黒百合の指の華
一日の仕事を終えて、読子は店の鍵を閉じる。
居間のテレビをつけて、夕飯の支度を始めようとした時分である。急な来客に読子は誰が来たのかとぼやく。
「ごめん、泊めてくれナイ?」
夜九時を回り、閉じられた戸を誰かが叩いていた。
聞き覚えのある声に、読子は鍵を開いて出迎える。
やってきたのは読子の古い友人なのだが、ワインの瓶と折り詰めをぶら下げた見るからに怪しい女がそこにいた。
「どうしたの? リーリエ」
「ちょいと急ぎの仕事があってネ」
酔いどれの名はリーリエ・月影。
日系ドイツ人で読子とは大学時代からの付き合いである。
急な仕事とは特殊な能力を持った人達からのもの。彼女もまた特殊な力を持っていた。
「ろくにパンすら食べられなかったから、ついつい頼みすぎちゃった。宿代がわりに召し上がってよ」
「これはこれは」
居間に招き入れて読子が愚痴を拾ったところによれば、研修会の講師として招かれていたはずなのに気がついたら異人狩りを押し付けられてクタクタになったという。
その足でようやく解放されたリーリエは馴染みの寿司屋で暴飲暴食を繰り広げ、食い残した寿司と酒をお持たせにして店から追い出されたという。
普段は遠方に暮らしているとはいえ、学生時代から十年以上の付き合いと言うことで、寿司屋もリーリエの扱いには馴れていた。
「もぐもぐ……あら、変わった赤身だと思ったら、鯨と馬の二層に握りじゃない。おいしー」
「ほうれ。お酒もあるからヨっちゃんもドンドンいきなサイ」
「魚じゃなくてお肉だからか、この赤が合うわね」
「でしょでしょ」
急に現れた旧友との愚痴と酒盛りで盛り上がる読子はにこやかになる。次第に酔いが回って赤らむ読子はゆらゆらと船をこぎだしてくる。
いくらなんでも酔いが速すぎると読子が小首を傾げる暇もない。力が抜けて倒れた読子はリーリエのしかかられた。
「重いって。どうしたのよ?」
「いくらこの時間だからって、ホテルのひとつやふたつはあるのにワタシはここに来たんダヨ」
そのままリーリエは顔を倒して、読子の髪にキスをした。
読子は前髪が隠れる目隠れなので、髪の毛と言ってもおでこの位置である。そしてリーリエの性癖を知っているからこそ、焦れったいと心の中でいぶかしんでしまう。
「ハイハイ。ムラムラしているんでしょ?」
「ぴんーぽーん!」
「だったら最初からそう言ってくれればいいのに。わたしだって万年日照りなんだから」
「だってヨっちゃんはそういう子じゃナイ。うぶな子を苛めるのは得意だけれど、相手もそっちの気があるとワタシ恥ずかしいし」
「めんどうなんだから」
今宵訪ねてきたリーリエの目的は読子そのものだった。
このリーリエ、何を隠そう女の子を性的な意味で好きな女である。男に苦手意識があるわけでもなく、機会があれば男性とも付き合ってみたいがそれ以上に女を好んでいる。
気砲術と呼ばれる特殊な術を身に付けているリーリエは、その応用で同業女性の処女を頂く趣味を持つ熟女なのだ。
アンチエイジングには事欠かないとはいえ、自分より若々しい読子やヒカルに嫉妬しつつ、友人たちと寝る楽しみを欲しているのが彼女であろう。
相手がヒカルならばうぶなので攻められるが、読子は手練れなので下手にせめても返り討ちにあう。故にリーリエは泥酔してからここに来ていた。
面倒だと思いつつもそんな彼女を読子は拒絶できない。それに性欲が我慢しきれないことが度々ある読子にとってもいい発散の場である。
素直になったリーリエに対して、その技を期待して読子も喉を鳴らす。
「ヨっちゃんは強敵だから、最初からフィナーレね」
リーリエは指に気を集めると、ピアノを奏でるように読子の胸の上で手を踊らせた。
弾む指先は読子の肌を服の上からピンピンと刺激する。流し込まれる性の気が読子の肌を熱くする。
うっすらと汗を流し始めた読子は服を脱ぎたいが、リーリエはそれを許さず指を止めない。ほかほかと暖まる肢体は雌の臭いをかぐわかせていく。
「イイヨ……いい臭いダ」
「リーリエは臭いフェチなんだから」
指を肩に移動させたリーリエは、そのまま顔を埋めて胸の臭いを肺の奥まで吸い込んでいく。ぷぱーと吐き出す息には酒気と雌の色が混じり、部屋のなかがたちまち淫靡な空気となる。
こんなところに童貞男子を連れこもうものなら、刺激に酔って猿のように盛ってしまうだろう。そんな空気に二人もまた酔いどれる。
「そろそろオクチ、頂くワネ」
そう言うとリーリエは目をつぶり、読子の唇を奪った。
舌を絡み付かせる二人はちゅぱちゅぱと水音を響かせる。
んぱーと息を吐く音と共に唇を離せば二人の間には唾液の糸がたらりと伸びる。
そろそろ頭のなかがぽわぽわと細かいことを考えられなくなってくる。つーっと指を上から這わせるリーリエは、読子の乳首をくにくにと突いた後に、ついに密林に手を添える。
「ひゃん♥️」
それからくにくにくちゅくちゅと絡み合った二人はウシミツアワーまで互いに女体を貪りあった。
翌朝、腰を痛そうにするリーリエに朝食の支度をしながら読子は語る。
「やっぱりその技、気持ちよすぎよ。でも調子にのってやり過ぎちゃダメだからね」
「ワカッテるわよ。それにワタシも乗り気になる相手じゃなきゃ本気は出さないっテ」
「ならいいんだけど」
「そういえば……最近のオススメは何かある? ついでにもらっていくカラ」
「そうねえ……なぎたんの新作がリーリエ好みだったわね」
「なぎたんかぁ……新作アニメじゃまだ売ってないか」
「最近は有料配信なら即日だし、そっちでチェックしなさいな。円盤が出てから一気というのもオツだけれど」
「配信あるのネ」
リーリエがたずねるオススメが百合成分のある漫画の類いなのは、付き合いが長いので読子にはすぐにわかる。とりあえず新作のアニメを進めた読子に対して、リーリエはスマホで動画配信の情報を調べてブックマークに登録した。




