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31 今日のお宿はどこ?


 今夜のお宿は山の上の旅館。ここの旅館にはお祖父様も久しぶりに来るんだって。


 旅館に着くまでに車の中で寝てしまった。


 車の振動ってたまらないんだよね。直ぐに眠くなっちゃう。


 運転する人は大変だと思う。


 うとうとしていたら、夢の中で真っ白な虎に追いかけられてお尻にガブッとかみつかれた。


 おまけに青い竜まで現れて、グルグル巻きで逆さづりにされた。


 「うっ、うっ、たすけて~~~」

 「愛梨花、大丈夫だ。起きてごらん」


 汗びっしょりで目を覚ますと、お祖父様と目が合った。


 「怖い夢見たのかな?」


 私が頷く。目が覚めても夢はしっかりと覚えていた。おまけに色も付いてカラーだった。


 「どんな夢を見たのか覚えているか?」


 夢の話をお祖父様にすると縁起の良い動物たちだという。本当?


 これが初夢?悪夢なんですけど。


 占いも、おみくじも、悪い事だけ信じてしまうところがあるんだ。御利益はもう食べてしまった?


 お祖父様が両手をパンパンと叩いてお祓いをしてくれた。


 今度魔よけの水晶もくれるって!


 お祖父様っありがとう!その道の人ですか?あやしい意味ではありません。悪しからず。


 よし、忘れることにしよう。


 山道をくねくねと行くと急に視界が開けた。


 見晴台の眺めの良い駐車場に車を止めると、脇の林道を歩いて行く。


 人が一人通るのがやっとなほどの幅しか無い。旅館の前まで車が入れないのかなぁ。


 今日は歩いてばかりだし。(歩いてないけど)


 緩やかな登りになっていて所々に木の根っこが出ている。


 「お祖父様、足もと気をつけてね」

 「愛梨花は優しいな」


 お祖父様が笑いながら手をつないでくれた。


 直ぐに木造建ての立派な建物が見えてきて、玄関ドアの所にいたスタッフが慌てたようにこちらへ走ってきた。


 スタッフが先頭の高島と何か話している。


 何を慌てているんだろう?荷物の事かな?私達何も持っていないし着替えも無いけど……


 お祖父様が手を上げて軽く挨拶をすると玄関では無くて反対側に案内された。


 林の中から別の建物が見えてきた。


 渡り廊下で続いた離れみたいだ。


 木の香りがする和風の部屋に2ベッドルーム。


 マスターベッドルームはリビングに併設されていて入り口に近いところにもう1つベッドルームがあった。


 お祖父様は支配人と何か話していたから私は気を利かせて部屋を見て回る。ふふふ……出来る子なのだよ。


 なんと露天風呂まで付いていた。


 お部屋は、男女で別れた方が良いよね?部屋割りを考える。つまり私は入り口の方かな?


 部屋に入ってベッドの上ではねていると、高島が入ってきた。


 「お嬢様はあちらのお部屋でお休み下さい」

 「えっ?でも男女はお部屋別じゃないの?」


 高島は頭に手をやった。頭が痛いみたいだ。


 「大旦那様とはご一緒は出来ません」


 遠慮しなくて良いのに。


 「でも……着替えとか困るし……」


 下を向きながら言うと


 「幼稚園児は困りません!」


 珍しく高島がきっぱりと言う。お祖父様と一緒はイヤだったんだ。


 せっかく一人でのんびりしようと思っていたのに高島に追い出されてしまった。


 仕方ないな、最近気がついたんだけど、お祖父様は周りの人に怖がられている節がある。話し方が威圧的でつっけんどんだし、普段は笑わないみたいだ。誤解されやすいのかも知れないな。


 「とにかく我々のことは誰にも言うな。ここには、もう来るな」


 お祖父様のいらだった声が部屋の入り口から聞こえてきた。あらあら、また誤解されちゃうから。


 だけど、どうしたんだろう、何かあったのかな?


 駆け寄るとお祖父様の手を握って顔を見上げると、おでこに皺が寄っている。朝日に照らされた赤鬼を思い出した。これは、かなりご機嫌斜めだ。何とかせねば。


 「おなかすいた」


 とっさに出た魔法の言葉。


 お腹が空くといらいらするんだって、前世でお婆ちゃんが言ってた。

 大晦日から元旦は睡眠時間も短くなるからゆっくりしないとね。


 「すぐにお持ちします」


 支配人がこれ幸いと部屋を後にした。お祖父様も怒ると、お説教が長いのかも知れないな。


 「ルームサービス?」


 お祖父様が私の頭にポンと手を置いた。私を見る目が優しい。だいぶ表情が和らいだかな?


 「向こうに専用のダイニングルームがあるんだよ」

 「お祖父様、クロワッサンとスープ、それにサラダと目玉焼きが食べたい」

 「今日は元旦だよ」

 「そっかぁ」


 おせち料理は苦手なんだけどなぁ。まっ良いか。


 ダイニングルームはガラス張りで中庭に面していた。


 寒くなければ窓を開け放つ事も出来るようになっている。


 高島は大浴場とメインダイニングの方へ行ってしまった。


 流石にお祖父様と”ずっと一緒は勘弁して下さい”とこっそり私に言ってた。


 お疲れ様です。意外に気を遣うんだね、心の中でねぎらった。


 運ばれてきた朝食はお雑煮とお重で、私のお重にはサラダに目玉焼きが付いていて、焼きたてのパンも持ってきてくれた。


 やったあ!何だかお腹空いちゃって。


 「愛梨花、あらためて新年おめでとう」


 お祖父様から家長の雰囲気が漂う。これがオーラ?お祖父様が大きく見えてきた。


 「お祖父様あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」


 ちょっと気後れしながら立ち上がると、ぴょこっとお辞儀をした。


 「今年は愛梨花をわしの養子に迎える。税金対策じゃがな。両親も了解済みじゃよ」


 お祖父様はポンと手を私の頭に置いた。


 「今までと何も変わらないから安心するんだよ」


 お祖父様の顔をジッと見る。前から聞きたかった事がある。私は決意を固めて切り出した。


 「あの……前にお聞きした事は調べてもらえましたか?」


 そろそろわかってもいい頃だと思うんだ。


 「いいか、よく聞くんだよ。愛梨花は月光院家の子供に間違いは無かった。ただ愛梨花の言った事も調べている。確かに同じ日に生まれた女の子がいた。まだ調べている最中だから心配はしなくて良い。良いな?」


 私の頭を優しく撫でた。


 そうなんだ、小説とはここも違うんだ。


 だけど少し心の重荷が下りた気がした。


 知らないうちに気にかかっていた。いつか皆と別れるんじゃないかって。


 ずっと一緒いられるんだ。ほっとすると頬の筋肉が緩む。


 「お祖父様、ご心配おかけしました。パパって呼びますか?」


 この際なんとでも呼んで差し上げます。


 お祖父様は急に変な咳をして、慌てて口元を押さえた。心なしか顔が赤い。


 「いや、それはまずい。今まで通りで良い」


 これはちょっと心が動いたな。ふふっ……お見通しですよ。


 「お祖父様ありがとう」


 それから目の前のジュースを手に取った。


 「乾杯!」


 私が上げたグラスに、お祖父様が笑顔でグラスを合わせてくれた。


 焼きたてほかほかのパンが冷めないうちに食べなきゃ!


 後で小説をもう一度おさらいしておこう。参考までにね。


 「お祖父様さっき旅館の人とお話ししてたのはなあに?」


 ここに着いてから何だか変なんだよね。さっきも、ちょっと不穏な雰囲気だったんだけど。


 「ああ、たいした事ではない。ただ本館の方は満員だから行ってはいけないよ」


 あっ、もしかしたら、お祖父様が会いたくない人が本館の方に誰か泊まっている?。


 私達、急に来たからね。


 「うん、わかった。ここにはいつまでいるの?お着替え持っていないから」


 女の子だからお風呂に入ったら着替えたいんだ。


 「着替えはあるから大丈夫だ。明日は本山の方に行くからな」

 「本山?」

 「海が見えるぞ」

 「お魚食べる!」


 食後はお祖父様も高島もお疲れで寝てしまったので中庭を散歩することにした。車の中で寝ていたから元気なんだ。眠くないし。


 旅館にあった花柄の浴衣に暖かそうな中綿入りのたんぜんを着る。靴下に靴?変かな?まっ良いか。


 中庭にでると小さな川が流れていて橋や滝まであった。お金掛ってそうだ。池にはお金持ちお約束の錦鯉が泳いでいる。


 手を叩くとこちらに寄ってきて口を水面に出してパクパクする。


 ウジャウジャしてなんか気持ち悪い。生き物は苦手かも。


 キャッキャッと子供の騒ぎ声が聞こえたので向こう側を見ると、振り袖を着ている小学生位の女の子達が羽根つきをしていた。


 振り袖ではねつきなんて初めて見た。


 前世ではテレビの中やアニメの世界で見た事がある。。すみで顔にバツやマルを付けたりするんだよね。


 私は、お正月に着物は着なかった。持っていなかったし、着物を持っている人なんて周りにいなかったもの。ここは古き良き日本という感じで良いな。


 ぼんやりと考えながらついずっと見てしまった。


 風にあおられて羽がこちら側に飛んできて一人の女の子と目が合った。


 んっ?何か威嚇された?


 「ねぇ、あの子さっきからいるんだけど」


 その子がもう一人に声をかけるとゾロゾロ女の子達が皆でこちら側に来た。


 何人いるんだ、5人?お正月に親戚一同でお泊まり的な感じだね。


 「あなた、どこから来たの?」

 「ここは貸し切りだってお祖母様が言ってたわ」

 「お正月なのにみすぼらしい格好だこと。勝手にはいりこんだんじゃない?」


 次々と女の子達が言ってくる。一緒に遊びましょうじゃなかったのか。


 お祖父様には近づくなって言われているからサッサと戻ろう。


 「ごめんなさい。間違って入ってしまいました」


 頭を下げて戻ろうとしたら向こうで話をしていた着物姿の女性がこちらに気がついてやって来た。


 「あなた、待ちなさい、親は?」


 げっ、何だか面倒くさい展開になってきた~~~


 

 




 

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