森
翌日、僕は母の側で目覚めた。彼女はまだ寝ているようだ。昨日の飛行で疲れているのかも知れない。
昨日、砂浜の奥の森に入ると、僕達は生い茂る木々の中で眠った。
視界が悪く、何かに襲われないか心配だったが、結局そんなことはなかったようだ。
周囲には、幹が太く背の高い真っ直ぐな針葉樹が林立しており、葉の暗い影で赤黒い地面を覆っている。木々の隙間を、海からの冷たい風が吹き抜けていった。
身の丈ほどもある下草によって見通しが悪い。
しんと静まりかえった森の何処かから、唸るような叫び声が聞こえてくる。僕はその音に不安を煽られた。
母に早く起きて欲しかった僕は、彼女の口元を小突いた。最初に触った時よりも硬くなっているような気がする。
母が目を開けた。
『■■■■■■』
彼女はどこか嬉しそうだ。
母が身体をおきあがらせ、再び目を閉じた。
何をしているのだろうか。少し不安になる。
目を閉じて少しすると、母は僕の額の辺りに口を近付けた。
その瞬間、何かが僕に流れ込んできた。何処からともなく僕の中に湧き出たそれは、身体の中に溶けていく。
その何かは、僕の中で僕の中の何かを変えていった。頭の中に自分が持っていなかったはずの知識が次々溢れてくる。
その感覚に耐えられず、僕は再び眠ってしまった。