紅の騎士達──龍の騎士達──の誕生
単独の制圧から帰って来たリシェアオーガを、父親と伯父が待ち構えていた。説教の為かと思いきや、労いの言葉を掛けられた当の本人は、ほっとしながら微笑む。
その微笑と先程の闇の騎士への微笑……それを自分に向けられたいとレナフレアムは欲してしまい、無意識でリシェアオーガを見つめていた。
彼の視線に気が付いたリシェアオーガは一瞬何事かと思ったが、まだ言っていない言葉を思い出す。
「レナフレアム、アンタレス、ランナ、皚龍、御苦労だった。
取り敢えず、奴等は全部滅んだから、ゆっくりと休んでくれ。」
同行した騎士達と剣士へ極上の微笑と共に労いの言葉を掛ける彼を見て、レナフレアムは動揺した。恋い焦がれる様に望んでいた微笑を向けられ、心の平穏を失い掛けたのだ。
この想いには彼自身、経験があった。
初めて炎の騎士と出会った時に同じ事が起こり、その末、彼はある行動をしたお蔭で心が落ち着きを取り戻した。
しかし、その経験が蘇る前にレナフレアムは無意識でリシェアオーガの前に赴いた。
「如何した?フレアム??」
不思議をそうな顔をする戦の神の前で跪き、己の剣を目の前に置く。そして、騎士が主と神々へ捧げる礼をして心からの言霊を告げる。
『我、炎光の精霊レナフレアムは、此処に不変の忠誠を、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ様へ誓います。その証に、この剣を捧げます。』
高く掲げられた炎光の精霊剣にリシェアオーガは驚いた。
まさか、本当にレナフレアムが自分に忠誠を誓うとは思わなかったのだ。
心からの言霊とは判っていても彼自身が意識的にしているとは考えられなかった為、リシェアオーガは彼へと声を掛けた。
「フレアム、己が何をしているか、気付いているか?」
掛けられた言葉にレナフレアムは我に返った。
跪いて己の剣を両手に持ち、頭の上に捧げた姿をしている事を知って困惑し出す。無意識で行ってしまった自分の行動に後戻りも出来ず、そのままの体制でいるしかなくなった彼へリシェアオーガは、何とも言えない顔を向けた。
目の前の知己の精霊から無意識で従属の誓いをされたものの、如何返そうか思案した挙句に己が左手を捧げられた剣へ置いた様だ。
『炎光の精霊・レナフレアムよ。我、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガは、そなたの剣と志、しかと受け止めた。
我が精霊騎士として永遠に我が傍で仕えよ。』
リシェアオーガの承諾の言霊を聞いたレナフレアムは、己が心に歓喜が湧きあがるのを感じた。そして、今度は意識的に返す言葉を告げる。
「我、炎光の精霊・レナフレアムは、此の場、此の時から、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ様の精霊騎士として、永遠に御傍で仕えさせて頂きます。
…リシェア様、我が新しい主、如何か私を…精霊騎士として、ずっと御傍にいさせて下さい。」
真の主を永遠に失ったと知った時点で新たなる真の主を得るとは、レナフレアムも思っていなかった。然も今度の主は永遠に仕えられる相手。
余程の事が無ければ、主が変わる事は無い。
もし変わるとすれば新しい主に譲られるだけだが、それは前の主から最も信用している騎士という事でもある。そう、前の主に次なる主を託される…騎士を託すで無く、主を騎士に託すという意味合いを持つ、譲渡なのだ。
この場合、騎士にも選ぶ権利が与えられる。
そのままの主でいるか、主を二人にするか、新しい主のみにするかの三択だが、騎士にとって重要な事である。この権利をも今のレナフレアムには与えられたのだ。
だが、今のレナフレアムには唯一の主しか必要で無かった。
リシェアオーガと言う、新たな主…、その主から離れようとは思わなかった。
「やっと、主を神に決めたか、全く…フレアムの頑固さはレルにそっくりだな。」
空の神の呟きを切っ掛けに光の神も言葉を漏らす。
「そうだな、フレイルの方は、かなり柔軟だからな…きっと、二人とも喜ぶぞ。」
守護神達から両親の名を告げられ、レナフレアムは恥ずかしそうに俯く。
自分達と一緒に生きて欲しいと願う両親へ、申し訳ないと思いつつも人間を主に選んでいた彼。
同じ人間の魂の転生体…それが彼の主であったが、その魂が精霊となって主と永遠の別れを余儀無くされた。
真の主を失い、新たな主を捜すしかなかった彼がやっとの思いで見出せた主。
あの魂が導いたかの様に目の前には新しい主である神がいる。そう思った矢先に一緒にいた精霊騎士から声が掛る。
「良かったな、フレアム。これで神龍達とも一緒にいられるぞ。」
「そうだよ、コウ達が知ったら喜ぶよって、エルア…もう教えたの?」
風の神龍の忍び笑いの態度で、この事が神龍達に知られたとランナは気が付いた。
残念がる彼へエルアが楽しそうに告げる。
「ランナ、俺が風の龍って事を忘れたか?
こんなに嬉しい情報ならば、素早く仲間達へ知らせるのは当然の事だぞ。他の神龍は勿論、べルアもアルも、ケフェも喜んで居るぞ。」
序でにとばかりに向こうの様子までも伝える彼へ、敵わないな~とランナが呟く。
彼等の遣り取りを守護神達は微笑ましそうに見つめていた。
新たな紅の騎士達の誕生…。
リシェアオーガの許に集った騎士達…後の世で【龍神の騎士】あるいは、【龍の騎士】とも呼ばれる彼等の存在は、これから後も語り継がれて行くであろう。