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椎名代理店  作者: 奇文屋
PR
8/21

護衛

 本日は朝から依頼が舞い込んだ。

依頼人は『滝上良美』

「白石の方ですか」

 差し出された名刺を見る。

「はい。お二人の事はある方から」

 ある方と言うのは……間違いなくアノ人だろう。

「かなりの腕前だとお聞きしましたので」

 その言葉で依頼が物騒な内容だと推測できる。

「で、何をすれば」

「実は」

 小声になる依頼人。

「五日後、軍に採用される武器のプレゼンが行われるんですよ」

 それに参加するのは嫌だな。代理屋としては責任重大過ぎるだろ。

「その時に我が社の新技術を使用した武器を発表するんです。その時に護衛して欲しいんです」

「護衛……ですか」

「はい」

「う〜む……襲われる可能性はどの位あるんですか?」

「無い。とは言い切れません」

「襲撃者を捕まえる必要はありますか?」

「いえ。例え捕らえても所属や何処の依頼かは言わないでしょう」

「確かに」

「ん〜」

 天井を見上げて、

「分かりました。お引き受けします」


 待ち合わせと移動手段についての打ち合わせの後、依頼人は帰っていった。

「いいんですか?」

「ま、いいんじゃない? あの子の紹介だし」

「それはそうでしょうけど」

 襲撃が前提の依頼。

どんな襲撃者なのか? 俺の闘い方は通用するのか? 等と考えてしまう。

「おい。今から緊張してどうする?」

 ビクッとしたのが見られてしまった。

ソファで笑っている店長。

「その余裕を分けてくださいよ」

「若いね〜」

「俺の方が年上ですよ」

「え? 何? 三年先に生まれたからって年上ヅラ?」

 三年なら充分だと思うけど。

「そんな気は無いですけど」

 目が恐いので、話を変えよう。

「依頼の事ですけど、襲撃はどの程度の数なんでしょうか?」

「うーん。プレゼンに参加する企業全部?」

「いや。俺に聞かれても」

「でも、当たらずとも遠からず?」

 何で疑問系?

「うーん、当たってる確率は、例えば……晴れのち曇り、時々雨」

「……何も判らないてことじゃ無いですか」

「ま、やってみれば分かる」

 思ってた通りの答え。

「じゃ、レストにでも行くかな」

「俺もちょっと出てきます」

「そ。すぐに帰って来いよ」

 店長はレストへ向う。

俺は緊張している体を解す為にジョギングへ。

強張った体と表情じゃ仕事にならないしな。


 それから五日後。

毎日の型の稽古の為、若干の筋肉痛が残る俺の体。

 朝、依頼人との待ち合わせ場所。『ラフト駅』に到着。

「あれ? 千早は」

「徹夜明けで無理。だそうです」

「あ……そう」

 僅かながら表情が曇る。

ま、戦力としてアテにしてたんだな。俺もそうだけど。

かなりの戦力低下の中、依頼人を待つ。


 来るまでの移動中。

車内には緊張感が漲っている。

「ラジオ聞いていい?」

「あ、どうぞ」

 沈黙に耐えかねた店長がラジオをつける。

「緊張して無いんですね」

 ハンドルを握る店長に微笑み掛ける滝上さん。

「そんな事無いですよ」

 微笑む店長。その顔は言う通り少し強張っている様にも見える。

「襲撃があるなら早く来て欲しい様な、来ないで欲しい様な。それが正直な気持ちですね」

「店長も緊張とかするんですね」

「お前、私を何だと思ってた? ん?」

 左手で頬を抓られる。

「痛たたたた……すいません」

 車内の空気が少し和らぐ。


 車は快調に走り、ラフトシティを抜けて峠に入る。

「血が騒ぐな〜」

「くれぐれも安全運転で」

「分かってる。安心しろ、私のドライビングテクニックはお前も知ってるだろ?」

 分かって無いじゃないですか。店長。

「さぁ。踏むよ!」

 踏まなくていいですから。


 軽く酔ったか……?

少し足元がふらつく。

「はい。予定より五分短縮できました。拍手〜」

 パチパチと手を叩いている店長。

峠を越えて着いたのは『白石光学研究所 開発センター』

「じ、じゃ、入りましょうか」

 少し気持ち悪そうな滝上さんに着いて行く。


 駐車場から歩いてくる内に気持ち悪さが無くなっていった。

明らかに「何か作ってます」というような施設内の雰囲気。

「凄いな〜。私もコレ位の部屋が欲しいな〜」

「広すぎませんか?」

「漫画とかDVDが多くて場所からなー。欲しいのはまだあるし。千早だってそうでしょ?」

 あえて何も答えまい。   

「黙るって事は肯定って事で」

 ……見透かされてるな。流石は似た者どうしか。


 完全なバカ話を聞きながら前を歩く滝上さんはクスクスと笑っていた。

「こちらです」

 所長室。とプレートに書いてある部屋に入る。

入ると、見た目三十手前の男性がいた。

「お待ちしてました。そちらは始めましてで良いですよね。私は」

 差し出される名刺。

『白石光学研究所開発センター 第二開発室長 魚住周』 と書かれていた。

「魚住室長。早速ですが」

「分かりました」

 俺達にソファを勧めて、その間に一つのケースを持ってくる。

「これが我が社が開発した新型のチャクラムです」

「え? 白石の新型ってチャクラムなんですか?」

「え、でも軍の採用試験ですよね? 他の武器は?」

「今回はチャクラムに絞って開発しました。他のも開発しましたが性能は予定していたものよりも低かったので」

「チャクラムだけが予定通りだったんですか?」

「予定の出力に近かった。と言うのが正確ですね」

 白石の新型チャクラムと聞いて少し目が輝いた店長。

「それに、数撃つのは簡単ですけどそれで結果が出ないと僕の首が危ないですからね」

「うぅん。……では魚住室長。お預かりします」

 咳払いで魚住室長を嗜める滝上さん。

「うーん。僕はお二人ともう少し話したかったんですが」

「それはまた次の機会に。失礼します」

 滝上さんが立ち上がったので俺達も立ち上がる。


 開発センターを出て車を走らせる。

市内に戻ってからプレゼン会場に向う。

「ここを越えればすぐですね」

 俺としてはさっさと通り抜けたい。

「プレゼンて何するんですか?」

「え? 漠然とした質問ですね」

「千歳の頭じゃその程度の事しか聞けないよね」

 そんな言い方は無いんじゃ。

「うーん。開発データを見せながら説明かな。後は軍による実戦テストの結果次第ですね」

「へ〜」

「意外にインドアなんですね」

 店長のその言い方もどうかと……。


 ん? 何か光った……?

サイドミラーに何か光るモノが見えた様な。直後、

「うわっ!!」

 破裂音の直後、ハンドルを切る店長。

耳障りな音と走っていると言うより滑っている感じの状態の後、草むらに突っ込んだ。

 草むらに突っ込んで止まった車。

「大丈夫?」

「滝上さん?」

 後部座席でケースを抱えながら蹲っていた。

「あ、っっ」

 どうやら無事な様だ。


 車を降りて辺りを調べる。

「一体、何が?」

「それは私が聞きたいな」

 破裂したタイヤを調べている店長。その横で滝上さんが座っている。

俺はタイヤの後を見ている。

その先に人影が見えた。

「考えなくても分かるやろ?」

「え」

 この声は?

 風を切るモノが……避けようとするが反応が遅れた。

「千歳ッ!」

 風が俺の両脇を駆け抜ける。

「逃げるぞ! 速く!」

 滝上さんの手を引いて立たせる。

「逃がすと思うなよ?」

 もう、戻ってきたのか!?

「チャクラム使えるのがお前だけだと思うなよ!」

 店長のチャクラムが男に向う。

「お前もな」

 距離を詰めて行く。途中でチャクラムをキャッチして更に詰めて行く。

「ほう?」

 一歩、二歩。大きく踏み込んで飛びかかる。

回転して右回し蹴りから左蹴りで顔を狙う。

後ろに下がるが、店長は追いかける。

「先に行けっ!」

 店長に見惚れていた俺。店長の声で現実に帰る。

「今の内に!」

 滝上さんの手を引いて森の中に向う。


「はぁ……はぁ」

 森の中を駆けて行く。

随分走った様な気がするが安心は出来ない。

「はぁ……はぁ……だ、大丈夫でしょうか?」

「店長は……やる時はやる人ですから」

 息を整えつつ、走ってきた方を見る。

何も見え無いし、何も聞こえない。

 ……大丈夫ですよね。

「少し休んだら行きましょうか」

 気にもたれかかっている滝上さんの息が整うのを待つ。

「私なら大丈夫です。行きましょう」

 俺がケースを持った方がいいと思うが、他にも襲撃者がいないとは限らない。戦闘を前提に動かないと。


 森を歩いていると、後からの視線に気付いた。

「滝上さん」

「はい」

 俺が視線に対する対応を取った瞬間、それが殺気に変わった。

「俺の前にっ!」

「きゃっ!」

 滝上さんの腕を掴んで引っ張る。

直後、長柄が滝上さんのいた場所に突き刺さる。

「余計な真似を」

 長柄の先にいたのは大きな男。

目には明らかな殺気。

 この目じゃ……話す事は無理だな。

滝上さんを引っ張って走って行く。

「ふー」

 静かに息を吐いて、短槍を構える。

少し開けた場所。長柄相手に不利かもしれないが俺もあの狭い空間じゃ闘えない。

 追いかけてきたのは大柄な男。持っている槍も長い。目測……五メートル位か。

第一印象、長すぎるだろ。

「大人しくっ」

「する訳無いやろ!」

 迎え撃つが完全に間合いの外。突きを避けて、避けて、避けるしかない。

森の中、開けているといっても木が邪魔で攻撃が突きだけの単調なものになっている。

それだけの長さがあればそうだよな。

実戦経験では劣るかもしれないが、この状況なら俺にも勝ち目がある。

 冷静に、落ち着いて。相手を見て、切っ先を見る。

起動していないレーザー。これなら死ぬ事は無い。

打撲以上の覚悟はいるが。

 何度目かの正面の突き。タイミングを見て避けそのまま懐に入っていく。

くそ、普通の槍なら手が届くのに。

「ふんっ!」

 手が届く直前に槍が動く。

「くぅっ」

 強引に払われる槍。吹っ飛ばされる前に体を沈める。

ごろん、と地面に寝転がる。真上に槍が振りかざされている。

「うぉ!」

 ごろごろと転がっていく。

ズシン、と響く音。

上がる土煙。

 軽々と持っているが重量もそれなりにあるのか。

「はぁ……はぁ」

 立ち上がり相手を見据える。

さっき感じた勝機がまったく感じられない。それでも

「……ふー」

 恐がっている時じゃない。

後には滝上さんがいる。依頼人の前で情けないトコは見せられないしな。

代理屋としての使命と男としての下心。

それを燃やして戦意と変えよう。

「参る」

 律儀に宣告してから攻めてくる男。

突きから俺が体勢を少しでも崩したら払いに変わる。

 先ほどと変わらない攻め方。

しかし、受けたら吹っ飛ぶか短槍が折れる。だから受ける事は出来ない。

さっきと同じ様に俺もタイミングを見て詰めるしかない。

ただ詰めるだけじゃさっきと同じ様に吹っ飛ばされるだけだ。……それなら。

 突きを避けて一歩踏み出す。

さらに一歩踏み込んむ。短槍を繋げればギリギリ届く!

突き出された俺の槍が男の右腕を掠める。

槍を捻って短槍に戻し、そこから一歩間合いを詰める。

この距離なら! 男が離れる前に出来るだけ手を出せ!

 狙うは腕。それから足。

武器を持て無くして追えない様にする。

俺の狙いはバレているだろうが……攻めるだけだ!

 思いっきり叩きつける。衝撃に負けて槍が手から離れた。

しゃがんで左膝を思いっきり振り抜く!

 崩れる男。

離れて、滝上さんの手を引いて、

「今の内に!」

「あ……はい!」

 また、森の中を駆けて行く。


「さっさと退いてくれよ」

「はぁ……はぁ……いや」

 じっと目を見据えて答える。

私は息が上がってるのに、コイツは全然上がってないな。

「俺の方が強いって分かったやろ」

「うるさい。黙れ」

 くそ。睨んでやる。

「はは。何でそんな強気なん?」

 時間さえ稼げれば後は千歳が……

「悪いが、いつまでもお前に関わっている時間は無いんや」

 腕が振られる。飛来音が聞こえる。同時に男が真っ直ぐ詰めて来る。

男から目を逸ら事は出来無いしチャクラムの軌道にも注意しつつ、構える。

 一歩下がる。目の前をチャクラムが駆け抜ける。

それをキャッチして至近距離での攻防。

 レーザーを起動していないから命に関わる事は無い……筈。

女だからって手を抜かれるよりはいい。私も本気で闘える。

 力はあっち。スピードは……若干あっちが上。技は……悔しいがあっち。

惨敗かよ。私。

それでも退く訳には行かないな。

 じっと相手を見て僅かな隙も見落とさない。

最初に見つけた隙を最大に活かす。

 私の考えを見破られるな。

避けられる事を前提の攻め。バレバレでは意味無いから本気の牽制。

 ……ここ! このチャンスを逃してたまるか!

振り上げられた右手。振り下ろされる前に間合いを詰める。

私も右手を突き上げて、軌道を逸らせる。

そのまま左手をたたんで、肘打ちを食らわせる!

 振り抜いた左肘。鈍い衝撃。

咄嗟に翻って森に向って走り出す。

男の体が曲がった。確認できたのはそれだけ。

とりあえず……あいつ等に追いつかないと。


 木々の間を駆け抜けて小川に出た。

「ここで少し休みましょうか」

「はい」

 汗を拭い、水につけた手が冷たくて気持ち良い。

「大丈夫でしょうか?」

「店長の事ですから。大丈夫ですよ」

 俺も早く合流したいが連絡出来ないしな。

緊迫したバトル中にケータイなるのもな……

とりあえず森を抜けないとな。それと店長と合流しないと。

それに、槍の男と最初に来た男。

また、闘う事になるのか。覚悟は決めておこう。

「じゃ、行きましょう」

 ガサッ。

滝上さんを庇うように立つ。少し休んだ事で緩んだ緊張をまた張りなおす。

 もう追いついたのか。それとも時間を掛けすぎたか。

どっちでもいい。とりあえず……先手必勝。

音のした方に突進する。

木陰から出てきた人影に、

「お」

 誰かと確認する間の無く投げられた。

ドスン、と背中から着地。

痛み歪む視界に映ったのは、

「あ〜……すまん」

 ポリポリと頬を掻いている店長だった。

「いえ。こちらこそ」

 店長と合流した後、小川に沿って歩いて行く。

「こっちでいいんですか?」

「知らん。とにかく動いておかないと」

 その考えには賛成。

とりあえず俺が会った男について報告。

それと店長が闘った男についても聞く。

聞いた感じ、懐かしい様なこの状況では会いたく無かった様な。

「お前の知り合いか」

 考え込む店長。

「で、どうします? これから」

 肩を竦めて、首を捻る店長。

「……何も無いんですね」

 沈黙。

小川に沿って歩き続けていると、

ガサッ!

「逃げるぞっ!」

 振り返る事無く先頭を走る店長。

「急いでっ! 滝上さん!」

 店長が滝上さんの腕を引っ張って走る。

滝上さんの後を走る。

 チラッと視界に映ったのは、

「よう。まだこんなトコにいたんか?」

 最初に襲ってきた男。

「くっ!」

 響く剣戟。

「やっぱり千歳か」

「! 宗士君」

 懐かしい顔が目の前にある。

「久しぶりやな。千早はどうした?」

 場違いな話の内容。

「何で宗士君が」

「ん、俺か? 俺は仕事。お前もやろ」

 パッと離れて、再び接近戦。

店長と同じ様な闘い方だけど……

スピードが違う。受けきれないし避けきれない。

 最初の一撃は俺だと確認する為力を抜いていたのか。

右腕を掠める攻撃。痛みを堪えて左からカウンターを狙う。

 完全に読まれていた。寸前で空を斬る。

「がっ」

 カウンターを狙った左腕がチャクラムで弾かれる。

鈍い衝撃に耐え切れずに短槍を離してしまう。

「さっきの女の方が強かったぞ」

 この言葉を最後に意識が途切れた。


「誰? アンタ」

 バカみたいに長い槍を持った男が出てきた。

「その女が持ってるケースが欲しいんだ。大人しく渡せ」

「い、や」

 反転して滝上さんを引っ張って行く。

千歳が言ってたのはコイツか。

さっきの男とは違ったタイプだな。

「ふー。とりあえず。滝上さん」

「はい」

「ここからは一人で行ってくれる?」

「え」

 ま、この状況で言われたら驚くよな。

「えっと、依頼を放棄するんじゃなくて私があの男を引きつけるからその間に少しでもここから離れて」

「え。でも……それじゃ」

 これが今考えられる最善の策。

残念ながら勝機は多くて三割位だろう。

後はどれだけ粘れるのか。

千歳が来れば何とかなるかも知れないが、追ってきたのがあの男じゃそう期待は出来ないな。

「大丈夫。そう簡単には行かせないから」

 そう言うのが精一杯の強がり。

「分かった? じゃ、また後で」

「御無事で」

「ありがと」

 滝上さんが歩いてく方と反対方向へと向き直る。

……目を閉じ、深く長く息を吐いて……覚悟を決める。

「良い覚悟だな」

 その声に目を開ける。

「待っててくれたの?」

「ま、気にするな」

「しないわよ」

「じゃ、やるか」

 風を斬るとか、そんな優しい表現は似合わない感覚が体を駆け抜ける。

 受ける事を考えるヤツはバカだ!

しゃがんで避ける。頭上を通過した瞬間にチャクラムを投げる。

下から上への放物線を描いていく。

顎を引いて避けるが、チャクラムは数枚の葉を落として下がった私の手に戻ってくる。

 これだけの体格差が合ったら私の体術じゃ効かないだろうな。

だからと言ってまだ逃げる事は出来ない。

もう少し時間を稼がないと。まだ、距離が取れてないだろう。

「ふっ!」

 考えてる場合じゃないな。行動あるのみ。

切っ先を見据えて、右、左、前、後。ステップを踏んで距離を詰めて行く。

 次に踏むステップを読まれて突き出される槍、

「っ!」

 ギリギリで……体勢を変えて避ける。

「くそ」

 追撃を避けていく内に元に位置に戻る。

「スピードはいいが、それだけではな」

 スピードは私の勝ちだと認めたのか。

「パワーも当たらないと意味無いよ」

「はは、そうだな」

 挑発にならなかったか。

「じゃ、続けようか」

 巨体に似合わないスピード。

私やさっきの男よりは遅いが威圧感は違い過ぎる。

 先を読め。

グッと腰を落として男の体と切っ先を見据える。

 突き、薙ぎ払い。振り下ろしから突き出し。

一撃ごとに一歩下がって避けていく。

 ドン、背中に衝撃。

引き絞られる右腕。

突き出される槍をギリギリまで動かずに、

「はっ」

 左頬を掠める槍。切れたのかじんわり痛む頬。

木に突き刺さる槍。抜けないのが理想だがそんな漫画みたいには行かないだろう。

木の後に回り五歩離れてチャクラムを起動して投げる。

円軌道を描いて木の向こうにいる男に向うチャクラム。

光る軌道を描いて木の向こうで交差する。

 狙ったのは両足。

直には動けない程の傷を追わせる事が出来れば……。

回りの枝を切り落としながら戻ってくるチャクラム。

「はぁ……はぁ」

 膝に手をついて息を整える。

「ふぅー」

 警戒をしつつ気の向こうを見る。

「はは。やるな」

 座りこんで私を見て笑っている男。

「まだ?」

「無理だろ。残念だが俺の負けだ」

「さっさと認めれば痛い目見なくて済んだのに」

「そうだな」

「せっかく二人で来たんだから一緒に来れば」

「二人? 俺は一人でこの依頼を受けたんだが?」

「え? 依頼? アンタ代理屋?」

「お前もか。他にも目的が同じヤツがいるのか。ま、後は頑張れ」

 興味が無いのが分かる激励。そして、服を破って足に巻いて立ち上がる男。

漫画みたいだぁ。

「あ。俺は『本多大輔』」

「私は椎名夏子」

「椎名夏子か。じゃ、またな」

 ゆっくりと歩いて行く本多。

「さて、残るは後一人」

 ヒリヒリ痛む頬を押さえて空を見上げる。

……あ、血が出てる。


「ん」

 目を覚ますと同時に痛みが走る。

「ん〜。と」

 確か……

「あ」

 宗士君と闘って……それから。

辺りに人気は無い。

という事は……

「ヤバ」

 ガバッと起き上がり、脱兎の如く走り出す!


「ちょうど良かった。持ってるソレ、欲しいんやけど」

 森に入る前に襲ってきた男が目の前にいる。

「さぁ? 素直に渡してくれんかな」

 近寄ってくる男。

振り返って走り出す。が、

「痛っ」

 足に痛みが走る。

「素直に渡してくれたら痛い目見んで済むのに。さ」

 手を出してくるが、答えは、

「断ります!」

 足の痛みを堪えて来た道を戻る。

「そんなに痛い目見たいか?」

 どんな目に遭ってもこれは渡せない。

「ふー。女苛めるのは趣味とちゃんやけど」

 目の前から何かが飛び出し、

「!」

 男に向って行く。

「お。ええタイミングやな。千歳」

 流れる様に、舞う様に。そんな印象を受ける彼の攻め方。


「さっきとは違うな。はは。強くなったか?」

 くそ。まだ余裕があるのか。

受ける事もなく、体の動きだけで避けられていく。

しかも、ギリギリ。空振っても攻めてこない。

「はぁ……はぁ」

 肩で息をする。

「千早に稽古つけて貰ってないんか」

 腰に手を当て、膝に手をついている俺を見る宗士君。

攻めて来ないのは余裕か……これが力の差か。

「ま、昔よりは強なったが」

 言葉が止まる。

「その余裕がホンットにムカつくんだけど!!」

 聞きなれた声と共に、頭上を駆け抜ける物体。

「よ。お前も来たんか」

「店長」

 振り返ると店長が立っていた。

「さて、後はコイツだけか……じゃ、行くぞ」

 戻ってきたチャクラムを握りなおして、

「千歳!」

「了解!」

 左から飛んで行くチャクラム。

動かない宗士君。

ギリギリで避けるのなら、俺もギリギリまで待つ。

 後に下がって軌道を外す。

俺は二歩踏み込んで右から薙ぎ払う。

 更に下がる宗士君。

しかし、左右から同時に襲い掛かるチャクラム。

「ほう、左右で軌道を少しずらしてるんか……やるなぁ」

 両方の軌道を見切っている。

「これでっ!」

 二つ目のチャクラムを避け、体勢が崩れた瞬間に突き出す。

流石、と言うべきか。強引に捻って避けるが、

「二槍だったな。お前」

 もう一本の短槍で追撃。


 突き出した槍。

宗士君の手が動く。同じ手は喰らわない。

チャクラムで弾かれる前に、短槍を離す。

 弾かれて飛んでいく短槍。

「これで!」

 残った一本も突き出す。

「アホ。攻め方が単純やな」

「何がっ!」

 空を斬る俺の攻撃。

「さっきと同じ」

「とは違うでしょ。私がいるし」

 しゃがんで宗士君の蹴りを止める。

そして、店長が俺の真後ろから飛びかかる。


 木に突き刺さった店長のチャクラム。

その間で笑っている宗士君。

「はぁ〜。俺の負け?」

 負けず嫌いな宗士君。

「何でもいいけど……諦めてくれない?」

「ちょっと油断しすぎたかな」

「聞いてる?」

「ん? 何?」

「聞こえてただろ? 宗士君」

「千歳、話し方おかしないか?」

「そんな事より!」

 ちょっと苛立ってきた店長。

「どう!? 帰る!? 痛い目見る!?」

「俺も依頼があるんやけど」

「こっちも依頼なの!」

「おい、千歳。何で怒ってるん? この女」

「お前の所為だー!!」

 引き抜いたチャクラムが、

「痛っったっ〜!!」

 宗士君の脳天にクリーンヒット。

静けさを取り戻した森の中、宗士君の悲鳴が響き渡った。


 二人の襲撃を何とか退けた。

森を抜けて、車のパンクを直しす。

「さて……時間はどうなんですか?」

 滝上さんが時計を見る。

「ギリギリかも」

「じゃ、行っきまーす」

 ホイルスピンさせて、

「うわっ!」

「きゃっ!」

「あっはっはっは」

 店長の高笑いと後に押される感覚と共に発進する。


「到着〜」

「すいません! 後で!」

 駆けて行く滝上さん。

しかし時間は、

「は〜。間に合ってないよね?」

「はい。プレゼン開始は二時からって言ってましたから」

「遅刻厳禁だろうな」

「そうでしょうね」

 車で待つ事五分弱。

肩を落とした滝上さんが帰ってきた。

その姿でダメだった事が分かる。

「……あ〜。その」

「すいません。お二人にはあんなに」

「ま、こんな時もあるよ」

 ポンポンと肩を叩いて、

「さて、帰ろうか」

 今度はゆっくりと発進する車。

「お腹空いたな。ちょっと寄り道して行こうよ」

 店長の提案によりドライブしながら帰る事に決定。

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