第10話 勇者の招待。
勇者の家に来た。
「お茶です」
「ありがとう」
「おいしい?」
「マイルド」
「そりゃ、まいるどー、なんてね!(^_-)-☆パチン」
「あははは!」
「あははは!」
つかみは上々。
さて、聖剣の本来の力を解放してもらうため、勇者に恋をしてもらうため、がんばるぞ!
俺はキョロキョロする。
誰もいない。
「両親は?」
「いないわ」
「仕事?」
「いいえ。・・・・・・・・・・・・死んだわ」
「そ、そうか・・・」
しーん。
ズズズ。
部屋が静まり返って、俺のお茶を飲む音が、妙に大きく響く。
・・・なんてことだ。
初っ端から躓くなんて。
俺は恋の話しがしたいのに、とてもじゃないが、そんな雰囲気じゃ無くなった。
俺はカラカラの喉で、無理矢理声を出した。
「せ、戦争か?」
「・・・いいえ、船が沈没したのよ」
勇者は涙を流した。
作戦開始13秒で、勇者に恋をしてもらう作戦は、立て直し不可能な段階になっていた。
「すまない、勇者」
「・・・・・・クレア」
「え? なんて?」
声が小さくて聞き取れない。
勇者は机をバンッて叩いて、立ち上がる。
「だからッ! 勇者じゃなくてッ! クレアって呼んでッ!」
「わ、わかった。クレア」
「えうぃっ!?」
クレアは銃弾に撃たれたみたいに、両肩を跳ね上げた。
「・・・・・・・・・・・・なによ」
クレアは下を向く。
サラサラの長い髪で、顔が隠れ、表情が分からない。
「べつに、ただ、呼んだだけだ」
「・・・・・・・・・・・・そう」
しーん。
ズズズ。
ふたたび、俺のお茶を飲む音が、妙に大きく響く。
なんか、呼吸はできるのに、窒息しそうだった。
心臓を針で刺されている気分と言えば、分かりやすいかもしれない。
心の冷汗が止まらない。
全ステータス∞だけど、空気の重さで、死にそうだ。
俺は立ち上がった。
「ウマいお茶だった。感謝する。そろそろ帰るな。ばいばい!」
「えッ!? もう帰るのッ!?」
「ああ、お茶を一杯いただいたしな」
「ああ、ええっとッ! そのッ! まだッ! えーっとッ! あッ! そうよッ!!!」
クレアが台所へバタバタ走っていく。
「これッ! 今から作るからッ! 一緒に食べないッ!?」
クレアがパスタを持ってきた。
すごい勢いだ。
「しかもねッ! 高級パスタよッ!」
「・・・わかった、食べよう」
俺はふたたび、椅子に座った。
クレアが嬉しそうな顔をする。
「うんッ! すぐに作るから、テキトーに待っててねッ!」
クレアがバタバタと台所へ走っていく。
「・・・パスタか」
ここから、クレアが料理をする後姿が見える。
恋の話しができなかった。
俺はどうやれば、キャピキャピなコイバナをする雰囲気にできるかと、頭をかかえるのだった。




