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椎名代理店  作者: 奇文屋
5/21

店長と

 今日一日の仕事が終わり、帰り道をブラブラと歩いている。

行き交う人波は忙しなく楽しげだ。

 帰ってから姉ちゃんとのチャンネル争いにどうやって闘うかと考えていると、、

「助けて!」

 と、前から一人の女性が走ってくる。

「え」

 グッと俺の腕を掴んで回りこむ。

肩越しに女性を見ると、切羽詰った顔で、

「助けて!」

「え」

 事態が飲み込めないでいると、

「何処に」

 黒服を来た、『ソレっぽい』男達がやってくる。

「お願い」

 声が震えている。

 その内の一人が俺に気付く。

「あ、ちょ……」

「逃げよう!!」

 女性が俺を引っ張って行く。

「え」

 グイグイと引っ張られて走って行く。


「え? 何!?」

 引っ張られて夜のノーティス通りを走っていく。


 その後方に黒服を着た男達。

 皆が俺達を見ている。

「しつこい」

 振り返り追いかけて来る男達に一言。

そりゃ、何か用があるから追いかけて来る訳で、それ重要なほどしつこいだろう。

 しかしいつまでも走り続ける事は出来ない。

 女性も顔に汗が流れている。かなり疲れている。

 通りに立ってある、レストランの『のぼり』を取り、向き直る。

「おい」

 走ってくる男に、

「フッ!」

 鳩尾に一突き。

倒れる男。

 突き出した手を引き、回転。

後から着た男に横薙ぎ一閃。

 ポキッと折れるのぼりを捨て、三人目は間合いを詰め、

 ドン。

また鳩尾に肘打ち。

倒れる三人をそのままに、

「さぁ」

 女性の手を取って夜の街を駆けて行く。


「ここまで来れば」

 ノーティス通りを走り続け、市民公園まで辿り着いた。

「疲れたー」

 女性がベンチに座り足を伸ばす。

「ホントに……」

 月明かりの中ベンチに座る俺達。

「で、何?」

 向き直って問いただす。

正面から見ると、くっきりとした目鼻立ちの美人。顔が赤くなる。

「何って…何が?」

 この場合、一つしか無いと思うのだが。

「あの男達」

「……」

 沈黙。

そして、泣きそう。

「あ、えっと。その……」

 どうしたらいい?どうしたら……?えっと……。

 何も思いつかない!

「……」

 目から液体が流れる女性。

!!!!

 ……落ち着け!落ち着けよ!この場合は……えっと……その……

 パニックになった俺を見て、

「……」

 口元だけ笑っている。

「……はは」

 つられて笑う。泣かれるよりいい。

「あの…友達呼んでも……」

「あ、はい。どうぞ……」

 渡りに船ってこういう時に使うのか……。


それで来た友達は、

「イリタマ〜」

 駆けよる女性。

「大丈夫? ハクサイ?」

……イリタマ? ハクサイ?

 公園のライトで見えた顔は、

「何でアンタがいるの?」

 ……衣里だった。

「それは俺が聞きたい」

「何でアンタがいるのを私が説明できるのよ」

 もっともな論理だ。後から来た衣里が説明できたら全てはコイツが仕組んだ事だって事だな。

「あれ? 知り合い?」

 と、俺と衣里を交互に見る女性。

「バイト先が一緒」

「あ。そうなんだ。偶然って凄いね」

「で、何でコイツと一緒にいるの?」

「助けてもらった」

「誰に?」

 指差す先にいるのは俺。

「誰に追われてたの?」

 声に緊張が走る。

それは俺も聞きたい。あんな人目のつく所で誘拐する位だからそれなりに危険な香りがする。

「私のボディガード」

 ……?

「……え」

「『イリタマ』と遊ぼうと思って家出たら追いかけてきて」

「イリタマ?」

 おそらくニックネームの様なものだと思う。

「アンタね。ちゃんと言ってから来なさいよ」

「言うより先に体が動いてさ」

 テヘへ。と頭を掻く。

「あの……イリタマ……って?」

 指差す先にいるのは衣里。

「……イリタマ?」

「そ」

「……」

 よく分からん。

「えっと」

 地面に衣里と書いて、

「『いり』って読めるでしょ」

「まぁ……」

 俺も最初、ネームプレートを見た時そう呼んだし。

「で、『いり』と言えば『いりたまご』略してイリタマ」

「……はぁ」

 衣里を見る。

「何? 文句あるの」

「いや……別に」

 本人がそれでいいなら。

「で、こっちが『ハクサイ』」

 指差す先にはにっこり微笑む女性。

「……はぁ」

 そっちで通じる略称で紹介されても、俺は名前を知らないから。

「あ」

「何?」

「まだ、名前言って無かった。『白石 春菜』と言います」

 地面に名前を書いてハクサイの理由が分かった。

そして俺の名前を言った瞬間に言われる言葉も。

「小林千歳です」

「小林千歳か〜」

「『アメ』は無しね」

 機先を制する衣里。

「……分かってるよ〜」

 一瞬、間が開く。それから上を見上げて考える。

「コバッチは何か習ってたの?」

 ……コバッチ……コバッチかぁ……。

まぁ、アメよりはマシ……か?

「何? どうしたの」

「え。だってウチのボディガードを一瞬でノシちゃったから。何処の流派?」

「星詠槍術二段です」

「マジで?」

「え、知ってるの?イリタマ」

 俺は言った覚えはない。

「え、知らない」

「じゃ、何で驚いたんだ? お前は」

「驚いたのは二段の方。段位まで取ってたとは」

「じゃ、当然、持ってますよね。槍」

「まぁ……一応」

「何処の?」

「……何処のって?」

「え。メーカー」

「……何の?」

「槍の」

「確か……リ・エイトだけど…」

「うわ〜」

 首を振り残念がる白石さん。

「……えっと……あの」

「有り得ない、有り得ない……」

 呪文の様に呟く彼女には俺の声は届いていない。

事情を知っていそうなもう一人に説明を求める。

「ハクサイは白石の社長令嬢なの」

「……? 何?」

 令嬢……って言ったのか?

「『白石光学研究所』の令嬢がハクサイなの」

「……マジで?」

「マジ」

 頷く衣里。

「あの?」

「そう。あの」

 白石光学研究所。と言えば武器開発の大手メーカー。

シェアでは『リ・エイト』に後一歩の所まで来てるとか、新聞に書いてあった。

「ま、今日は送ってくよ」

意外な繋がりに驚く俺を無視して、彼女を立たせる。

「え〜。せっかく逃げてきたのに」

 いつの間にか呪文を唱え終えていた白石さん。

「バカ。アンタのボディガードがのされちゃったんだから。面倒な事にある前にアンタからちゃんと説明しなさいよ」

「む〜」

「唸ってないで。ほら」

「……しょうがないか。じゃ、コバッチまた明日」

 ひらひらと手を振って公園を出て行く。

俺も手を振り返す。


 目の前には沢山の槍が載っているパンフが並んでいる。

「……聞いてます?」

「あ、はい」

テーブルに並べられたパンフ。槍以外のパンフもある。

「コバッチは限定とか興味がありますか?」

「そんなには……」

「ま、ついでなんで説明すると……」

 違うパンフを取り出し、説明が始まる。

俺の意見は無視らしい。

「従来の製品より装飾にこだわりつつも武器としての強度と扱いやすさを追求したのがこのシリーズなんですよ」

「……はぁ」

 おかしいな。限定には拘らないと言ったと思うんだけど。

「で、これなんかどうですか」

 指差したのは『SPEAR=2007翔嵐モデル』

「これのゴールドモデルが人気なんですよ」

 値段は、

「十五万……」

「ハハハ。高」

 隣でミックスジュースを啜っているウチの店長。

パラパラとパンフを見ている。

その目に買うという気がまったく無い様に見えた。

が、目の前の白石さんは、

「店長さんはチャクラムでしたよね」

 ストローをくわえながら頷く。

「これなんかどうですか? 値段もお手頃ですよ」

「お、お手頃か……?」

 俺も見るが……高すぎる。

声で勧めても駄目と判断。

この判断の早さは凄い。

「じゃ、こっちはどうですか? 今年の新型の特徴として従来の製品より軽量化にしつつもエネルギー効率を高めてるから稼働時間が五分から十分伸びてるんですよ」

「へぇ」

 思わず嬉しそうな声を出してしまった店長。

目の前にいる営業はそれを聞き逃さなかった。

ここぞとばかりに攻めてくる。

 のらりくらいと誤魔化しているが、向こうの方が勢いがある。

「じゃ、ちょっと行きましょうか?」

「え。何処に」

「本社のテストルームに」

「何で?」

「実際に手に持って見ないと分からない事もあるじゃないですか?」

「まぁ、そりゃあ」

「だから、来てもらって手に取って貰ってそれで判断してもらうのが一番良いんですよ」


 断る間も無く連れてこられた『白石光学研究所』

「どうするよ?」

「どうするって」

 聞こえない様に店長と話す。

「こちらへどうぞー」

 嬉しそうな白石さんの声に白石本社のゲートをくぐっていく。


「えっと、ここからが新型ですね」

 ガラスケースに入った製品を三人で見る。

「ショートスピアは形にそれほど種類は無いな」

 俺から見ればまったく違う槍なのだが店長から見れば、同じに見える様だ。

「細かい所での装飾とかビーム稼働時間、出力。刃の大きさと形状に個性が現れますね」

「ショートスピアはここですね」

「千歳は二刀流だから二振りいるんだろ」

「二振りですか? 同じ物で揃えますか? それとも違う物にしますか?」

「俺はどっちでも」


「結構形状に種類があるんですね」

 今度はチャクラムを見る。

丸いのから三日月が交差したような形。様々な形状と色が揃っている。

「流石だ〜。これ程揃っているのは初めて見た」

 嬉しそうに眺めている。

「店長さんはどちらのメーカーのチャクラムを使っているんですか?」

「私? 私は『ラクロアイ』一筋」

「ラクロアイ……ですか」

俺は知らないメーカーだ。

「確かにチャクラムでは悔しいですが、ラクロアイに一歩遅れをとってますね」

 白石さんは本気で悔しそうだ。

「でしょ?」

 店長は嬉しそうだ。

「しかし、ウチの新作ではラクロアイにもひけは取らないと思ってます」

 声に自信が満ちている。

「あ……そう」

 反対にたじろぐ店長。

「これはどうですか? ビームの出力五十%で稼働時間は七分というチャクラムでは優等生な商品です」

「七分!」

「そんなに長いんですか? 七分は」

「見て分かるだろ。選ぶ基準としては飛行距離か稼働時間で選ぶんだよ」

「そうですね、スタイルで大きく変わりますよね」

「でも、チャクラムって投擲でしょ?」

「そう考えてるとお前は私には勝てんぞ」

 横目で俺を見て、ニヤッと笑う。

「え? チャクラムの闘い方って他にあります?」

「ある程度の体術が出来れば接近戦が出来る」

「じゃ、模擬戦やって見ますか?」

 ハッとして白石さんを見る。

「じゃ、ちょっと用意してきますんで舞ってて下さい」

「あっ、ちょ」

 聞こえていた筈だが走っていく白石さん。

「しまった」

「どうします?」

「……逃げても意味無いだろうな」

「そうですね。衣里に直接連絡が行くと思いますから」

「はぁ〜。しょうがないか。お前が騎士相手に互角だって言うなら暇潰しになるか」

 手を組んで上に伸ばして体を解している店長。

妙にやる気になって無いか?

「千歳。私に勝ったらボーナスでどう?」

 その言葉に俺も本気になる。

「いいんですか?」

「いいよ」

「俺が負けたら」

「店の掃除と私の車のワックスがけと私の部屋の掃除」

「マジですか?」

 首を縦にを振る店長。

 中々の重労働だが、ボーナスと比較すると……

考えるまでの無い。

「分かりました。それでお願いします」

「よし」

 店長がグーを握る。それを上から軽く叩く。

「忘れるなよ?」

「店長の方こそ」

 そう言えば店長が武器持ってるの見るのは初めての様な。


 白石さんに連れられてトレーニングルームに到着。

ストレッチも終わり、手渡された武器の感触を確かめている。

「用意はいいか?」

「はい」

 構える。

借りた槍は、若干長さが違うショートスピア。

 およそ、俺の歩幅で五歩離れた所にいる店長は両手にチャクラムを構えている。

チャクラムは投擲武器。

勝機を見出すには間合いを詰めないと。

「では僭越ながら私が審判を努めさせていただきます。……始め」

 白石さんの合図で始まる模擬戦。


「遅い」

「え」

 一瞬で間合いを詰められた。

速い。右手の攻撃を避けるが、左手で追い詰めてくる。

左右からの連続攻撃。何とか対応出来るが……

 攻勢に出ないと、このままじゃジリ貧になる。

店長のパンチを弾いて、突き出す。

後に仰け反ったまま、足を振り上げられる。

顎先を掠める。

 ……あ、危な〜。

 一回転して着地、更に後に飛んで間合いを取って構える店長。

今度はこっちから行ってやる。

「フッ」

 踏み込んで右突きは左に、左薙ぎ払いはしゃがんで避けられた。

しゃがんだまま後に一歩下がり、下から手を突き上げてくる。

右足を機転に回って避ける。その勢いを使ってカウンター。

 金属音が響く。

俺の右手で店長の左手を、左手で右手を止める。

 接触点をずらし、踏み込んでくる。

っっ……さっきより少し速い様な気がする。

何とか、ギリギリで避け続ける。

 空を切る音を聞くというより、体で感じる。

このままじゃ……追い詰められる。

 店長の呼吸を読む。

……吸って、吐いた。ここで。

突き出す。

 カウンター気味に出したが、俺と同じ様に回転した勢いで裏拳。

その間に間合いを取る。

「ふぅ」

 どう攻める?

距離を開けて店長を見る。

くるくるとチャクラムを回している。

 タイミングを計っているのか、余裕なのか。

表情からは読み取れない。

……仕掛けてみるか。

 腰を落として、真っ直ぐに店長に向う。

右手のチャクラムが指から離れる。

 軌道を判断し、ギリギリで左に避ける。

店長まで、後三歩。

一歩、二歩踏み込んで行く。

 右手を突き出し、そのまま右に払う。

これで左手のチャクラムを封じた。

素手で受ける事は無い。

これで……俺の勝ち。

 店長は俺に一歩踏み込んでくる。

しゃがんで回り左手を外される。

空を切り裂きチャクラムが戻ってくる。

「え」

 右手から右手に? 広いとはいえ室内で一体どんな回転掛ければ……?

軌道に着いて考えてる場合じゃない。店長の動きに対応しないと、

「ふっ」

 考えていた時間の分だけ遅れた。

チャクラムを右手に握り、首筋に当てられる。

「私の勝ち」


 汗びっしょりで嬉しそうに笑う店長。

「はは」

 笑うしかない。

「ふ〜。汗掻いた。白石さん、タオルある?」

 壁際に体育座りをしている白石さんに声を掛ける。

「……白石さん?」

 声を掛けても反応が無い。

「おーい」

 目の前で手を振って、

「あ、あ! はい、何でしょうか!」

「うわっ!」

 突然の大声に耳を塞ぐ店長。

「あ、すいません! ……何でしたっけ?」

「汗掻いたんでタオルありますか?」

「あ、はい! すぐに用意します!」

 バタバタと出て行く白石さん。

「ははは。流石衣里の友達だ〜」

 何が流石なのかは分からないが何となく言いたい事は分かる。


 武器に関しては丁重にお断りした。

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