遣わなくてもいいから助かっている。
まっ、お父様には目を光らせてます。ハニートラップが心配だから。お母様ご安心して下さいね。
ふふふ……私がトラップ引っかけちゃうけどね。
どんなトラップしかけちゃおうかな?おやつを食べながらそんなことを考えていると思わず悪い笑顔が出ちゃったみたい。
「愛梨花ちゃん、何か企んでいるでしょう」
いつの間にか隣の龍一郎君が私の顔を覗き込んでいた。
「げっ!」
しまった。今日は東郷寺のお母様のお絵かき教室。
”愛梨花ちゃんこれは何を描いたの?”といつも聞かれる。
絵の才能は無い。そんな私はこのおやつの時間が待ち遠しい。
大抵は雪二郎君が一緒で龍一郎君はお夕飯まではいない。今日は早く終わったからとさっき来ていたんだ。
見透かす様な視線にいつも戸惑う。11歳のくせに生意気な、負けないぞとは思うものの油断してしまった。
「てへへ、秘密です」
笑ってごまかす。
「女の子には色々あるのよ」
東郷寺のお母様が助け船を出して下さったが、何だか意味深だよ!
東郷寺のお母様!!!
どういう意味ですか?
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