第38話 日本滅亡の大予言
「おいスキル野郎、助けろ」
『助けを求めるなら、それ相応の態度ってものがあってだな?』
日本全国スタンピードがあと1週間で発生してしまうと伝えられた日──の、翌日のこと。
俺は朝の8時とかいうアホ早い時間からダンジョンに来ていた。
理由はもちろん、スタンピードの対策だ。
「一億近い人をあと6日でここに入れるにはどうしたらいい?」
『お前は何を言ってるんだ?』
「ほんとだよ。俺何を言ってんの?」
でも残念。これが現実らしい。
スキルくんに軽く事情を説明した。
『ほへぇ〜、そんなやべーことなってんだな』
「軽いって」
『や、だって俺には関係ねぇし』
「そうだけど……! 女の子は共感して欲しい生物なのよ……っ!」
『女の子じゃないじゃん』
「はい、今の時代アウト」
『いくらでも言うぜ、この世界に性別は2つしか存在しな──』
閑話休題。いや、閑話強制終了。
「なんか方法ない?」
『投げやりすぎるって』
なんかコイツ……めんどくせぇ性格になってね?
前はあんなに従順だっ…………たわけでもないか……ほないつも通りか。
『……なるほど。俺がこうして誕生したのは、多分このためだったんだな』
「なんだって?」
『いやなんでもねぇよ』
スキルくんが何か言ってた気がするが、アニメみたいにはぐらかされてしまった。
こういうのって実際にあるんや……。
「『俺がこうして誕生したのは、多分このためだったんだな』が、なんだって?」
『全部聞こえてるじゃん。なんで1回聞こえてないよフェーズ挟んだんだよ』
そりゃお前、俺のスキルなんだぞ?
普通に会話してる感エグいけど、俺の頭に直接響いてんだからな?
「ナメんなよ?」
『その言葉にいたるまでの思考も口にしてくれよ。どれだけツッコミさせるねん。俺、お前の便利屋みたいになってんじゃん』
「違うんか?」
『……広義で捉えれば合ってるけど!』
…………待ってくれ。
俺────スキルくんと話すの好きなのかもしれん。
サボリニキと話すのも楽しいしバカニキと話すのも楽しい。その次に来るのが……スキルくんだと?
────それは、突如として俺の脳内に溢れ出した、存在しない記憶。
『おいスレ主! この問題解けねーんだけどさ』
「んー、これは〇〇を✕✕にして……」
『あーっ、そーいうコトォ!? あんがと』
「いいっていいって、お前のためならいくらでも教えてやる」
『ちょっ……惚れちまうだろ』
「惚れてくれていいんだぞ」
……。
…………。
「どういう……ことだ? なんで、お前が……ありえん、何……故………」
『急な呪術〇戦でツッコミが間に合わん』
「俺はお兄ちゃんだぞ!?!?!?!?」
『は?』
「ごめん」
閑話休題。
…………何回これ挟むんだ?
「実際何か手段無いか?」
『いやぁ……全然あるけど』
「やっぱ無いよなぁ…………って、え゙、あんの?」
『あるよ。ちょいと失礼』
「え? って、ちょ!?」
スキルくんがそう言うと、俺の右手が勝手に動き出した。
お前、主の身体操れるのマジで?
……この感覚ちょっとハマりそう(違う)
ステータスボードが展開される。
そして、『無名のダンジョン』をタップ。
少しスクロールして、『ダンジョン出入口設定』をタップ…………って。
「めちゃくちゃあるじゃん。そのまんまじゃん」
嘘でしょ。俺、これ見つけられなかったの?
『お前も聞いたことくらいあるだろ? 入り口は1つしかないのに、トラップみたいなやつに引っかかって知らん場所に吐き出されるの』
度々話題になっていたので、すぐに思い当たった。オーストラリアのダンジョンだ。
入り口はシドニーにしか存在しないが、特定のトラップを踏んでしまうと、全く知らない地域に吐き出される。
砂漠に吐き出されて亡くなってしまった事件や、女子更衣室に吐き出されて痴漢冤罪で可哀想だった事件もあった。
……マジ、かわいそう。男性として共感しかない。
ともかく、確かにあれを『出口』と捉えるのなら複数作れるのかもしれない。
入り口の無い出口が作れるなら、出口の無い入り口も作れるだろうしな!
『ただ……あれって『出入り口』としてしか作れないんだよな』
あ、全然違った。
出口だけとか入口だけとか作れねえのかよ。
…………待って?
「じゃあシドニーのダンジョンって、また中に帰れるの?」
『いや別のダンジョンとか知らねーけど』
「使えな」
『お前がな』
「「使えな」に対する史上最高の返しが発見されてエグい」
マジかよ。クソ雑魚トラップじゃん。
「んで、その『出入り口としてしか作れない』ことの何が問題なんだ?」
『一言で言うと、出口と入り口の座標を設定する必要があるんだ』
座標を設定?
「なんだそれ」とツッコむと、俺の右腕が勝手に動き、ステータスボードをスクロール。
──────────
ダンジョン出入り口設定
出入り口1
ダンジョン:(0000,0000) 現世:(35.8734111, 139.4866849)
出入り口を追加......
──────────
「いや急なリアリティよ」
でも、なるほど。そういうことか。
「現実世界での座標を登録する必要があるってことね」
『そ。んで、その座標を登録するには実際にその地に行かないといけない』
最低でも今日中に全国で出入り口を設置する必要があるからまず不可能ってことか。
「てことは…………」
『ま、俺が思いつく限りだと打つ手無しってところだな』
「詰んだー……」
俺は倒れるように地面に寝転がる。
あるはずのない青空が視界いっぱいに広がる中、カチャ、という音とともに何かが落ちた。
肘をつき顔だけ上げると、どうやらポケットからスマホが落ちた音のようだった。
衝撃で電源がつき、チャットの画面が出ていた。
そっか、きのうサボリニキと通話してそのまま電源落としたんだっけか……って。
「おいスキル野郎」
『なんや』
「そんなに関西弁だった? まぁそれはいいとして…………座標って、電話で聞くのじゃダメなのか?」
閃きだった。
これなら、直接俺が出向くことなく出入り口を設置できる!
『ダメに決まってんだろ』
「決まってることはねーだろ」
『それが許されるならネットで調べりゃいいだけじゃねーか。この【迷宮管理者】を持った者、つまりお前自身が現地に行き、このダンジョンが初めて開通した時みたいに繋ぐしかねーの』
「────じゃあ、【迷宮管理者】を持たせればいいってことか?」
『は? 何言ってんの? そんな事できねーだろ。ま、でも、もしできるならそういうことだな』
……く、くく。
クハハハハハハハハハハッ!!!
きた、きたぞこれは…………!!
最後の活路が────俺には見えた!!
◇ ◆ ◇
「────スレ主、本当にいいのかい?」
数十分後。
俺は埼玉県庁を訪れていた。
「あぁ。これしか無いし、これで世界を救えるなら無問題だし────なにより、俺はあいつら……いや、お前らを信じてるからな」
いや、正確には違う。
埼玉県庁の地下室──厳重警戒が施されたここには、つい最近発明されたばかりのある機械が置かれていた。
────スキル遺伝装置だ。
その名の通り、本来人の手が加わることがないスキルを他人に引き継ぐというイカれ機械。
貴重なスキルの持ち主が死んでしまう時、別の人間に移すことができたら、という欲望から開発されたものだ。
しかしその分、一度の起動だけでも想像を絶するほどの莫大な金がかかるため、一般市民どころかそこら富豪でも使わない。
「っと、電話だ。────はい……ッ! 本当ですか!? り、了解しました……ッ! ありがとう、ございます……ッッ!!!
スレ主! 今、政府から直々に無料での使用が許可されたよ! 全額、政府が肩代わりしてくれるって!」
……よし、使用面での準備は完璧。
あとは最後のピース────。
スキル遺伝装置は、離れた場所にある装置に入った人と同じ特殊電波を発することで引き継ぐことはできる。
理由は知らん。物理的にも科学的にも無理がありそうだけど、なんかもぉー、そういうもんだろ!
つまり、離れた場所にいる人が必要となる。
俺はスマホを取り出しマイホームを開く。
590.スレ主
お前ら、準備はできたか?
591.名無しのダンジョン好き
おうよ!!!!!
592.名無しのダンジョン好き
バッチリだぜ!!!!
593.名無しのダンジョン好き
もうちょいかかりそう! ぽまいら先に頼む!
594.名無しのダンジョン好き
いつでもおーけーやで!
まさか俺らがこんな一大事に関わることになるとは……
595.名無しのダンジョン好き
>>594 何を今さら。ワイたちがここにいる時点で、こういうことになるのは覚悟してたやろ?
596.名無しのダンジョン好き
>>595 それはもちろんやで!!!!
597.バカニキ
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
598.名無しのダンジョン好き
おお! 我らがアイドルバカニキ!!
599.名無しのダンジョン好き
来たああああああああああ
600.名無しのダンジョン好き
>>597 ※ただし準備が出来たかは分からない
601.名無しのダンジョン好き
せめて意味のあること言おうぜ
602.バカニキ
今そういう流れじゃなかったじゃん……!!!
なんで!! 俺だけ!!!
────そう、スレ民たちだ。
603.スレ主
おーけーお前ら
それじゃこれからは変なことは言わず、順番に番号を投げてくれ
その順番で呼ぶ!!
604.名無しのダンジョン好き
1
605.名無しのダンジョン好き
1
606.名無しのダンジョン好き
1
607.名無しのダンジョン好き
1
608.名無しのダンジョン好き
1
609.スレ主
お前ら世界救いたすぎだって。もうアンカーで呼ぶわ
んじゃ、まず >>604
──この方法には、1つ、大きすぎる問題があった。
いわば、【スキル盗難】である。
迷宮管理者をスレ民に引き継ぎ、引き継いた先からまた別のスレ民に引き継ぐ。
つまり、途中で誰かが引き継ぎをしなかったら、この方法はパーとなり、さらには俺が今まで頑張ったダンジョンも消え去る。
=世界が滅ぶ。いや、スキルを奪ったやつだけが生き残るのだ。
これに対する俺の対策は、
──信頼。ただそれだ。
いや…………
「それだけで、充分だろう?」
本日18時。
ダンジョン庁大臣が緊急会見を行い、約1週間後に『日本全国同時スタンピード』が発生することを発表した。
日本中、いや世界中が一瞬にして混乱の渦に包まれた。
しかし、それと同時に緊急シェルターとして個人使用されているダンジョンを使うことが伝えられ、そこに避難するよう伝えられた。
それはそれで、混乱の渦に包まれた。
ダンジョンの入り口は全国53カ所に既に配置済みだと伝えられ、その場所も公開された。
日本中が「???」で覆われた。
とてつもなく深刻で重大な発表だったが、それに並ぶくらい意味不明なことが伝えられたため、政府が当初予測していたほど混乱にはならなかった。
そして、日が立つにつれ増えていくダンジョンへの入り口。
絶対不可能と思われた全人類の避難は、日本全国スタンピード発生の1日前、11/30に完了した。
そして────
「…………さて」
完成したマンション群『居住区』エリアと、現在もゴブリンキングたちがせっせと働く『その他』エリア。
その間にあるメインストリートに立つ俺の後ろには、日本のみならず世界中から集まった最強の冒険者たちが。
何を言うでもない。
そう、ただ一言。
「勝つぞ」
「おう!!!」という皆の声に続き、俺たちは魔と化した地上へとテレポートした。




