本屋さんのコラ画像
本屋さんはメカクレ美人である。
普段は前髪で目元を隠しているため悟られにくいが美人である。
あえて言おう、美人さんだ。だからこそ今回のようなことも起きてしまう。
「って、ふにゃあ~!」
バイトに店番を任せて座敷でゴロネットとだらけていた読子はある画像に驚いて飛び起きる。
馴染みの掲示板で他順スレッドを眺めていたところに飛び込んだ一枚の写真である。
そこに写っていたのはとても馴染みがある顔だった。
「どうしました、店長?」
「番町くんは見ちゃダメ! 葵ちゃんを呼んできて」
読子は一郎を追い返して葵を呼んだ。
そして彼女に件の写真を見せる。
そこに写っているのは目元を味付け海苔のような修正で隠しているがそれ以上に大きな前髪を隠しきれておらず、口元には白い何かが付着しており、なおかつ修正で隠されているが何かを咥えている女性。
顔すらも隠すような髪型は特徴的すぎた。
「店長……男日照りを拗らせてこんなことをするなんて」
「誤解よ。浴衣を着ているから、昔のお祭りに行ったときの写真だとは思うけれど」
「つまり元カレとしたときの思い出の写真がネット流出と? リベンジポルノって奴ですかね」
「だから誤解だって。いかにもそれらしく加工しているけれど、白いのはケチャップを色補正した奴だし咥えているのはフランクフルトだし、ぜんぜんいかがわしい画像じゃ無いんだから」
「だったらコレは? まさか店長がおかず用に作ったコラが───」
「もう、葵ちゃんになんとかしてもらおうとした私がマヌケだったわ。いいから仕事に戻って」
「そんな、逆ギレしないでくださいよ」
自分の写真をいかがわしく加工したコラに動転した読子はつい葵に相談したが、彼女は茶化すだけで力にならなかった。
ひとまず他に出回っていないかと画像検索をかけたところ、みつかったのはメカクレー倶楽部という場末の単文ブログサイト。しかも検索結果に出てきたサムネイル以外は登録しなければ閲覧不可とまた厄介そうなところだった。
これはプロに任せるべきかと判断した読子はその道のプロに電話をした。
「かくかくしかじか───」
「───メカクレーねえ……ちょっとこの件、預からせてちょうだい」
「頼んだわよ、ヒカルちゃん」
読子から依頼を受けたヒカルはとりあえず部下に聞いてみることにした。
みたところメカクレー倶楽部はエロ画像やエロ動画の配信とSNSをくっつけたいかにもなコミュニティサイトのようなので、夜のオカズに困っていそうな独身男性として事務所の男性職員である座間を指名する。
「座間くんはメカクレー倶楽部っていうSNSを知っているか?」
「いや、全く。検索して出てくるサイトを見ても、あからさまに詐欺っぽくて知ってても登録しませんよ」
「やっぱりそう思うわよね」
この点は読子もヒカルも共通意見である。
それだけ怪しげなサイトであるがゆえに、誰かしらが内情を知ってやいないかと盥回しの最中でもある。
「ボーナス出すから、ちょっと見てきてよ」
「仕方がないですね」
ヒカルに頼まれた座間は仕方なく切り札を出すことにした。
いわゆる電脳ダイブと言われるSFでしかみないような特殊能力。さらっと使ったが一度使えばメインの能力も含めて一週間は再使用できないし、そのくせ五分ほどしか持続しない座間の奥義。
ヒカルや座間をはじめとして彼女たちサークルラインのメンバーはみな何かしらの異能を持っているが、普段は電池いらずの発信機で依頼された調査相手の足跡をつけるという、地味だがわりと重要な仕事をしている座間を休ませてまで使うこの特技は事務所的にリスクが大きい。
ここのところ座間を必要とする仕事がなかったことは幸か不幸か。
「凄いですよここ。エロ画像がいっぱいだ」
電脳ダイブでセキュリティを突破した座間の目に飛び込んできたのは膨大な量のエロ画像だった。コラも生写真も、二次も三次も揃っていたが共通しているのは一つ。その全てがメカクレ女性ということである。
どうやらこのサイトではメカクレ女性の画像をネットから自動検索し、エロコラしてアップロードするロボットプログラムが仕込まれているらしい。
そのことを座間がヒカルに伝えると、すぐさま彼女からのキルサインが下された。
「画像に罪は無いが、こんな詐欺サイトは修正してやる」
この時点で座間に残された時間は一分。
時間の許す限り彼は働いた。
「まずは問題の画像をデリート! セキュリティ、ロボット……詐欺に遭った人からの送金をリバース!」
残り時間が少ない焦りか、それともメカクレ美人画像に酔っているのか。座間の言葉はところどころおかしいがメカクレー倶楽部は高速で解体されていく。
さすがにこれにはサイト運営会社も黙っていないが、座間の能力によるファイアーウォールと警察への通報のコンビネーションに相手も仕返しできない。
ジャスト一分を使い切り座間があらかたサイトを破壊し尽くした頃には、サイト運営会社も仕返しできる状況ではなくなっていた。
「ミッションコンプリートっす!」
「でかした」
その日の晩のネットニュースには早速このサイトの攻撃事件が掲載された。
テレビのニュースはさほど取り上げなかったが、大小様々な掲示板やSNSではちょっとしたブームが起きて注目の話題となった。
無事読子のエロコラは闇に葬られたのだが、それを知る切っ掛けになったスレッドと元画像のことは読子も忘れていた。
それゆえに、一安心した次の日にまた読子は腰を抜かした。
「なんで今更こんなのが!」
翌日、再びネットサーフィンと洒落込んでいた読子はいつもの掲示板に立っていたスレッドに叫んだ。
読子自身も忘れていた大学生時代に取ったブログの写真、あのエロコラされた浴衣写真のオリジナルに、いやらしいショートストーリーが添えられて出回っていたからだ。
昨日の事件とかろうじて残っていたメカクレー倶楽部の足跡として運悪くロボットプログラムが収集した元画像が掲示板に出回って、住民たちの身内でだけ通用するコラ祭になっていたのだ。
この掲示板ではこういう文学画像はよく見かけるとはいえ、自分の写真でやられたらさすがに読子も恥ずかしい。
「ま、まあ……どうせヒカルちゃんくらいしかここにはこないし……」
この掲示板の規模ならば昨日の詐欺サイトのように大っぴらに拡散しないだろうと読子は腹をくくった。
確かに読子の読み通りに知人はあまりこの掲示板には寄りつかないので、指摘されないうちにコラは風化したのたが、一つだけ彼女にも予想外の失敗があった。
「なんでまたあの子の写真がここに? まあ身バレではないようなので、放っておけば問題なさそうですが」
読子の知らないところで、かつて読子が好きだった人がその画像を見て彼女を懐かしんでいた。
知れば読子も顔から火を噴くだろうが、コレは知らぬが仏だと連絡を受けたヒカルも彼も読子には黙っていた。




