18話『Mission7 お互いの感情を交換せよ!【後編】』
「そう。笑い、驚き、喜び、怒り、悲しみ…いろんな感情をお互いに共有する、ということネ」
「なるほど……でも、怒りや悲しみは恋愛感情にはつながらないのでは?」
「シチュエーションによるかな。例えば、映画を見ている中で主人公の悲しみを共有する、だったらネガティブではないでショ?」
「……確かにそうですね」
「ただ、人間の感情の中でも、とくに怒りと悲しみの共有は難易度が高い。今回のキミの場合みたいに、初対面同士ならなおさらネ」
「初デートではハードルが高いから、怒りと悲しみの感情はできるだけ起こさない会話がいいってことで合ってますか?」
「その通りだネ」
やっと、あのデートをどうすれば成功させられたのか、正解が見えた。
「町田駅は治安が良くない」という話が出た段階で、先を読んでポジティブな会話に話を切り替えるべきだったのだろう。
ここがおそらく、デートの成功と失敗を分けたターニングポイントだったのだと分析した。
「まあ、切り替えて次、行ってみヨ~~!」
ディーノさんは、励ますようにポンポンと優しく俺の肩を叩いた。
「次のお相手とのデートっていつなの?」
トモミさんが興味津々と言った感じで、前のめりで聞いてきた。
「えっと…明々後日の日曜日ですね」
「「え~~超~楽しみ!」」
自分以上に女性陣ふたりがこの状況を楽しんでいる。
当の本人である俺はというと、デートを純粋に楽しみだと思える余裕がまだない。
「相手の女性はなんて人?職業は?年齢は?」
「趣味は?どんな男性がタイプ?」
ふたりは矢継ぎ早に俺に質問をしてくる。
あまりの勢いに若干気圧されながら、詳細を共有した。
「里実さんという方で、年齢は25歳で同い年です。ITベンチャーで一般事務をしているそうで、カフェで本を読んだり、家でまったり過ごすのが好きみたいです。それから、好きなタイプは…真面目で誠実な人…だったかな」
「聞いてる感じ、直くんと相性良さそうな匂いがするよ?」
「私も、トモミに同意」
「なんでそう思うんですか?」
「「女の勘!」」
ふたりは口をそろえ、自信たっぷりといった感じで主張した。
この女の勘とやらの正体はやはり掴めないが、侮れないなとも思う。
もし本当に相性がいいのなら…次こそは、2回目のデートにこぎつけたいところだ。
「ディーノさん、次に向けて何かアドバイスください!」
俺の命運はこの人が握っていると言っても過言ではない。
すがるようにディーノさんを見た。
「え~~~自分で考えなよ~~~!」
ディーノさんは、意地悪そうに、それでいて本当に面倒くさそうに口を尖らせている。
「ディーノさん、私からもお願い!直くんを応援してあげたいの」
「私からもお願い!アドバイスしてあげて?」
トモミさん、ニナさんのふたりが加勢すると、ディーノさんの態度は一変。
「ふたりのお願いなら断れないネ~」と、一気にふにゃっと表情が緩んだ。
「次のデートでも、自分語りをしないことはマスト。相手に気持ちよくしゃべらせてあげること。それにプラスして、『“楽しい”という感情を徹底して引き出すこと』を意識するといいんじゃないかナ?」
「楽しいを引き出す……俺にできますかね……?」
「複雑に考えなくていいヨ。『最近楽しかったこと』『面白かったこと』『幸せだなと感じたこと』このあたりをストレートに聞いて深堀りしてごらん」
「わかりました……!」
「きっと、自然と相手の笑顔も多くなるはずだから」
笑顔――これはとてもわかりやすい判断基準だ。
振り返ると、百花さんとのデートでは笑顔が少なかった。憎悪、冷笑、落胆――そんな感情が多かったように思う。
表情の微妙なニュアンスを捉え、会話をコントロールすること。
これがデート成功へのカギを握るのだと思った。
ただし、言うのは簡単だがハードルは高い。こればかりは、デートを重ねて経験を積んでいくしかない。
俺は、今以上に積極的にアプリを活用していくことを心に誓った。
「トモミさん、ニナさん、そしてディーノさん。本当にありがとうございました!次はいい報告ができるように頑張りますね!」
こうして、緊急ミーティングはお開きとなった。
◆
そして日曜日――。
里実さんとの初デート当日を迎えた。
今日のデートは恵比寿。正直言って、全く土地勘がない。
だから昨日、下見がてら恵比寿の街を練り歩いてみた。
恵比寿といえば、俺の中では恵比寿ガーデンプレイスの印象が強い。デートで定番の場所というイメージをもっているので、さぞおしゃれで洗練された街なんだろうと、正直、身構えた。
だが、街を散策してみて思った。この街にはいろいろな顔があるのだと。
たしかに、恵比寿ガーデンプレイス近辺は異国情緒溢れており、洗練された雰囲気だった。
しかし、街全体がそうかと言われると違った。
恵比寿横丁やえびすストアに代表される下町感のあるエリアもあるし、かと思えば、オーセンティックなバーや、ラグジュアリーな佇まいのレストランが軒を連ねる一角もある。
恵比寿の街がデートの鉄板といわれる所以――。
それは、相手との距離感やムードに合わせてお店をチョイスできる、使い勝手の良さにあるのではないかと思った。
そして今日――俺が行くのは、スイーツに定評があるカフェ。
ディーノさんに教えてもらった一軒で、昨日、ひとりでリサーチに行ってきた。
店内はとにかく女性が多く、デート利用と思われるカップルもちらほら。
男性のひとり利用客は自分しかおらず、だいぶ浮いていただろうと思う。
でも、お店の雰囲気、オーダーの仕方、人気のメニュー、駅からの道順を把握できた。
そして何より収穫だったのが、予約NGで、並ぶのが前提の店だと知れたことだ。
とりわけ、今日の約束の時間である15時は劇的に混んでいた。
30分以上前から並んでおく必要があると思った。
14時15分。店に来てみると――案の定、店前には長蛇の列ができていた。
俺は「人気店なので先に並んで待ってます」とメッセージを送り、彼女の到着を待った。
そして、約束の15時の10分前――。
列の先頭から数えて3番目まで来たところで、前方から一心不乱に勢いよく走ってくる女性の姿を捉えた。
その女性と目が合った瞬間。女性はその場で一瞬立ち止まり、乱れた髪や服装を整えながらゆっくりとこちらに向かって来た。
「……直さんですか?」




