36 龍神様の祠
ロビーにいらっしゃっる東郷寺様のご一家は遠目からでもそこだけ光り輝くようなオーラが出ていた。
まるで有名な画家が描いた絵画のようで、どこぞの美術館にでも飾ってありそうなご家族。高貴で美しく近寄りがたい。
そこに中身庶民な私が行くのは勇気がいるし滑稽な気がした。
トコトコと精一杯のスピードで駆け寄って、東郷寺のお祖父様に新年のご挨拶をする。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
ぴょこっとお辞儀をする。
「おめでとう。今年も孫達をよろしく」
東郷寺のお祖父様はそう言うと私を抱き上げてくれた。驚いて目を丸くしていると頭を撫でてくれる。
「小さいままだな。たくさんお食べ」
笑いながら私を降ろしてくれた。
隣で立っていたお祖父様が何が食べたい?って聞くから”パン”って言ったら困ってた。
”おそば”って言ったら正解だったみたい。聞かないでよ!もう!
お昼食べたら龍神様の祭られている神社にお詣りするんだって。
だから龍一郎君達来たのか。”龍”つながりかな?
んっ?違う?
「僕の名前と関係あるかなと思ったでしょう?違うから」
はい!?
今、心読まれた?
内心あわあわしながら両手を頬に当てた。顔に出てた?
「えへへ」
笑ってごまかした。
名探偵は、”視線の動きで考えを予測する”って言うあれか!
龍一郎君と話すときは気をつけないといけない。嘘はダメだね絶対にバレるから。
さりげなく龍一郎君から離れると、雪二郎君の隣に並んだ。
これ以上心を読むんじゃ無い。安全地帯に避難、避難。ふうっ~
「愛梨花ちゃんの作っていたおやつ食べたいな」
「えへっ、嬉しい。後で皆で食べましょ。いちごは今朝摘んできたの」
ちょっと得意げに言ってしまった。たくさん作って良かった。クレープはあちこちに穴があいてるけど大丈夫だよね。
「楽しみだなぁ。クッキー缶も作っていたしお料理上手だね」
そこまでハードル上げないで欲しいな、雪二郎君。
「ただ作るのが好きなだけです。まだまだ下手だし」
後ろから龍一郎君が私達の肩に手を置いて顔を出した。
「僕も楽しみだな。クッキー缶も凄く美味しかったしね」
「ありがとうございます」
クレープは穴だらけだけど大丈夫かなぁ……皆さんが楽しみにしていると段々心配になってきた。笑顔が引きつる。(味は美味しいと思います)
夜は創作日本料理だからお昼は軽くおそばを皆で食べるんだそう。皆で天ぷらそばを食べた。実はこのおそば屋さんの脇にある山道を入っていくと龍神様の祠に出るんだって。
山道は結構な急斜面で舗装もされていなかったから、東郷寺のお父様は奥様の手を取って”気をつけて”なんて言いながら登っている。
仲良しご夫婦。良いなあ。
私は雪二郎君と龍一郎君が両手をつないでくれた。
これも仲良し?
階段を登っていくと急に視界が開けて、玉砂利が敷いてある境内に出た。正面に小さな祠があってここに龍神様が祭ってあるんだって。
こんな小さな祠に?
人も殆どいない。
だいたいおそば屋さんの脇道から神社なんて、案内板も出ていなかったからわからないよね。おそば屋さんの裏庭行くのかと思った。
龍神様の祭ってある神社だから、もっと大きな神社をイメージしてた。
これじゃ小さくて、とかげサイズ。
あれって思っちゃった。龍神様ごめんなさい。
拝殿で鈴をならしてお詣りをする。東郷寺様のご一家もそろってお詣りしている。
ここは隠れ有名な神社なのかな?
見晴らしの良い境内からは海や遠くの山まで見渡せた。山にかかっている雲が龍が天に昇って行くみたいに見えた。龍一郎君と雪二郎君に教えてあげる。
「見て、見て、向こうの山にかかっている雲、龍神様みたい」
雪二郎君が真上を見て叫んだ。
「虹がかかっているよ」
雪二郎君の指した方を見ると、祠の上に綺麗な虹が二重にかかっていた。
「ほほう、これは珍しいな。昨日の神社にも出ていたぞ」
お祖父様が言う。えっ?知らなかったんだけど。
「教えてくれなかった」
頬を膨らませて言うとお祖父様が”今良く見なさい”だって!
昨日も見たかったのに!意地悪!
龍神様の雲はお祖父様に教えてあげないって思っていたのに、龍一郎君がお祖父様達に教えてあげてた。
ふんっ!
何となく不穏な空気を感じたお祖父様がご機嫌取りに境内で白い龍のキーホルダーを買ってくれた。龍一郎君と雪二郎君と虎太郎君にも買ってもらった。
これだけじゃごまかされません。パフェ食べないと機嫌は直らないんだからね!
ふんっ!
今日は虎太郎君が来るからパフェはお預けかも。一緒に食べようって言ってたから。
早く帰っていちごのクレープシュゼット食べよう。コックさんが食べるときは呼んで下さいと言ってたから頼んじゃおう。
空の虹も消えてさわやかな空気が頬を撫でている。
境内の木々がさわさわと音を立てた。空を見上げるとキラキラした光の粒が舞っている。
(パワースポット?)そんなことを思って手のひらを見ると両手が金色に輝いていた。
「愛梨花ちゃん?」
龍一郎君が不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?」
「周りがキラキラして見えたの」
「貧血?」
龍一郎君が私のおでこに手を当てた。
「熱はないよ。でも手が冷たくなってきたね」
私の手を龍一郎君が両手で包んで暖めてくれた。
パワースポットかと思ったらただの貧血?そう言うことなの?
それで目の前がチカチカしたのをキラキラして見えたのと勘違い?
ファンタジーかと思ったら違ったのか。
まっ、良いか。
いつの間にか私の怒りも消えて龍一郎君と雪二郎君と手をつなぎながらホテルまで帰ってきた。
目の前にはいちごのクレープシュゼット!
やっぱり幸せ!!!




