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スイーツ(物理)系ヒロインたちが支配する! おかしなセカイ  作者: 八雲 焼藻
2. メルティチョコレート

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第七話 カラメルリベンジ

「どきたまえ! ヴァニラ様のお通りだ!」


「ナンキン……少し騒がしいぞ?」


 ヴァニラは呆れながらも、襲い掛かってくるゴプリンを風の魔法で薙ぎ払う。


凍える風(フランダース)


 詠唱と共に、氷の風が身体に染みる。


「お前も戦えるはずだ」


「感謝するよ、ヴァニラ」


 爪を振るい、ゴプリンの群れを凍結させる。


 氷の彫像を飛び越えて、階段を駆け上がる。


 途中で段差が燃えていることに気付く。


 視線を上げると、フードを被った三匹のゴプリンが、上階から火炎の魔法を飛ばしている様子が見えた。


「アレはゴプリンシャーマン……魔法を使用する上位のゴプリン族だ」


 ヴァニラはそう言って、飛んできたファイアボールを風の魔法であしらった。


 こちらも氷の爪で相殺しながら、段差を飛び越える。


 階段を上り切った先は、大広間になっていた。


 手前にフードを被ったゴプリンが三匹。中央に大柄のゴプリンが立っている。


 広間の最奥には、金色の扉が見えていた。


「ひぃ!? ホブのアニキ! 申し訳ねえですが……接近戦じゃお役に立てそうにねえんで、後は頼みます!」


 三匹のゴプリンシャーマンは、一目散に退却した。


 大柄のゴプリンは長いため息を吐くと、モーニングスターを振り回し、棘の鉄球を回転させた。


「ここから先は、通さねえぞ? スポンジ野郎」


 怖気づく私を退(しりぞ)けるように、ヴァニラが前に出た。


「ゴプリーナの側近、ホブゴプリンか。我がヴァニラ・カボット・パンプキーナと知っての狼藉か? 返答次第では、国家反逆罪となるぞ?」


「……滅相もございません。ヴァニラ様はご自由にお通りください」


「我の使い魔であるナンキンは、駄目なのか?」


「そこの海綿猫又(スポンジニャンコ)は……おでの同胞、弟たちを傷付けた。いくらヴァニラ様の使い魔であっても、通すつもりはない」


「……使い魔の管理不足という点においては、我に否がある……承知した。ではナンキン、ゴプリーナと話をしてくるので、ココで待っていてくれるか?」


「……向こうのリーダーと話し合いをする以上は、力ずくで通して貰う訳にもいかないよね。ヴァニラに頼るばかりで申し訳ないけど、わかったよ」


 無理にコイツと戦っても、また無残に負けることは容易に想像できる。


 ヴァニラを信じて、待機することにした。


 ***


「よお、遅かったじゃねえか。ヴァニラ」


 扉を開くと、茨の鞭を握っているゴプリーナが立っていた。


 すぐ傍で、チョコミイラの少女が倒れている。


「拷問でもしたか? ゴプリーナ」


「拷問じゃねえよ、(しつけ)だよ。テメェだって自分の使い魔に反逆されるようなことがあれば、躾けるだろ?」


「……まあ、風呂を除かれた挙句、芸術批評と称して好き放題言われれば、そうなるな」


「……それは極刑じゃねえのか? アタシだってこんなことしたくねえんだけどよ、そっちの使い魔を(たぶら)かして弟たちを攻撃させたのは、許せねえよ」


「その件についてだが、我の使い魔は誑かされてなどいない」


「そう言いたくなる気持ちは分かるけどよ――」


「事実だ。ナンキンは自分の意志でゴプリンを攻撃し、彼女を誘拐した」


「……今の話は本当か? マミン・ボコパン」


 倒れていたマミンは、弱々しく起き上がった。


「……ナンキンは無事ですか?」


「ああ、生きている。心配無用だ」


 彼女は安心したように、大きく息を吐き出す。


「……申し訳ないのですが、ヴァニラ様の言葉は正しいです」


 するとゴプリーナは、マミンの胸ぐらを掴み上げた。


「テメェ……どうして、アタシに嘘をつきやがった?」


 すかさず風の魔法を放ち、ゴプリーナとチョコミイラを引き剝がす。


「よせ、ゴプリーナ。穏やかな彼女の事だ。ナンキンが処刑されるところを見たくなかったからとか、大方そんな理由の筈だ」


「……捕まった時は、良い気味だと思ったんですけどね。殺されるのは可哀想かな……と」


 ゴプリーナは拳を震わせながら、再び距離を詰めようとする。


「どっちにしろ、テメェにはお仕置きが必要そうだな?」


 このままでは堂々巡りだと思い、呆れながら口を開く。


「そもそも、彼女を躾ける権利が、貴様にはあるのか?」


「当たり前だろ? オークションでコイツを落札したのはアタシだ」


「市外の闇オークション……我が国では違法な取引だ」


「取り締まれなかったテメェが悪いだろ。取引が成立した以上、もう遅い」


「遅いかどうか……試してみるか?」


 左手に青い光を集め、照準をゴプリーナに合わせる。


「……面白えじゃねえか。テメェとは、一度決着を付けてえと思っていたところだ。最近魔王に就任して調子に乗ってるみてえだしな? ブチのめしてやるよ」


 ゴプリーナが茨の鞭を構えた――その時だった。


 我らの間に挟まるように、マミンが進み出る。


「待ってください! ココで二人が戦いを始めたら、タワーが崩れてしまいます! 材質がプリンなのをお忘れですか!?」


「……我は別に構わないが」


「タワーを修繕するの、アタシらの方だしな……じゃあ、代理で決闘させるか?」


「代理で決闘? 使い魔にか?」


「そうだ。アタシのホブと、テメェの海綿猫又スポンジニャンコで」


 ……流石に荷が重いか? 最悪、ナンキンは死ぬことになるな。


「どうしたヴァニラ? 勝てねえことが分かっているから、怖気づいてんのか? 先代のアレと違って、中身が女々しいチキンだもんな? アイツ」


「……女々しいことも、チキンであることも、別に悪いことではない。お望みであれば、戦わせてやる。ただしホブゴプリンが敗北した場合……マミン・ボコパンを我の従者とする」


「じゃあ海綿猫又スポンジニャンコが負けたら、マミンと海綿猫又の両方をアタシの奴隷にする。それでいいか?」


「良い。受けて立つ」


 マミンの「私の今後を、何勝手に決めてるんですか!?」という声を無視し、我とゴプリーナは共に大広間へ向かった。


 ***


「というわけだ。死ぬなよ?」


「どう考えても不利なの私の方だよね!? 勝てるわけがない!」


「向こうはお前を奴隷にするつもりだから、流石に殺しはしない……と思う」


「いや『思う』じゃダメだよ!? 私やマミンの意思を無視して、勝手に話を進めすぎじゃないのかい!?」


「黙れ。元はと言えば、お前が始めた喧嘩だ。この程度の戦いで生き残れないならば、人間との白兵戦で殺されるのがオチだ」


 こんなところで戦いたくないし、死にたくない……それなのに。


 目の前のホブゴプリンは、今にも襲い掛かりそうな勢いで睨んでいる。


 ――やるしか、ないのか?


「来ねえなら、こっちから行くぜ?」


 モーニングスターを縦に振り下ろし、棘の鉄球が落ちてくる。


 咄嗟に横へ飛んだが、右腕に鉄の棘がかすってしまう。


 血が流れ、痛みで体制を崩してしまった。


「一撃で終わりか? 前と変わらねえな」


 鼻で笑うホブゴプリンは左足を後ろに引いたかと思うと、まるでサッカーボールでも蹴り飛ばすかのように、私の身体を弾き飛ばした。


 叩きつけられたプリンの壁は柔らかいが、血は止まらない。


「やっぱり……勝てない」



 ダメな平民は、どんな努力をしたって貴族にはなれない。



 私が人間の頃、下賤で生意気な連中によく投げかけていた台詞だった。


 今になって、その言葉が自分に返ってくるとは――因果応報というやつだね。


「やはり私も、平民というわけ――」


「ちょっと! 何やってるんですか!」


 甲高い声に振り向くと、マミンが前のめりになっていた。


「アナタが捕まったら私、まーたあの乱暴な女の奴隷にされちゃうんですよ!? 貴族だか勝ち組だか知りませんけど、そんな木偶(でく)の坊、さっさとやっちゃってくださいよ!」


 乱暴な仕打ちを受けている原因が、彼女本人にもあるのではないかと考えさせられる口ぶりであった。


「君は自分のコトばかりだな!? そんな軽々しい戦いでは……」


 ……待てよ? 彼女は私に勝ってほしいんだな?


 ならば利用することもできるのではないか?


「おいマミン! 君はボコパン族とかいう、希少な人間だったらしいな!? その民族特有の特技みたいなモノは無いのか!?」


「えっと……特技と申しますか、筋力が異常に高い戦闘民族って感じなんですけど」


「よしわかった! 今からありったけの力を込めて、連続でジャンプしてくれ! それで勝ち筋が見えるかもしれない!」


「ジャンプすればいいのですね? わかりました!」


 マミンは両手を握りしめ、しゃがみ込む。


「おいバカ、やめろ! そんなことしたら……」


 ゴプリーナは止めようとしたが、遅かった。


 マミンは地面を踏み鳴らすように、大広間を飛び回った。


 壁や床のプリンの振動は止まらず、大広間全体が激しく揺れる。


「凝固が崩れる!」


 ホブゴプリンの身体から、黄色い肉片や汁が飛び散った。


 身体の一部が崩れたホブゴプリンは、両膝をついた。


「ナンキン! お前も飛べ! カラメルを狙うのだ!」


 ヴァニラの声を聞いて、振動の勢いに任せてジャンプした。


 するとホブゴプリンの頭上に、茶色のカラメルが見える。


「さて、今度は私が蹴る番かな?」


 カラメルに目掛けて、ドロップキックをブチ込んだ。


「おでが……こんなやつに」


 呻き声を上げながら、ホブゴプリンはノックダウンした。


「信じられねえ……魔法を吸収できなきゃ何もできねえモンスターに、ホブが負けやがった」


 ゴプリーナもまた、身体を崩しながら項垂(うなだ)れていた。


「約束だ。マミン・ボコパンは我が従者とする」


「……今回はアタシらの負けだ。元人間のモンスターだからっていう理由で、コイツを乱暴にコキ使っていたのは事実だしな」


 ゴプリーナは四つん這いになりながら、マミンの方を見上げていた。


「今までひでぇ仕打ちしてごめんな? アタシ人間が大嫌いだからさ。アンタのことストレスの()け口やサンドバックくらいに思っていた時期もあったな。謝って許されることじゃねえけどさ……せめて別れの時くらいは、頭を下げさせてくれ」


 緑色のツインテールが揺れると、床のプリンに接触する。


 地に頭を付けて謝罪するゴプリーナの姿は、正直に言えば美しかった。


 一方でマミンは、どうしていいかわからないといった様子で、ヴァニラの方を見ていた。


「簡単なことだ。お前が素直に感じたことを言葉にすればいい」


 ヴァニラが優しくそう言うと……マミンはゆっくりと深呼吸をした後に、口を開いた。




「良い気味ですね。ゴプリーナ様」


 その場にいた、全員の開いた口が塞がらなかった。


「ゴプリンを統括していたリーダーが、プリンにひれ伏した気分はどんな感じですか? 悔しいですか? 屈辱的ですか? 別れの間際に滑稽な姿を見せ、笑わせようとしてくださるなんて……ゴプリーナ様は寛大なご主人様ですね……ぷぷ」


 ゴプリーナはカタカタと震えながら、床に頭を擦り続ける。


 ズズッと鼻水を啜るような音がしたかと思うと、頭部の周辺に小さい水溜まりができていた。


「あれあれぇ? 何ですかね、この液体……舐めちゃいますね」


 マミンは人差し指で水溜まりをすくうと、ペロッと舐めた。


「うーん、甘くてしょっぱいですねぇ……プリンの甘味と、何とも言えない塩っ気が癖になりそうです。ゴプリーナ様は凄いですね! 自分の涙を珍味として売り捌くだけで、大金持ちになっちゃいそう!」


 黄色い水溜まりは、更に大きくなった。


「マミン・ボコパン……これから貴様は、我が従者となるわけだが」


「ああ、そうでしたね? これからよろしくお願いします!」


「貴様の場合は、性格の矯正が必要そうだな?」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? 素直に感じたことを言葉にしていいって言ってくれたのは、ヴァニラ様の方じゃないですか!?」


 ヴァニラの手が青く光ったかと思うと、マミンは凍結していた。


 女性のカタチをした、チョコレートアイスのようで綺麗だった。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 ヴァニラは深くため息を吐くと、私に向き直った。


「喜べナンキン。お前に可愛い後輩ができるぞ」


「全然嬉しくないよ!?」


 こうしてマミンが仲間になってしまった。

次回の更新は6月中旬の予定です。

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