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おせっかい令嬢は悪役回避してハッピーエンドを目指します!~転生先は現代に似た財閥異世界!?~  作者: 星降る夜
第3章 王国

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167 古きものの気配


 「お兄様、最初にネックレスを学校へ持ってきたのはイザベラだって聞いているわ」


 エヴァ先輩は同意を求めるように私とレムを見る。

 私は頷いた。


 「高価なネックレスだったのか?」


 エヴァ先輩のお兄様の問いかけに、私はどんなネックレスだったか思い出そうとした。

 (……あれ? あの時、どんな色だったっけ)


 思い出そうとした瞬間、すぐそこにあったはずの記憶が、するりと指の間から抜け落ちた。

 掴めると思ったのに、触れた途端に形を失う。


(……どうして?)


 赤い石だったはずなのに――そこまで辿り着いた途端、

 頭の奥を針で刺されたみたいに、きゅっと痛んだ。

 もっと説明したいのに、上手く言葉にできないというか……。


 「赤い石のネックレスだったと思うの。誰かがルビーだって言ってたわ」


 何とか言葉を絞り出した。


 「……あれ、ちゃんと見たはずなのに」

 「なんでか、思い出せない」


 レムがポツリと言う。


 「ハロウィーンの仮装のために、お姉さまから借り受けたと聞いています」


 エヴァ先輩のお兄様は少し考えこむように視線を落とした。何か変なんだろうか? クラスの全員が見ていたはずなのに。


 「リオネル、何かおかしいか?僕の受けた報告も同じだぞ」

 「いや、学園からカデンツァ伯爵家に、ネックレスの返却をしようと連絡を入れたところ、伯爵家のものではないというんだ」

 「では、アナスタシアの個人所有物ということか」

 ローラントが呟く。


 12歳で個人所有の宝石だなんて、どれだけお金持ちなのかしら……。ちょっと想像もつかなかった。


 「子供なのに個人所有なんてあるの?」

 「ああ、カデンツァ伯爵家ぐらいならあるだろう。伯爵家の目録に載っていないだけならな。しかし……」

 「現物があれば、もっと判断しやすいのだが……」


 彼は少し考え込むように、机を指先でとんとんと叩いた。


 「学園が保管しているんだろう?」

 エルが尋ねる。


 「そうだが……どうにも落ち着かない」


 腕を組みそのまましばらく黙り込む。


 ただの返却手続きの話なのに、どうしてこんなに重い空気になるのだろう。

 誰も言葉にしない“何か”が、部屋の隅に沈んでいる。

 ——触れてはいけないもののように。


 ただのアクセサリーの話をしているとは思えない沈黙だった。


 「もしかして、誰も知らないとか?」

 「いや、古い記録を調べているそうだ。少し時間がかかると言っていたな」

 「そこまで調べるとは、何か引っかかるな」


 エヴァ先輩のお兄様は小さく言った。あまりよく聞き取れなかったけれど。


 レムが一点を見つめて呟いた。


 「……古いもの……良くない」


 レムの声が落ちた瞬間、空気が一段冷えた気がした。

 窓は閉まっているのに、足元から冷気が這い上がってくる。

 (ああ、確かに。前世の日本でも髪が伸びる人形とか聞いたことがあるわ)


 「科学的な根拠がなければ、迷信だな。それに子供の持ち物であれば、価値のないもので、目録に載っていなくて当然だ」


 エヴァ先輩のお兄様が、冷気を払うように言い捨てた。


 「子供の所有ならイミテーションが一般的だわ」


 エヴァ先輩が静かに言う。


 「いや、王家にも古きからの物は多い。迷信とは言い切れないが、子供に持たせるとは考えにくいな」


 めずらしくエルが神妙な顔をして答えた。


 「そうだよ、俺様も父上から、古い宝飾品には、家の歴史や因縁が宿ることがある──そんな話を聞いたことがあるぞ」


 口を開こうとしたローラントを、エルが慌てて押さえた。


 「ローラント、言っていいことと悪いことがあるんだ。いいな」


 エルの手で口を塞がれたローラントが、もごもごと言葉を飲み込んでいる。


 でも、彼の視線だけは、部屋のどこか一点に吸い寄せられたまま動かなかった。何もないはずの空間を見つめ、まるで“誰か”の動きを追っているみたいだ。


 つられてローラントの視線の先を追った瞬間、胸の奥がひやりとした。


 (……そこに、何が“いる”の?)


 何もないはずなのに、無性に目を逸らしたくなる。


 思わず息を止めた。目を逸らせばいいのに、体が動かない。


 「あれ、触っちゃダメ」


 レムが顔を上げて、エヴァ先輩のお兄様に言う。


 「あれ、良くない」

 「……そうか。ネックレスの件は学園に任せるとして──」


 リオネルが言葉を区切ったところで、エルが続けた。


 「……それで終わればいいんだけどな」


 エルが小さく呟いた。


 「問題はサァーシャのことだ。違うかな?」


 エルはそう言うと、真っ直ぐに私の顔を覗き込んだ。


 「最近のサァーシャを見ていると、どうも……気になることがあるんだ」


 エルの瞳は、優しいのにどこか探るようで、胸がざわついた。

 私の知らない“私”を、みんなが見ているような気がした。


 「私?特に何もないけど。お友達も出来たし」

 「サァーシャが自覚していなくても周りは気が付いている。違うか?」


 エルはそう言うと、龍一郎君と敬君に視線を向けた。2人とも黙ってうなずく。


 「後で詳しく聞かせてくれるね」


 「えっ? なぜ私に聞かないの? 私のことでしょう」

 

 私がエルの袖を引っ張るとエルは困ったように笑う。


 「もちろん、サァーシャの話も聞くよ。だけどね、自分じゃ見えないところもあるからね」


 今日は私がアナスタシアに対抗してお茶会を開いたことになっているらしい。


 でも、そんな誤解はどうでも良かった。


 前世32歳。子供じゃないんだから、それぐらいどうってことはない。お友達だってちゃんといるし、お友達は多ければいいってものでもないもの。


 ふと視線を感じて振り返ったが、誰もいなかった。

 背筋を冷たい物が走る。

 気のせいだと思いたかった。


 誰もいないわよね。でも、なぜか気になる。


 おそるおそるもう一度振り返る。

 やっぱり誰もいない。


 誰もいないはずの空間が、妙に重く感じられた。

 息を吸うたび、見えない何かが近づいてくるような気がした。


 ——まだ、終わっていなかった。


 ——まさか、これが始まりだったなんてね。



 いつも読んでくださりありがとうございます。

 だんだんと物語が動き始めてきました。次回は来週の日曜日に更新します。


 そして、「かぼちゃのパンツはもういらない~」はGW限定で連載再開中です。

 よかったらこちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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