32 遭遇
お祖父様の会いたくない人達なんだよね。親はと聞かれてもねぇ。
黙っているとたたみかけるように言ってきた。
「黙ってないで答えなさい」
般若の様な目をつり上げてこちらを睨んでいた。
ありゃ~前世ではこれをパワハラって呼んでいた。しかも幼稚園児は普通なら泣くよ。
「あなたに言う必要ありますか?」
真っ直ぐに目を見つめてキッパリ言うと、まさか反論されるとは思っていなかったみたいで、おばさんは一瞬鼻白んだ。
だけど幼稚園児だと侮っていてさらに命令してくる。
「口の利き方がなってないわね聞いたことに答えなさい」
ふんっ。パワハラにはくっしないぞ。
「知らない人に個人情報はお伝えできかねます」
きっと目を合わせて答える。
「なっ、何ですって」
おばさんは、こめかみに青筋を立てて、片手を振り上げた。ぶたれると思った。
「児童虐待、もしくは暴力で訴えます」
「生意気な」
パシーンと音がして、頬に衝撃が走った。痛いじゃないか。目に涙がたまるよ。
躊躇なく子供を叩くなんて常日頃やっている証拠だ。この人達どうしようも無い。よろけて尻餅をついた。
泣くもんか。ぎゅうっと口を結んだ。
「どこの馬の骨かもわからない様な子がここにいて良いわけが無いでしょ。支配人を呼ぶから待ってなさい」
おばさんが行ってしまうと、頬お押さえ手座り込んでいる私に、女の子達が土やら砂やらかけて来た。
性格悪い、君達。
「ねっ、水かけちゃおうよ」
一人がそう言って池の脇にあったひしゃくで水をかけ始めた。
これって、いじめでしょう?いつもこんな事をやっているのかな。
あの親にしてこの子達。大人しくしていれば、段々エスカレートしていく。
いいかんげんにしないと中身32歳が怒ったら怖いんだからね!見かけ幼稚園児だからってなめるんじゃない。そう思って立ち上がろうとした。
「お前ら何やってる!!!」
向こうから高島の声が聞こえてきた。
高島、起きたんだ。助かった。だけど、遅いよう~~~
女の子達はドスのきいた声に驚いて固まっている。
ふんっ、ざまあかんかんカッパのへっ。思いっきりあっかんべえをしてやった。
よろけて立ち上がると高島が抱き上げてくれた。
「パパっ!」
高島の首に抱きついたら、高島が固まった。おいおい、肝心なときに固まらないで!
「こ、これは?一体…どう言う状況ですか?」
「お父さんの振りをして」
小声で高島に言う。
高島は耳まで真っ赤になった。
独身なのにごめん。子持ちにしちゃって。
「ここは、貸し切りのはずですわよね!何故他の子が入り込んでいるのか説明して下さる!」
さっきのおばさんが支配人を引っ張って戻ってきた。
支配人は私達を見るなり真っ青になった。だよねぇ。
あ~あ、お祖父様が赤鬼に変身してしまう未来しか見えない。人ごとながら気の毒だ。
「あら、丁度良いじゃない。親かしら」
何も知らないおばさんが勝ち誇ったかのように言うけど自分の首絞めてますよ。
「う、う、うちの子、子が何か?」
高島、かみかみだから、しっかりして、ばばあに負けるな。
「ここはプライベートなのに入り込んできて、子供達に難癖をつけたのよ。教育がなってないわね」
うそです。何も言ってません。難癖をつけたのはそちらのお子様です。と後でお祖父様に言いつけちゃうんだからね。
「奥様、その辺で」
後ろから支配人がオロオロしている。中間管理職は大変だよね。前世サラリーマンを経験した身としては同情してしまう。くれぐれも赤鬼の怒りに触れないことを祈っているよ。
「私は何もしてないのに、あのおばさんがぶった」
「ぶたれた?濡れてますね」
高島が驚いた様に私の頬を見た。高島の雰囲気がいっきに戦闘モードに変わった。
「赤くなってます」
低い声で言う。
えっ!マンガみたいに手形がついていたら恥ずかしい。
「痛いからパフェ食べる。もう行こう」
高島の肩に顔をくっつけた。高島は頬をそっと撫でると頷いた。
「失礼する。支配人、後はよろしく」
おばさんはまだ何か騒いでいたけれど支配人がなだめていた。
部屋に戻るとお祖父様が起きていて、部屋の冷蔵庫の中を物色中。
私の様子を見ると驚いて握っていた缶ビールを落とした。コロコロと缶ビールが転がっていく。
あっ、今、飲もうとしてたな。
「愛梨花、何があった」
泥んこで髪は濡れて、みすぼらしくなっている私にお祖父様が慌てて近寄る。
高島の腕から私を抱き上げると、首にかけていた手ぬぐいで泥を拭いてくれた。
「パフェ食べる。お祖父様はビール?」
何事も無かったかのように言ったんだけど、お祖父様が頬が赤いのに気がついたみたいだ。
おでこに皺が寄って顔が険しい。
「高島、説明しろ」
「伊集院家の綾子様がお子様達とお庭にいらして、お嬢様と遭遇してしまいました」
お祖父様は詳しく高島から話を聞くと私の頬を撫でた。
「汚れたな、風呂に入っておいで、用意が出来たらパフェを食べに行こう」
濡れたし、寒かったからお風呂はありがたかった。
そうかあの人が伊集院綾子様。
お祖父様の娘で伊集院家にお嫁に行った方だ。
じゃあ女の子達は従兄弟?親戚?
うわっ先が思いやられる。小学校とか同じかも?
小説ではお祖父様はお祖母様が苦手だ。
そのお祖母様に瓜二つのお嬢様も苦手だった、
お祖母様は伊集院家から嫁いでこられた。
お祖母様は気位が高くお祖父様とはウマが合わなかった。
そんなご結婚が上手くいくはずもなかった。
お祖父様はそのうち、仕事に精を出しはじめて家庭を顧みなくなった。後日”新婚初夜にこの人とは上手くいかないと思った”と友人に話している。
それでも子供三人とは……
ちょっとお祖父様をジト目で見たくなる。
娘が伊集院家へ嫁いでいくと程なくお祖母様も伊集院家に戻られて私が生まれる前には離婚が成立している。
何となく小説に思いを馳せてしんみりとしてしまった。 実の子や孫にも会いたくないとは一体どれだけこじれてしまっているんだろう。
戦国時代から親兄弟の争いは多かった。だいたいこの世界はそれがテーマの小説じゃなかっただろうか?
お約束って事?ありゃりゃ~~~
髪を乾かしていると高島が心配そうに手伝ってくれた。
私の頬を気にしいる。鏡で見ると、もう赤みは大分引いてきた。
「ほっぺは大丈夫」
高島に笑いかけた。
出かけるから、フリースのパーカーに着替えた。
お祖父様の怒鳴り声がお風呂場まで聞こえてきた。
誰に怒っているんだろう?聞き耳を立てるけどヘヤードライヤーの音でよくわからなかった。
お祖父様は怒ると怖い。
いつも優しいだけじゃ無いんだ。皆に見せる顔が私の時とは違った。
「お嬢様、大丈夫ですよ」
不安そうな顔をしていたみたいで、高島がポンポンと背中を叩いてくれた。
元旦から怒ったらいけないよね。
部屋へ行くとお祖父様もフリースのパーカーに着替えていた。お揃いだ。
「パフェ食べに行こうか」
何事も無かったかのようにお祖父様が言う。
「遠いの?」
「少しな」
お祖父様もそっとしておいた方が良いのかも知れない。
半日ばかりの滞在で、慌ただしく三人で旅館を後にした。
海の方へ行く事にしたらしい。
お祖父様が時々電話で寺森と話しをていた。今夜泊まるところの打ち合わせみたいだ。
他の人とは鉢合わせしたくない。静かに過ごしたいな。だけどお正月って混んでいないんだろうか?
お祖父様にお任せだ。
ほっぺが少しヒリヒリする。早くパフェ食べたべたいなぁ。
ぼんやりと外を見ていたら、いつも通り車の中で寝てしまった。
「愛梨花、起きなさいもうすぐ着くから」
お祖父様が背中をポンポンと叩いた。ぐっすりと寝ていたみたいだ。
「ん?ここはどこ?」
まだ開かない目をこすりながらお祖父様の膝の上から起き上がる。
窓の外が夕焼けになっている。ちょうど海に日が沈む所だ。水面が日の光でキラキラと光っている。
「きれい。今日は日の出も夕日も見た。すごいね」
お祖父様の顔を見る。もうご機嫌は直ったかな?
お祖父様と目が合うと、お祖父様も嬉しそうに笑った。良かった。
「ここはいちごも、メロンも有名だ」
「おお!フルーツパフェ!!!」
楽しみ、楽しみ。
つたない文章が気になり少し直しました。




