表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本屋さんは引きこもり  作者: どるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/23

本屋さんとスライム

 本屋さんは本屋である。だが先代店主から引き継いだ相談屋ともいうべき稼業も営んでいる。

 稼業と言ってもそれでお金儲けをしているわけではないが、何かと彼女の稼業は様々な人に伝わって誰かを導いている。

 この日の客はそういった繋がりで訪れた人の一人だろう。だが彼女は読子の導きが欲しいわけではなかった。


「変なことを聞いてもいいですか。私の顔ってどう思います?」

「どうと言われても」


 この日の相談相手は須田伊夢と言う名の女性。年齢は二十一とこの店に来る人間としては平凡ではあるが、目の前にある大学の生徒ではないためその点では珍しい。

 読子の見立てでは彼女の容姿は人並み程度であろう。人並みと言ってもむしろ美形の域であり、その容姿に悩むのであれば本当の意味でブサイクな人に失礼なほどではある。


「……そうね、普通かしら?」


 普通と言われて伊夢はどこか落胆した表情を一瞬だけ見せる。そしてそれを胸の奥に隠すと、彼女は読子を見つめながら相談を続けていく。


「この顔はモデルや芸能人を参考に作った顔なんです。例えば安野乗子とか」

「どういう事かしら。整形美人ってやつ?」

「突飛もない言い方になるので言いにくいのですが……実は私、人間じゃないらしいんです。妖怪だか悪魔の末裔らしいとは医者の人は言っていましたが、そのお陰か顔をある程度自由に変えられるんです。変え終わるまで時間がかかるので今すぐにはできませんが」


 どうやら伊夢の悩みは自分が人間ではないという話らしい。

 確かに読子は一目見たときから彼女からは異質な気配を感じてはいたが、世の中には無自覚ながらに異能の才を眠らせる人間というのはわりと多いのであえて詮索していなかった。ただそれが悩みであるのならと読子はそのことについて話す。


「そうなのですか。やはりと言うべきかもしれませんが、それがアナタの悩みですかね」

「やはり?」

「普通の人間と違う人っていうのは、なんていうかこう……鼻にもわもわって何かを感じちゃうんですよ」

「そうなんですか。人魚姫の魔女って通り名も伊達じゃないんですね、ふふふ」


 相手次第では頭がおかしい人と一蹴されそうな告白をなんとなく感じていたと片付ける読子に伊夢も少し笑う。

 それから手を横に振って否定の意思を伝えると、伊夢は本題に入った。


「まあ、こんな話を先に出したら勘違いされても仕方がないのでこれ以上はいいませんが……相談したいことと言うのは私の本当の顔についてなんです」

「あら、これはとんだ早とちりを……って、わからないの? 顔を変えすぎて忘れてしまったにしても、家族や友人なら覚えていると思うんだけど」

「私の顔は二年前に事故にあって、一度ぐちゃぐちゃになったそうです。それ以来、記憶が欠けてしまっていてわからないんです。両親もそのときに先立っていますし、化物としての力に目覚めていなかったら私も死んでいたほどに酷い事故だったそうで。今は病院のすすめで似たような人達の団体で働かせてもらってはいますが、昔の知人とはもう何年も会っていないので聞ける相手がいないんです」

「それは大変ねえ」


 読子は伊夢の略歴をまとめて大変と返した。それに読子は悩みを聞いてあげることはできても、作り替える前の顔を知りたいという彼女の願いには答えられない。

 無理難題にさてどうしたものかと読子も首を捻る。

 トリックを使えばおそらく顔を探ることも可能であろう。だが無くしたものを取り戻す願いを叶えた場合のリスクを考えると読子としてはおいそれとすすめるわけにはいかない。


「……ごめんなさい。本当の顔を知りたいっていうアナタの悩みに、わたしから答えを出してあげることはできないわ。今の暮らしに折り合いをつけられるように相談に乗ってあげることはできるけど、それはアナタには不要だろうし」


 ここまでの鑑識で、読子は伊夢の相談が言葉通りに『本当の顔を知りたい』以外にはないと見抜いていた。掘り下げればちょっとした悩みはあるだろうが、言い換えるなら彼女の願いもその『ちょっとした悩み』の範疇でしかない。


「どうしてもと言うのなら、その事故より前に持っていた持ち物があればわかるかもしれないわね、ダメ元だけど」


 残る手立てとして読子は以前にも活躍したある道具を持ち出した。相手は自分自身が不思議寄りなのだから詳しい説明は不要であろうと。


「これは?」

「俗に言うサイコメトリーが出来る道具よ」

「おお! これで私の過去を視るわけですね。早速お願いしますよ」

「残念だけどそのままじゃダメよ。このサイコメトリーライトは生身の人間には使えないから」

「でもさっきはダメ元だって……」

「それはアナタの持ち物に過去のアナタの顔を記憶したものがあるかどうかって意味よ」


 過去視のアーティファクトは強力すぎるがゆえに対象の過去を奪ってしまう。モノに対して使うのならば連続使用ができないだけだが、人間に対して使えばその人の過去を塗りつぶして無垢にしてしまう。

 読子はそのような使い方などしたことなどないが、先代はむしろこれを記憶を消す道具として使っていたことを読子は知っていた。


「───そうですか」


 読子の言葉に深いため息をつくと伊夢は軽く頭を下げた。


「昔の持ち物は一つも残っていません。折角だけど諦めますよ」


 それから読子としばらく世間話をして伊夢は去っていった。結局のところ今回の相談は異能持ちに能力をカミングアウトされただけに終わり、読子は少し肩を落とした。

 お人好しだからこそこんなことを続けている読子にとっては残念な結果であろう。


「───例の魔女と同じかは解らないけれど、私の力にも驚かなかったし強力なアーティファクトも所持していたわ───」


 読子がため息をついている頃、店を出てある程度離れた場所で伊夢は電話をかけた。

 彼女は自分が世話になっている団体の人間に読子について報告をする。それが何かはまた別の話になるが、読子の魔女としての本能はその予感に大きなくしゃみをくしゅんと出した。


「花粉?」


 それを読子はただのくしゃみと軽くとらえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=503225795&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ