14話『Mission5 攻めの姿勢でデートに誘え!』
仕事帰り。
ディーノさんとの緊急ミーティングのため、新橋にやって来た。
新橋の街には馴染みがある。秋葉原でのアニメイベント帰りは、決まってこの街で飲むからだ。
新橋はサラリーマンが集う飲み屋街のイメージが強い。だから、ディーノさんがここを指定してきたのは意外だった。
だが、調べると新橋も港区らしい。港区にもいろいろな顔があるのだと、はじめて知った。
――ここか……。
ディーノさんが指定してきたのは、とある焼肉店。
“新橋の焼肉店”と聞いた時、俺は連想した。
煙がモクモクと立ち込め、隣席との距離は近い。そして、ビールの1杯目オーダー率が80%を超えるような――そんな店を。
だが、見事に予想を裏切られた。外観も内観も港区らしいラグジュアリーさ。
さすが、ディーノさんの目利きは徹底している。
店員さんに案内された個室に入ると、女性が2人座っていた。ディーノさんはいない。
「ディーノさん、お手洗いに行ってます」
「あ、そうなんですね……」
「……」
「……」
あなた方は誰なんですか?そう聞きたい。
でも、ディーノさんの大事な友達……のはずだから、聞き方、話し方に気を付けなくては。
ディーノさんとの関係を聞いた後は、何を話すべきか。
会話を盛り上げたほうがいいのか?
趣味でも聞いてみるか?
でも、マッチングアプリで出会った相手でもないのに、いきなり趣味って……?
考えれば考えるほど、会話の正解がわからない。
初対面の女性と話すスキルはゼロのまま。全く成長がない。
黙って時間をやり過ごすしか術を持たない自分が心底情けなかった。
「ナンデこんなお通夜状態になってるノ!」
時間にして1分にも満たない間に、ディーノさんは戻ってきた。
「なんか…この人、すごい怖い顔してたから…話しかけにくくって」
「そうなの?ニナちゃん、トモミちゃん、ごめんね!」
「すみません……」
そんなつもりはなかったのだが。表情管理に気を配る余裕がなかったのは事実だった。
「この通り、彼はちょっと奥手というか。女性との会話が苦手でネ」
「はい……おふたりを怖がらせたかったわけじゃなくて。どう話を切り出したらいいかわからなくて…」
「真面目すぎるんだよね、彼。だから、今日はいろいろアドバイスお願いネ!」
どうやら、ディーノさんは女性視点からのアドバイザーとして彼女たちを呼んだらしい。
「ディーノさんのお願いなら喜んで!私は、ニナです」
「私は、トモミです」
「大河内 直といいます。よろしくお願いします」
お互いの自己紹介がようやく済んで、早速本題に入る。
「彼、マッチングアプリで女性とマッチはするけど、デートにこぎつけられないらしいんだヨ」
「あ~~~~よくあるパターンだね」
「女性側にも多いよね。その悩み」
「直。せっかくだから、メッセージの内容とか見てもらいなヨ」
「そうですね。添削、よろしくお願いします」
俺は彼女たちにスマホを渡す。
「え~写真めっちゃカッコいい!」
「いいね、たくさんもらえそうだね……って700!?」
「プロフィールはつまんないから……写真の効果絶大だね!」
「景色や動物の写真だけとか、後ろ姿でごまかしてる写真とか……。そういうのよくあるけど、まじ論外だよね」
「絶対、いいねしたくないよね」
ふたりはまず、俺のプロフィール情報について淡々と、事もなげにトークを交わしている。
辛らつだが、これこそが女性の本音である。
「「メッセージは………」」
「「………………」」
「ニナ、どう思う?」
「まず、メッセージ長すぎ。重い」
「『●●さんのご趣味は?』って質問した後の『僕の趣味は~』っていう自分語り、いらないよね」
「自分の趣味の話だけで7文も書いてあるよ」
「自分好きそう。話聞いてくれなさそう。って私だったら思うかな」
俺はそれを真摯に受け止め、ノートにも書き留める。
「デートにこぎつけられないって言ったけど。メッセージ見た感じ、デートしようとする気なくない?」
「うん。私もそう思った」
「え……俺、デートする気満々ですけど……」
「このメッセージ。2日前に女性側からの既読で終わってますよね?」
「はい」
「見てください、このメッセージの長さ」
そう言って、トモミさんはスマホの画面をスクロールしまくる。
自分でも気づかなかったが、ものすごいやりとりの量だ。
「この人は、たぶん直くんに興味あったと思いますよ?こんなにやりとりしてるわけだし」
「趣味は?とか、休日の過ごし方は?とか、仕事は?とか……正直、まどろっこしいなって思う」
「あくまで予想だけど……デートへの進展もなく、ただメッセージのやりとりをするだけの関係に疲れちゃったんだと思いますよ。この女性」
「そもそもこの話題って、直接会って話せばいいよね」
彼女たちの話を聞きながら、俺は、ディーノさんがレイナさんと行った実演のことを思い出していた。
あの時――ディーノさんは、余計な話など一切していなかった。
デートに誘う。ただそれだけを目的とした会話だった。
その時は、「もっと会話を楽しんで、お互いを知るべきだ」と思った。だが、お互いを知るにはそもそも時間がいる。だから、ふたりきりでじっくり語らう、デートという体裁が必要なのだ。
メッセージではデートに誘うことだけをゴールに設定し、直接会ってからお互いを知る。
目的を明確にし、手段を分ければいいのだと理解した。
「どうすれば解決するのか。ふたりのおかげで答えは見つかったんじゃない?」
「はい。初手からデートに誘います」
「ウン。そうしたら、デートもすぐ決まるヨ」
モヤモヤが一気に晴れ、スッキリした。
「ニナさん、トモミさん、ありがとうございました。勉強になりました」
ふたりは俺の言葉にまったく耳を傾けていない。
俺のスマホで…何かを操作しているようだ。
「あの……何を…されてるんですか?」
「今、マッチしてる何人かに『カフェでお茶して話しませんか?』ってメッセージ送っときました」
「えっ!!!!!…………唐突すぎません?」
「唐突じゃないですよ!勢いが大事です!」
「攻めないとだめです!」
しばらくして、ふたりはスマホを返してくれた。
見ると、冗談でもなく本当にメッセージを送っていた。
「それじゃ、この話終わり!ふたりが主役の焼肉タイムだヨ~~♪」
「「いえ~~~~い!!!!!」
「僕が、最高の焼き加減でふたりにオモテナシするネッ」
ディーノさんはふたりにウインクをかます。
ノリは完全に20代。でも、観察眼に優れた冷静な一面があり、人間性は年齢相応。
ディーノ・レオーネとは、そういう人なのだ。
俺はその場のノリについていこうと、必死で食らいついた。
その日解散をしたのは、日付が変わって午前0時過ぎ。
2軒目、3軒目とはしごし、終電ギリギリまで飲んだ。
酔っぱらってふわふわとした意識の中で、俺はマッチングアプリのメッセージ通知に気づく。
先ほど送ったメッセージに、ある女性から返事が来ていたのだ。
『ぜひ、直さんとお会いしてみたいです。よろしくお願いします!』




