02_傭兵ギルドにて
簡単用語
TSF:人型兵器。MのつくスーツだったりAのつくコアみたいなもの
VSF:戦闘機だったり戦闘艦のようなもの
ヴォイド:変異異性体。何にでも寄生する銀河の厄介者
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お役所仕事は軍も傭兵も変わらないようで、傭兵ギルドへの登録も無事終わった。
スキルや経験などを記載した登録書類を受付のオッサンに渡した際、驚いた顔で手に持った書類と顔を繰り返し見られた。
今でもどこか落ち着かない様子だが、退役軍人が傭兵になるのは珍しいことなのだろうか。
「帝国軍のオキタ中尉といえば、隣の星系で名の売れた有名人だろうが。
お前さん、対ヴォイドを担当している軍のトップガンだったろ?
何で辞めちまったのかね。いや、詮索しねえ。興味は尽きないがな」
「俺って有名なのか?
なら噂くらい流れて来てるかもな。傭兵ギルドは噂好きの集まりだろう?」
「そりゃ流れて来てるが、深く知らない方がいいことだってあるだろう。
貴族の覚えもいいお前さんのことは……いや、いい。
そんな顔すんじゃねぇよ。心臓に悪いだろ」
別に睨んでいるつもりはない。噂されるのが好きじゃないだけだ。
帝都でも有名なマスコミが対ヴォイド軍の取材をしに来たときにあること無いこと脚色され、美談として放送されたことを仲間内で笑われてからその手の話にはアンテナを立てなくなっただけだ。
「傭兵ギルドは重犯罪以外の経歴は不問だし、イチモツを隠してんのはアンタだけじゃねえ。
帝国軍と傭兵の違いはアンタもよく知ってるだろう?」
「売られた喧嘩をスマートに買うのが軍で、派手に買うのが傭兵の認識だな。
俺たちの所じゃそうだった」
「この星域でアンタに喧嘩を売るやつがいるなら見てみたいもんだがな。
元中尉改めオキタ准尉、傭兵ギルドはアンタを歓迎するぜ」
「センキュー」
傭兵ランクは帝国軍の階級と同じく尉官佐官で与えられる。
ただし、軍の階級と傭兵の階級はイコールではない。
いろいろなしがらみを含んだ軍の昇進制度と違い、傭兵ランクは純粋な功績だけで判断される。
つまり実績+力=正義。
もっとも、佐官になると流石に人柄も見られるようになるらしいが、荒くれ者の多い世界にそんなことを気にする者も少ないだろう。
軍の要請で前に居た駐屯地に来ていた連中の中には、その辺りを理解していない者もいたので、腕はいいのに階級が低い軍人が下に見られることもあった。
そういった奴は紆余曲折を経て、とても物分かりのいい奴に変貌することになったが。
階級関連で注意するのはその辺りだろう。
で、元帝国軍中尉だった俺は実績を考慮して准尉スタートらしい。
二等兵スタートじゃないのは嬉しい限りだ。
何といっても、階級によって支払われるクレジットの額が変わってくるのだから。
「なあオッサン、ギルドに登録したのはいいんだけど手持ちの機体がないんだ。
このギルドで売ってるTSFを1割引きできないか? そうしたらギリギリ買えるんだが」
「できねえよ。
というか准尉さんよ、あんたクレジット持ってるだろ。
型落ちVSFなら購入した後に燃料弾薬も数度くらい持つし、一旦諦めてVSFにしたらどうだ?」
「俺はTSF乗りなんだが……おい、このVSFは傑作棺桶シリーズの末版じゃないか。
何てものを勧めるんだ」
「准尉なら乗れるだろ」
「近接用のVSFとか産廃だろ? 誰だよこれ設計したアホと採用したアホは」
近接戦闘艦VSF-06S「アウトランダー」
艦首単ビーム砲=弱い。
ミサイル=搭載数少ない。
スラスター類=姿勢制御合わせて搭載数がおかしく戦闘速度出すだけでかっ飛ぶ。
何故取り付けたのか展開式可変翼ビームブレード=超強い。
オプションでブースターとミサイルポット装着可能。
レーザーやビームが飛び交う戦場で、しかも戦闘機のVSFですれ違いざまに近接ブレード翼で当て逃げするとか、仕様出した人間は頭のネジが外れている。
「そう言うなよ。VSFナンバーが付いてるってことは軍に正式採用されてるからだろ?」
「主任務は快速を活かした偵察用だ。
これで近接してるやつとか見たことないからな」
「ならお前さんが最初の一人になるんだろうな。
信頼性があってお前さんの予算に似合うのはこれくらいしかないが、どうする?」
正直そこまで悪い機体でもない。
型落ちとはいえビーム砲の威力は帝国軍の基準はクリアしているし、機動性は落ちるがオプションパックを装備できればミサイルの弾幕も張れる。
積極的に使いたくはないが、ここぞの切り札の近接ブレード翼があるのも悪くない。
「背に腹は代えられないかぁ……TSFまでの繋ぎのつもりで買うことにするよ。
オプションで追加ブースターだけ付けてくれ」
「追加ミサイルポットはいらないのか?」
「機動性が減るのは好きじゃないんでね」
「だろうな、了解した。
VSFのIDも紐づけてギルドに登録しておく。
……勧めておいてなんだが、本当にVSFに乗れるのか?
操縦系統はTSFに似ていても機体特性は全然違うだろ」
「数回乗ったことがあるから何とかなると思うぞ? 両手で足りる数だが」
「お前さんの腕を疑ってるわけじゃねぇが、訓練用シミュレーターしていくか?
仕事の割り振りについてもそうだが、前からお前さんの腕には興味があってね」
「お、いいね」
ニヤつきながら立ち上がるオッサンに笑い返す。
促されるままにシミュレータールームへ案内されるので後ろをついて行くと、部屋の中にいくつか球体があった。
コックピットを模擬している機材だ。
「軍のものに比べたら旧式だろうが、必要なソフトは一式動かせる」
「駐屯地にあったやつと同じだ。使うやつが少ないから古かったんだろう」
「へぇ、そいつは結果が楽しみだな。
アウトランダー用のはこっちだ、乗り込んでもろもろの調整が終わったら連絡してくれ。
オペレータールームから操作する」
「了解」
TSFに乗りなれていた分、VSFのコックピットに少しの新鮮味を感じる。
シートを自分の体格に合わせて調整し、シートベルトを装着する。
操縦系統は軍の正式Noが振られているだけあって見覚えのあるものだ、ぶっつけ本番でも問題はないだろう。
「こちらアウトランダー、準備完了」
『……』
「……? オッサン、返事しろ。通信が繋がってないのか?」
『すまない、来客だ。見学が一人増えるが問題ないか?』
「お好きにどうぞ」
『助かる。ではシミュレーションを開始する』
☆
『宙域戦シミュレーションを開始する。
とりあえず、現れる敵生体を排除する簡単な模擬戦闘だ。
まずは腕慣らしの初心者コース、機体特性を掴むことを意識しろ』
「了解」
コックピット内の全周囲モニターが明るくなり、周囲に宇宙空間が広がる。
小惑星のような障害物もないフラットな空間だ、機体ならしには丁度いいだろう。
『所属不明艦接近』
「さて……やりますか!」
機首を敵機に向けたまま、スラスターを噴かせて急上昇する。
アウトランダーは可変式スラスターを搭載しており、オプションの追加ブースターもそれに倣って稼働する。
慣性制御を超えた0-100の圧倒的な加速Gがシートに体を押し付けてくる。
「機動性は悪くないな」
敵機との距離があるとはいえ、レーダーとスラスターの光を見てこちらの位置を把握できているのだろう。
少し遅れて機首をこちらに向け、発砲してきた。
敵機から放たれた淡いビームをそのまま上昇しつつ弧を描くように回避。
動きをそのままに背面スラスターも同時に吹かしながら接近し、ビーム砲を発射、船体を貫かれた敵機は爆散した。
「紙装甲……」
敵機にもシールドが搭載されているだろうが、自機のビーム砲はシールドに中和されることもなく貫いた。こんなに脆いのが普通なのだろうか?
『宙賊の機体なんて殆どが民生品の改造機だぞ。
旧式とはいえ軍用機のビームならそんなもんだろうよ』
「軍用機でも個人が運用できるTSFやVSFのシールドは有ればマシ程度の感覚だし、そんなもんか。
それにしても性能差が酷い気がするが、これじゃ訓練にならなくないか?」
『お前自分が普通だと思うなよ……難易度を上げる。ベテラン用でいいだろ』
「どうぞ」
こちらを包囲するようにして始まった2度目のシミュレーションだが、状況はともかく敵機の挙動がお粗末すぎる。
的当てをしに来ているわけじゃないんだが、とりあえず一機ずつ丁寧にビーム砲で貫いていった。
「もっとこう、さぁ? 心躍るシチュエーションと敵の訓練コースはないのか?」
『あるにはあるが、流石のお前さんでも無理だと思うぞ』
「いいからいいから、状況開始」
出てきたのは巡洋艦とTSF/VSFの混成部隊だった。
どこかで見たことのある部隊編成でなかなかの難易度だ。
巡洋艦に搭載されている重レーザー砲は粒子を放出するビーム砲と比べると格段に速く、当たればまず耐えられないだろうが、動き続けていれば大味な武装なんてそうそう当たるものじゃない。
そんな巡洋艦の火力を引き出すための追立役としているのがTSFとVSF部隊なのだろうが、あえてその中に突っ込んでかき乱してやれば連携なんてあったもんじゃない。
狼狽えているように見えるTSFに向かって直進、可変ブレード翼を展開してビームを纏わせ、翼で撫でるように横を通り過ぎた。
「おお、やればできるもんだな」
『ブレード使うとかマジかよお前』
「シミュレーションだから出来たことってね」
そのままの勢いで他の数機を真っ二つ、巡洋艦はスラスターを膾にしてミサイルとビームで沈めてやった。
出来そうだからやるのがシミュレーションだろうに、引き攣った顔で見られるのは心外だ。
『訓練は終了だ。分かっちゃいたが、お前さんならどこでもやれるだろうよ』
「どうもありがとう」
久しぶりのVSFだったが、及第点の動きはできただろう自分に満足だ。
やっぱり体に掛かる適度なGは心地いい、生きている感触がする。
手早くシミュレーターを落としてシートベルトを外し、コックピットの外に出る。
シミュレータールームの出口にいくと、渋面のオッサンと満面の笑みを浮かべている見知らぬ女性が待っていた。
「期待には添えたか?」
「期待以上だったぞ。噂通りの腕前だ」
「碌な噂じゃないだろ、それ」
こちとら何度も機体壊してきたからな。悪評が広がってることはお見通しだ。
「で、そちらさんはどちらさんで?」
「護衛探しの依頼に来た貿易商だ。どうぞ、代表」
「初めましてやね、准尉の兄さん。
ウチは輸送艦インテグラの艦長兼貿易商の代表しとります、『ハーフリング』のハイデマリー言います」
「こりゃご丁寧にどうも。自分に何か用でも?」
「兄さん登録したばっかで仕事決まってへんやろ
ウチの艦の護衛してもらえへんやろか? 弾むで?」
見事な西銀河系訛りでニマニマと笑うハイデマリー。
今までに何度か感じたことのある、面倒事の予感を感じながら握手を交わしたのだった。
機体種類の造語はSFの前に適当に打ったのがTとVだったからTSFとVSF
ヴォイドは宇宙系の単語で見つけたから