12話『Mission4 “イケメン風”に写真を撮れ!』
「これは……悲惨だネ」
ディーノさんは俺のスマホをスクロールしながら、眉間にシワを寄せる。
俺自身も自覚している。イケてる写真など1枚もないことを。
それに、そもそも自分の写真を撮る機会など、数えるほどしかなかったはずだ。
「真正面を向いて写ってるのは、この写真くらいだネ」
そう言って、ディーノさんは1枚の写真を見せる。
それは、就職活動時に撮った証明写真だった。
就活のために、多少きちんと感が出た写真だが、体型はぽっちゃりのまま。髪の毛の量も多く、もっさりしている。
今の自分とは別人のようで、これでは写真詐欺になってしまう。
「……マッチングアプリのプロフィール写真としては使えないですよね…?」
「ウン。もちろん、使えない」
きっぱりと言われたが、俺自身も納得だ。
「今、撮ろうよ。ロケーションも最高だし」
俺たちが案内されたのは、ちょうどガラス張りの窓際の席。明るい陽射しが程よく差し込む場所だった。
ちょうど食事も終わったところだったので、コーヒーを追加オーダーする。
オーダーしたコーヒーが届いたと同時に、カメラマン、ディーノ・レオーネによる撮影会が始まった。
「ハーイ。お兄さん、にっこりネ。笑顔だヨ~~」
俺は正面からカメラを睨みつけ、不自然に笑みを整える。
だが、ディーノさんからすぐにダメ出しを食らう。
「カメラ目線、No!正面から撮る写真は、緊張して顔がこわばる。それに、僕くらいイケメンじゃないと、いい仕上がりにならないネ」
彼の主張にツッコミを入れたい気持ちはあった。だが、カメラマン役をお願いしている手前、無下にできない。ぐっとこらえて、「はい、そうですね」と無機質に応えた。
「イケメン“風”の写真だったら、誰が被写体でも撮れる。まず目線を外してみて。外を見て~笑顔は軽くでいいヨ。それから、ちょっと角度をつけて。上を見て~」
言われた通り、カメラを見ずに外をぼんやりと眺める。
「そうそう、いい感じだネ。じゃあ、次はコーヒー持ってみようか?コーヒーが意中の相手だと思って。愛おしそうに見つめて~それから、ゆっくり口に運んで、一口飲もうか」
俺が飲み終えると、ディーノさんは「美味しい?」と聞いてきた。
「はい、美味しいです」と、ディーノさんと目線を合わせようと正面を向く。
その瞬間を、ディーノさんは見逃さなかった。
「Oh~!なかなかいい写真撮れたヨ。最後の写真とか、とっても自然でいいネ」
そう言って、俺に写真を見せてきた。
「これが…俺……」
そこに写っていたのは、爽やかで誠実そうな青年。
顔周りのすっきりとした印象を白いYシャツが際立て、清潔感が溢れている。
そして、自分でも信じられないほど自然な笑みが引き出されていた。
「ディーノさん、カメラマンとしての素質ありますよ…」
「エ~~!そうかなァ。フリーランスでやってみようかナ~!」
ディーノさんはだいぶ気を良くしたようで、嬉しそうだ。
「そういえば……ディーノさんって、お仕事何されてるんですか?」
「僕はネ、女性ユーザー限定の旅行代理店を経営してる」
女性ユーザー限定、というところがディーノさんらしい、といえばらしい。
だが、なぜ、そこまでして女性に対するホスピタリティにこだわるのか。彼にとって、本命の女性はいるのか。過去、どんな恋愛をしてきたのか。
途端に気になりだした。
「ディーノさんって、本命の女性…」
「もうそろそろ出ようか?別の映えスポットでも写真いっぱい撮ってあげるヨ!」
「……そうですね」
話題をそらされたのか、それともタイミングが被っただけか――。
ディーノさんの恋愛事情は気になったが、また話す機会はいくらでもあるだろうと思い、その先の言葉を飲み込んだ。
俺たちはこの後、表参道・外苑前エリアを歩き回った。
パサージュ青山、明治神宮外苑 いちょう並木、根津美術館、キャットストリート…。
ディーノさんに言われるまま場所を変え、何百枚もの写真を撮った。
俺の顔に疲労の色が見え始めた頃。
ディーノさんは「ここまでにしようか」と言った。
時刻は17時半。もう足が棒のようになって動かない。
だが、マッチングアプリ上でアピールできそうな写真はたくさん撮れた。
それに、道中、ディーノさんがおしゃれなカフェやレストランをたくさん教えてくれた。なんだかんだで、ディーノさんは面倒見が良く優しい。
ただし、お店紹介とともに、その時の女性とのデートエピソードがもれなくついてきたのは、少し余計だなと思ったが。
「ここは、インフルエンサーのナツミちゃんを連れて行った店。映えるパンケーキを一緒に食べたんだ」
「この店は、看護師のチカちゃん。彼女、酒豪でネ。お酒の種類が多いからココにしたんだ」
「ここは、丸の内OLのサトミちゃん。彼女、普段はクールなんだけど、食事が美味しすぎて顔がほころんでて、可愛かったナ~」
俺は話に出てきた女性のことを一切知らない。だから、思い出を語られても、どう反応したらいいのか…少々、困惑した。
と同時に、ディーノさんが数えきれないほどの女性とデートを重ねてきた事実、そして、その内容まで鮮明に記憶していることに驚いた。
改めて、ディーノ・レオーネという男はただ者ではないと思った。
「今日は、本当にありがとうございました。この御恩をどう返したらいいか…」
「気にしないでいいヨ~僕も楽しかったから」
「モテる男になって、必ず恩返しします」
「じゃあ、女の子、たくさん紹介してネ」
「それは……善処します…」
ディーノさんは意地悪そうに笑った。
「この後、僕、女の子たちと飲みに行くけど。キミも来る?」
師匠に同行してまだまだ学びたい気持ちはやまやまだったが、もう身体が限界だ。
「すみません…今日はもう身体が疲労困憊で…」
「Oh……ジムでの追い込みが甘いんじゃないノ~?僕は全然、元気だヨ!」
ディーノさんの体力お化けっぷりには頭が下がる。
「まだまだですね…。体力、もっとつけます!」
「ウン。これからデート三昧の予定なんだから、体力は超重要だヨ!マッチングアプリ、ちゃんとプロフィールまで登録しておいてネ!」
「ハイ。わかりました!」
こうして俺たちは解散した。
そして、道中、俺は早速マッチングアプリの正式な登録を始めた。




