第39話 サボリニキが想像と違いすぎる件について
《まえがき》
今回は三人称視点となります。
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日本全国スタンピード発生後。
埼玉県、『無名のダンジョン』周辺にて。
「チッ!! クソッ!!」
日本最強冒険者のケンヤは悪態をつきながら、襲いかかる多くの魔物から距離をとる。
──日本全国スタンピード。
その名に恥じず、地獄と言われても余裕で信じられるような光景が広がっていた。
日本中のどのダンジョンからも、まるで満杯のコップに水を注いでいるように魔物がダンジョンから溢れ出してきていた。
その中でも、埼玉県は特に状況が悪かった。
ケンヤは息を整え汗を拭いながら、とある方角をキッと睨みつける。
日本最恐ダンジョン『深淵のスターリヴォア』がある方角だ。
『深淵のスターリヴォア』がある方角から襲ってくる魔物が他よりも強いのだ。
そして、魔物の量も段違い。
とはいえ、世界でもかなりの上位冒険者にあたるケンヤからすれば然程苦戦するような敵ではない。
問題は、それらの魔物を一撃で葬るためにはより強い攻撃を繰り出す必要があることであった。
ケンヤが魔力を練り上げるとその頭上に暗雲が立ち込める。そして特大の稲妻が駆け下り、ケンヤの持つ剣に纏わりつく。
それを一度鞘に収める。
「ふぅー……」
息を整え、一息に魔力を解放する。
その重圧に耐えきれなかったケンヤの周りの道路が、ドンッという衝撃とともに数十センチほど沈み込む。
「──第三階位魔導剣術、雷轟斬ッ!!」
極限まで強化された抜刀は音速に迫っていた。
超特大の斬撃がケンヤの前方に飛んでいき、正面や上空から襲いかかってきていた魔物や、もはや魔物の住処と化していたビルごと切り裂いた。
腹の底に響くような重低音とともに放たれた斬撃は空をも切り裂き、数百──いや、千を超える魔物を一度に葬った。
しかし、
「おいおい……減ってねえどころか増えてるだろこれ……」
一つ瞬きをした瞬間、斬撃を放つ前と同等以上の魔物がそこら中に蔓延っていた。
「うっ……! さすがに魔力がもう……」
かれこれ数時間、ケンヤは大技を連発し続けている。
ケンヤがリーダーを務める4人パーティー【祝炎】のメンバーは、それぞれ日本中に派遣されている。
一人ひとりが最高戦力を保有しているため、日本各地で魔物の数を減らしているのだ。
また、彼らの周辺には他の冒険者は配置されていない。彼らの強力な一撃を、他人への被害を気にせずに放つためである。
つまり、ケンヤの力が尽きると、魔物の猛攻を止められる者がいなくなってしまう。
────なんてことを想定できないほど、人類も馬鹿ではない。
ケンヤはポケットからスマホを取り出し、『無名のダンジョン』から戦況を見つめる人物に連絡を取る。
「こちら、ケンヤ。少し回復時間が欲しいので応援求む」
『──こちら、サボリニ……コホンッ! こちら、
氷室。了解した。九条さん、僕が行ってきていいですか?』
『あぁ、頼む』
『ありがとうございます。それじゃスレ主、ヒールスライムを3体ほど貰うね』
『あぁ……っ! 俺の可愛いスライムがあああああああああああああ!!!!』
『うるさい』
『ぐへっ! お、お前……かなり力強いことをもう少し自覚して……グハッ!!』
『……よし。それじゃあケンヤ。今行くね』
ケンヤは殺人現場を聞いてしまった気がしたが、目の前の魔物に集中することにした。
そして、僅か数秒後──。
「お待たせ」
「全く待ってないんだが?」
ケンヤのいる場所が埼玉県内とはいえ、『無名のダンジョン』からは数キロ離れている。
そもそも、どこにいるのかすら伝えていない。
(……っは。これが風魔法《《だけ》》を鍛えた《《最強の魔法使い》》の実力か。どう考えても俺よりは強いだろうな)
ケンヤは苦笑する。
9年前の『深淵のスターリヴォア』のスタンピード事件。
あの大災害がたったの数時間で終わりに迎えたという結末の裏には、当時海外のダンジョン攻略から偶然帰国していた、とある2人の探索者の貢献あってのものという真実が隠されていた。
2人はその功績を認められ、現在は政府から伝えられた直々の任務をこなしている最中である。
《《現埼玉県庁ダンジョン科長と副長》》という、『深淵のスターリヴォア』を抑え込む任務を。
「あんたらが戦ってくれてもいいんだぜ?」
「僕たちは最終防衛ラインだからね。強いヤツに強いヤツを当てる。当然の理さ」
「……っはは。俺を弱いなんて言えるの、お前らだけだわ」
「早く追いつくことだね」
サボリニキはスレ主から強奪したヒールスライムを、一匹ずつケンヤの身体に当てて破裂させる。
このスライムの体液を浴びると、少量の体力や魔力を瞬時に回復させることができる。
その上、体液は1分もすれば蒸発してくれ、乾いたら2匹目もすぐに使えるという優れもの。
しかし、そんな絶好のチャンスを魔物が大人しくしてくれる訳が無い。
「氷室ッ! 後ろだ!!」
サボリニキの後ろから、ケンヤが動けない間大量に増加した魔物が襲いかかっていた。
ケンヤは反射的に置いていた剣を取り──、
「────僕の会話を邪魔しないでくれるかな?」
ドンッッッ!!!!
サボリニキは、いつもの優しさに満ち溢れた声色からは信じられないほど冷酷な声でそう言うと、周囲の魔物が一斉に地面に叩きつけられた。
地にひれ伏してもまだ消えぬ重圧に、魔物の周辺の道路がひび割れ沈んでゆく。
そして、完全に押しつぶされ、魔力の粒となって散っていった。
スタンピードとは思えないほどの静寂が訪れた。
「今……何が…………」
「ただの風魔法だよ」
んなわけあるか、とケンヤはツッコみたかった。
だって────ケンヤの魔力探知には、十数キロ先まで一切の魔物がいないと出ていたからだ。
(これが……《《真の》》日本最強の冒険者……ッ! はっ……次元が違うにも程があるだろ……)
「よしっ、治療完了!」
「あんたが戦ってくれてもいいんだぜ?」
「いやいや、ケンヤで十分でしょ。それじゃまた魔力切れたら言ってね〜」
そう言って『無名のダンジョン』に帰ろうとしたサボリニキのスマホに電話がかかってくる。
「はい」
『すまない。福岡に配置されてるケースケと、北海道に配置されてるカンナも魔力切れだ。俺はケースケの方に行くから、お前はカンナの方に行ってくれないか?』
「カンナのところですね。了解です〜」
サボリニキは電話を切る。
「カンナのところってことは……今から北海道に行くのか?」
「あ、聞こえちゃった? そだよ」
「……ちなみに、どのくらいかかるんだ?」
「いやー、期待してもらってるところ申し訳ないけど、北海道まではさすがにちょっと時間かかるかなぁ……」
また爆速で行くのではないかと恐怖で怯えながら聞くが、少し人間らしいその返答にケンヤはホッと胸を撫で下ろす。
「うーん……20秒くらい?」
「……20秒くらい」
サボリニキの言葉を反芻する。
やはり、人間じゃなかった。
一方その頃、ダンジョン内では面白いことが起きていた。
「お、お前……もしや……!?」
「いや待て……そうだ! 俺は今から一つ質問をする。俺の想像通りなら想像通りの回答をしてくれるはずだ……っ!」
「おう! 想像通り想像通りうるさいが分かったぞ……!」
スレ主が「マンションだけはいささか無機質すぎるであろう……」とカッコつけた考えをしたことで誕生した、それなりに大きい公園には男女それぞれ20人ほどが集まっていた。
「──……質問だ。スレットの名前は?」
「っは……余裕すぎるぜ。『おぅおぇ』だ──!」
「っしゃああああああ! エンカ成功だああああああああああああ!!」
そう、『無名のダンジョン』製作委員会のスレ民たちであった。
日本全国に散らばっていた彼らは、この日ついにエンカに成功したのだ。
778.名無しのダンジョン好き
スレ主!!!! エンカしたで!!!
779.名無しのダンジョン好き
お前らー!!!やっと会えたな!!!!
780.名無しのダンジョン好き
思ったより女性多くて驚いてるワイ
781.名無しのダンジョン好き
こんなに割合半々になることある?
その様子を、とあるマンションの最上階に設置された管理室から確認したスレ主は、
「……今あいつらいねーし、抜け出せるくね!?」
窓を勢いよく開け、飛び降りた。
空中で軽快な指笛を鳴らすと、どこからか飛んできたワイバーンの背中に乗る。
「レッツゴー!!!!」
地上のことなど知らないスレ主は、愛するスレ民のもとに羽ばたいていった。




