会話
目が覚めると、そこは母の背中だった。僕は、森の中を歩く母の背に乗っている。
僕が気を失った場所と違い、周囲には低木が増えていた。
つと身体に意識を向けると、違和感があった。原因は分からないが、何となく五感が冴えている気がする。
感覚器官からの情報が増えたようだ。
僕がきょろきょろと見回していると、母が顔を僕に向けて呼び掛けてきた。
『おはよう、体は大丈夫?』
母の言葉が理解出来た。
そのことに、驚きと喜びを覚える。同時に、僕自身もこの言語を理解し、使うことが出来るようになっていることに気付いた。
なぜ突然? と考えたところで、眠る前の事が頭を過る。おそらくあのとき何かあったのだろう。
「キャァャ」
返答しようとしたが、意味のある音を発することは出来なかった。どうすれば良いのだろうか。
そう考えた時、ふと気付いた。彼女の思考が伝わってくるということは、既に僕の思考も彼女に伝わっていて、読まれているのかも知れない。
『どうしたの? お腹すいた? どこか痛いの?』
どうやら伝わってはいなかったようだ。どうやって返事をすればいいのかと、改めて強く念じてみる。
『何か伝えたいの?』
今度は伝わった気がする。僕は肯定の意味を込めて頷く。
『そうなの? それなら伝えたいことを思考の表層に持ってきて。そうすれば、私が読み取れるわ』
思考の表層とやらはよく分からないが、先程のように強く念じると、大まかなことは伝わるようだ。
もう一度、気になっていることを念じて尋ねる。
『何故唐突にあなたの言葉が分かるようになった?』
再び念じると、明らかに先程とは違うことが起こった。
頭の中にあった思念が自然と明確な言葉になり、僕と母に精神的な繋がりのようなものがあることを感じる。
何が起こったか分からずに困惑していると、母が呼び掛けてきた。
『さすが私の子ね、もう話せるようになるなんて。でも、私のことはママって呼んでいいのよ。お母さんでも良いわ。それで、なんで言葉が分かるようになったのかというと、あなたが言語の恩恵を得たからよ』
どうやら、今回は考えが正確に伝わったようだ。




