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椎名代理店  作者: 奇文屋
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6/21

意外な依頼人

「おはようございます」

「おはよ〜」

 当然の様について来た姉ちゃん。

「おはよ。じゃ、早速」

 テレビのチャンネルがビデオに変わる。

「今日は何にしようかな?」

 最近はゲームの勝者が昼飯を決める事になっていた。

「あ、千歳。何時にしようか?」

「何時って……あぁ」

 思いだした。白石本社で模擬戦やった時の事。

「何? 千歳何かした?」

「私に模擬戦で負けたから私の車のワックスがけと私の部屋と店の掃除」

「あっはっはっは! 千歳、姉ちゃんがカタキを取ってやる」

 二人がコントローラーを握り締める。

画面には『FEARLESS FIGHTER』

 始まった瞬間、忙しなく動く指がコントローラーをカチャカチャと叩いている。


「くそ〜。姉弟で負けた。すまん、千歳」

 深々と頭を下げる姉ちゃん。

 外に出ると朝なのに太陽が元気良く俺を照らす。

空を睨みつけるが何も変わらない。

いや、微妙に暑くなったか?

「は〜」

 体中の酸素を吐き出しそうなほどのため息。

「くそ〜。ボーナスに反応しなきゃ……こんな事には」

 今更言っても後の祭り。

今ほどこの言葉が合う状況も無いだろうな。

 続いて部屋と店の掃除が終わり、時間は昼前。

「いや。そんなに悔しがらなくても」

 ここまで頭を下げるとは……本気で悔しいらしい。

「『ルジェート』のヒレカツサンドと『イリル』のプリンとレストのコーヒー。千歳買って来い」

「まだ、早いですよ」

「じゃ、時間になったら一番で行って来い」

 確か……頭の中で地図を広げる。

「……三角形じゃないですか。しかも全部離れてるし」

「うるさい。これは決定事項なんだ」

 どうやら本気で行かなきゃいけない様だ。

「すまん! 千歳!」

「ま、行けと言うなら行きますけど」

 ごねても意味がない事は俺がよく分かっている。

「千歳」

 頭を下げていた姉ちゃんが、顔を上げて、

「私も同じ物を」

 満面の笑みだった。


「ありがとーございましたー」

 微妙に疲れを見せているルジェートの店員の声。

ま、一気にこれだけの数を売ればそうなるよな。

俺の後にも長蛇の列。

 羨ましい様な、そうでも無い様な。俺の心も微妙に感じているこの忙しさ。


「いらっしゃ……」

 馴染みの店、レストに到着。

いつもの様にいつもの店員と出会う。

「……とりあえず、ウチの店長は?」

「まだ来て無いけど……見て気付かない?」

「何? ……あっ!」

 眼鏡が無い!

「ど、どうした? お、落とした?」

「おい。漫才じゃないんだから」

「じ、じゃ」

 他の理由は……

「ぬ、盗まれた?」

「おい。眼鏡を盗む泥棒がいるか?」

「じ、じゃ」

 他にどんな理由が……

「おい、アホ。そんなに真剣に考えるな。コンタクトを知らないのか?」

「コ、コンタクト?」

 えっと……

「おい。ホントにアホだったのか? コ、ン、タ、ク、ト、レ、ン、ズ」

 一文字ずつ区切って言われて理解した。

「か、変えたの」

「そ。どう?」

 ニコッと笑う衣里。

「どうって何が?」

「え。だから似合うかって事」

「え。コンタクト見えないし」

 マジマジと衣里の目を見るが……よく分からない。

「……! 近づくな! 気持ち悪い!」

「き、気持ち悪いって何や!」

「突然顔を近づけるから」

「お前が似合うかって聞いたから見ただけやろーがっ!」

 店の入り口で始まった口論。

「おい。下らない事でケンカするな」

 レストの店長がカウンターから止めに入る。

その声で他のお客が笑っている事に気付いた。

「お前の所為で恥掻いた」

 衣里に足を踏まれた。

お、俺の所為か……?

「あの。邪魔なんだけど」

「あ、すいません」

 入ってきたのはタイミング良くウチの店長と姉ちゃん。

「さて、食うか。コーヒー三つ」

 さっさといつもの席に着く店長達。

「お前等、他所の店のモノを食うのか?」

 カウンターから睨まれるが、

「ま、たまには」

 気にしない二人。

……流石と言うべきなのか。


「ん?」

 入ってきた一人の客。

きょろきょろと誰かを探している様な素振り。

その仕草が妙に目に付いた。

 ……あれ? 確か。

「や、久しぶり」

 俺と目が合った。その顔は間違いなく『あの時の女』

迷わずにこっちに来る。

「ここ、いい?」

「あ、どうぞ」

 姉ちゃんが漫画を読みながら答える。

「久しぶり」

 ……何の用だ?

「そんなに警戒しなくてもいいよ」

 クスクスと笑う女。

「千歳。何か喋ったらどうや? 姉ちゃんの事は気にせんでええよ」

 おい。勝手に喋るな。

「千歳って言うんだ。私は『叶しのぶ』よろしく」

 笑顔に騙されそうになるが……この女は危険なんだ。と自分に言い聞かせる。

「な、何の用があって」

「お。いつかの暗殺者か」

 漫画を取りに行っていた店長が帰ってきた。

妙に嬉しそうな声なのは何故?

「暗殺者?」

 ガバッと顔を上げる姉ちゃん。

「うわ〜。初めて見た〜」

 羨望の眼差しってこれか? と思うほどの眼差し。

「貴女は?」

「私は千歳の雇い主」

「私は姉」

 二人が名乗る。

「じゃ、椎名夏子さん?」

「そうだけど?」

「ふーん」

 マジマジと店長を見る。

「……何?」

 頭の先から爪先まで何度も往復する視線にちょっと引き気味。

「ま、いいか。ちょっと頼みたい事があるんだけど」


「で、何で私まで」

 店長の車の後部座席でレストから持ってきた漫画を読み続ける姉ちゃん。

「ちゃんとお金払うから」

 ハンドルを握りる店長。

「部屋にいてもゲームしかしてないじゃないか」

 朝、俺が仕事に行ってから帰ってきた時まで同じ場所でずっとロープレのレベル上げをやっていた姉ちゃん。

「うるさい。私なりにちゃんとする事はあるんやぞ」

 女からの依頼を報酬に釣られて引き受けた店長。

依頼内容は『ショリス=ディリストラム暗殺阻止』

「騎士団の人ですよね? 護衛ならついてるんじゃないですか?」

「それでどうにもならないから言ってきたんじゃない?」

「それ以前にアノ子。暗殺者やろ? 言うてきた目的は何?」

「さぁ。そればっかりは何とも言えないな〜」

「それと、相手の事」

「相手?」

「暗殺を止めるって事は相手は当然暗殺者でしょ?」

 ま、そうなるな。

「何で情報流したのかな?」

「うーん……商売敵?」

 前を見つめているのに見えてくる風景はあの夜。

助けてもらってから闘った事。

迷いの無い視線。躊躇わない切っ先。

冷たいコンクリートの中で輝いていた彼女の姿。

「ま、何にしても」

 グン、と加速する。それで意識が現実に戻った。

「終わって見れば分かるよ」

 景色が後に流れていく。

目的地まで後……一時間。

 徐々に心拍数が上がっていく。

深く、静かに息を吐く。

ハンドルを握る店長は鼻歌を歌い、姉ちゃんは漫画を読んでニヤついている。

緊張しているのは俺だけ……?


「さて、どうやって近づく?」

 ディリストラム氏が滞在している『ヴァンラル=シティ』に到着。

着いたはいいが作戦を何も考えていなかったので、ファミレスで会議。

「うーん。下手にうろうろしてると職質されるしな〜」

「そうなると、面倒ですね」

「武器を持ってるし、その目的を聞かれても答えようが無いし、答えても信じてくれないからなー」

「で、どうする? 直前に割って入る?」

「それが一番良いかも」

「でも、それだと相手の行動を完全に読まないとダメですよね」

「うー」

 ブクブクとジュースを泡立てる行儀が悪い店長。

「視察で来てるからある程度の行動は読めるから、後は場所か」

 店長に行儀について話している間に考えている姉ちゃん。

「場所を選ぶには自分の武器に左右されるから」

 トントン、とテーブルを叩いて、

「千歳、あの子に連絡取れ」

「え。何の為に」

「情報が欲しい。どんな武器を使う相手なのかが知りたい」

 何時になく真剣な姉ちゃん。

「え。あ、はい」

 勢いに押されて教えて貰ったケータイ番号に掛けてみる。

「あ、もしもし。叶さんですか。えっと」

 横にいる姉ちゃんにケータイを奪い取られる。

「貸せ。あのちょっと聞きたいんやけど」

 俺達の周りにお客はいないが、内容が内容だけにもう少し声を抑えて欲しい。


 車の中での会議の続き。違うのは内容がヤバすぎる事だ。

「何か分かったの?」

「大体は。はっきりした事はこれから確認する」

「どうやって?」

「向こうも詳しい事は分かってないみたいやから。より確実に行う為には後はこっちが調べんと」

「分かってる事って何?」

「動いている暗殺者は二人。今日からディリストラム氏が帰国するまでの間に事が起こる」

「それだけ?」

 頷く姉ちゃん。

「二対三? 数ならこっちが上か」

「アホ。実戦経験は向こうやし、殺す事に対して躊躇わないのも向こうやろ。有利なんが一人ではハンデにもならんぞ」

「相手の武器は?」

「ライフルと剣らしいって」

「らしい……ですか?」

「二人なのは間違いなくて、ライフルは確実でもう一人は多分剣やろうって言うてた」

「どこかの組織に入ってるの?」

「それは教えてくれんかった。つーか聞いても分からんし」

「ライフルは狙撃だからある程度は地の利が必要だし、外れたら剣が出て来るか」

「私はその逆だと思う」

 後に座っている姉ちゃんがシートをトントン叩いている。

「逆?」

「うん。剣で行ってから狙撃やと思う」

「それだと警戒さるだろ」

 暗殺なら一度で決めた方がやりやすいと思う。

「確実に決めるなら一度目のチャンスで決めるんじゃない?」

「最初に接近するのは多分おとり。それで決まればそれでよし。決められなかった時にライフルが決めるっていうやり方やと思う」

「その心は?」

 緊張感が足りない店長。

「あの子がライフルの方は知ってるみたいやったから」

 あの子とは今回の依頼人の叶さん。

「狙撃の腕は確からしいよ。そんな奴に確実に狙わせるには一瞬でも隙を作る事」

 首を捻る雇い主と従業員。

「ディリストラム氏が剣士に襲われる。その時回りの目は剣士に行く」

 ライフルを構える真似をして俺を見る姉ちゃん。

「当然剣士……かそれはまだ分からんけど襲われたら逃げるのは確実やろ。逃げる先は車のあるトコ。その瞬間に」

 構えた腕が上に跳ねる。

「それだとどこから狙う?」

「視察の場所先回りしてもライフルの射程だから一発で当てないと意味無いよ」

「どのみちチャンスは一度。ある程度決めとかないと対応できんよ」

「候補は?」

「ライフルで狙撃するにはちょっと不向きな場所、木とかが生えてるのとと絶好の場所、駐車場とかが近いという条件に合う所」


「ふー」

 姉ちゃんが選定した場所『ヴァンラル中央広場』でその時を待つ。

「緊張するか?」

「するなって言う方が無理でしょう」

「ま、そうだな」

 何時もどおりの店長。

「千早の方は一人で大丈夫か?」

「心配無いですよ。無理な事はしない人ですから」

「それならいいけど」

 店長と二人、ベンチに座っている。

穏やかな午後。まばらに行き交う人達。

「来たか」

 大勢の人の声。遠目でも分かるその物々しい雰囲気。

「お気楽だね〜。狙われてるってのに」

「ま、知ってたら来ないでしょうから」

 回りの護衛は俺達に気付いているが、それ程の注意は向けてはいない。

そっと武器を握る。


 俺達の立てた作戦は先手必勝。相手が動く前に騒ぎを起こして相手を封じる事。


 ヴァンラル中央広場。大きな街ならありそうな緑の多い公園。

そこでの演説する為に護衛に囲まれたディリストラム氏がやって来た。

 多くの市民や軍や騎士団関係者が近寄って行く。

「この状況じゃ……全員がそう見えますよね」

 しかし、この状況じゃ暗殺者も近づけないだろう。

「店長」

 どうしますか? と、聞こうと振り向いた瞬間。

店長のチャクラムが飛び放たれた。

「え」

 一瞬の間の後、金属音が響く。

響く悲鳴と怒号。

「行くぞ、千歳!」

「え? あ、はい」

 事態を把握していないが店長について行く。


 逃げ出している市民の波に逆らい演説台に向う。

「貴様っ!」

 人波を越えた瞬間に剣が振り下ろされた。

腕に衝撃が走る。

「邪魔!」

 後から来た店長の一蹴りで多分……護衛だと思うがノサれてしまった。

 店長がもう一つのチャクラムを投げる。

弧を描いて向う先にいるのは、護衛の騎士を押さえ込んでいる剣士。

タイミング的には相手とちょうどだったらしい。

それが良かったのか、悪かったのかは後で分かる。

今はあの剣士を止めないと。

 ん? あの騎士って確か……

チラッと見えたその体格。

 あの小さいのは……間違いないよな。

「こっちにもいるぞ!」

 叫ぶ店長。

店長はチャクラムを拾っているので、当然俺の後にいる。

声に気付いた剣士の攻撃を受けるのは俺。

「そう」

 振り返りつつ打ち込んでくる一撃を捌いて、

「このっ」

 反撃を……避けられる。

剣士が避けた瞬間に、

「おら!」

 店長が飛び込んでくる。

「チッ」

 舌打ちと共に横に逃げる剣士。その隙に小さい騎士との間に俺が割って入る。

「何者」

 店長が着地した瞬間を狙う剣士。

それを俺がカバーする。

 左右の連突きから、間合いを詰める。

両手の短槍で剣を抑えて、

「はぁっ!」

 そこを支点に後転して左足の踵で不意を突く。

尻餅をついて倒れこんだ俺。振り抜いた踵に衝撃が残る。

「痛っ〜」

 痛みを堪えながら立ち上がり構えた瞬間に切り込まれる。

光りと火花が飛び散る。

「今のうちにディリストラム氏を! 車をこっちに回させて!」

 そう叫んで店長が剣士に立ち向かう。

「あ、貴女達は?」

「いいから!」

 店長の声に押されてチビッ子騎士が走っていく。

攻守逆転して店長が攻める。

 チャクラムだけじゃなく、蹴りを加えて追い込んで行く。

その姿に見惚れている。

……場合じゃない! 

 痛みが若干和らできた。

店長が右に出ると俺が左。

上なら下。

下がったら前に出る。

 この前の模擬戦のおかげか店長の動きが見えてくる。

しかし、攻め切れない。

 敵ながら相手の技量に感服する。

二対一のハンデが徐々に無くなり、剣士が剣閃が増えてきている。

 店長が不意をつき、顎を蹴り抜く。

そのまま回転して俺の頭上を越えて行く。

右手突きで追い打ち。仰け反りながらも見切っている。

強引に捻って避けるが、左突きで右肩を打ち抜く!


 階段を登り詰めて、屋上に続く扉を開ける。

真っ白な世界に目が慣れてくると、一人の男の姿が見えてくる。

「やぁ。始めまして」

 男は驚いた様子も無く私を見ている。

手にはライフル。恐らく弾は入っているだろう。

銃の事はサッパリ分からん。何発入ってるんかな?

ま、この男を捕まえたら分かるか。

剣を構える。

「何? やる?」

 恐らく、闘う? と言う事だろう。

「でないとここまで来んやろっ!」

 ダン、地を蹴り間合いを詰める。

ライフルなら距離を詰めないと……速さは秒間何百メートルらしいからな。

流石に避けられん。

「起動しないのは……余裕か」

 振り降ろす剣をライフルで受け止める。

「笑ってるのも余裕かっ!」

 目の前でこの笑顔はムカつく!

剣を振りかぶって力一杯振り下ろし、斜めに振り上げて回転して遠心力を乗せて薙ぎ払う。

 風を切る音と着地する音が同時に聞こえる。

「中々の腕前だな」

 片手でライフルを構え、撃つ。

この距離じゃ撃つと同時に着弾する感じ。

腕に鈍い衝撃。それに耐え切れずに剣を離してしまう。

「まだ?」

「当然」

 痺れる右手で剣を拾い、左手に持ちかえる。

力は入れづらいが、今の右手よりはマシ。

「さっきより遅いよ」

 それは私も感じてる。

力加減が難しいな……くそ。

 剣戟が響くと私の剣が弾かれる。

「俺にもやる事があるから」

 目の前に銃口が突きつけられる。

引き金を引くより速く体を沈める。

 真上で光りが弾ける。

足元を見つめたまま、痺れが取れた右腕で剣を振り上げる。

 避けられるが、攻め続ける。

相手が一歩下がれば一歩前に出る。

「直線的に攻めるかと思えば曲線。体の使い方はとても素人とは思えないな」

 声にはまだ余裕がある。

とてもムカつく事だが相手との力量には差があるな。

これを認めた上での攻め方を攻めながら考えないと。

「そして、常に先を考える事も忘れない」

 読まれた。しかし、

「本当に素人か? 君は」

 私は冷静に的確に攻めるが……半笑いで全て避けられる。

「はぁ……はぁ」

 避けられるのはええ。攻撃の内、半分は隙を作る為の攻撃やったし。

本命の攻撃ををここまで避けられるのもかなり悔しいがそれは私の力量の所為。

しかし、この半笑いだけは許せんっ!

「ん……失敗か」

 スコープでヴァンラル中央広場を見ている。

何!? その余裕! 

 ……失敗? あの二人が上手くやったか。

「ま、いいか」

 振り返ったその顔には……ムカつく半笑い。

もうちょっとこう……無いか? 等と考えてしまう。

「君が何処の組織かは知らないけど、悔しいが今回は君達の勝ちになるか」

 ちっとも悔しそうじゃないのがムカつく。

そのまま唯一の出入り口に向う。

すれ違う直前、

「次は……殺す」

 と、言われるかと思ったが言われなかった。


 打ち抜かれた右肩を抑えたまま、

「くそ」

 反転して逃げて行く剣士。

「逃がすかっ! うわっ!」

 追いかけるが剣士が振り返って剣を投げる。投げつけられた剣を避けた為に剣士を見失う。

「剣士が剣を投げるのは負けを認めた証拠だな」

 都合が良い様に考えられる頭脳が羨ましい。

「……店長」

「ん?」

 肘で辺りの状況を確認する様に伝える。

辺りには物騒な雰囲気の黒服を着た人達と警官達。

「大人しくしろよ。千歳」

「名前出さないで下さいよ」

 両手を上げて害意がない事を証明する。


「まったく。あれが公僕の態度か!?」

 ヴァンラルの警察署での長い長い取調べ。

とりあえず立ち聞きで押し通す事にしたのがまずかったと思う。

それで話がこじれた。

 途中で警察の対応ががらりと変わったのは恐らく騎士団の制服を着た彼女のおかげなのは間違いない。

「あの……もう少し小声で」

 そう、店長が悪態を吐いているのはヴァンラル警察署前。

立番の警官は苦笑い。

「あの態度は……くぅ〜……思い出しただけでも腹が立つ!!」

「とりあえず……姉ちゃんトコに行きましょうよ」

 ここでこれ以上騒がれると別件で逮捕になりそうなので、店長の腕を引っ張ってタクシーに乗せてしまう。

「おいっ! 市民を……!!」

 口を抑えて黙らせる。

「えっと……とりあえずヴァンラル中央広場の東口に」

 運転手さんに伝える。 

ふぅ……後を向いてまだ叫んでいる店長。


 車中で見えなくなった警察に対する怒りをぶちまけていた店長は何処かスッキリとした表情でタクシーを降りる。

 ヴァンラル中央広場の東口。

キープアウトのテープを背にした警官がずらっと並んでいるし、報道陣があちこちで同じ様な事を喋っている。

「よ」

 喧騒から少し離れた縁石に座り込んでいた姉ちゃんを発見。

三人並んで座る。

「ま、とりあえずお疲れ」

「姉ちゃんの方はどうだった」

「私の方は……どうにか」

 一瞬の間が気になるが、こっちを見ないという事は触れて欲しくないんだろう。

それ位は長い付き合いだから分かる。

 誰も喋らず、目の前で慌しく動いている報道陣を眺めている。

その中を真っ直ぐこっちに向ってくる一人の女性。

「や。無事で良かった」

 目の前に立つ女性は今回の依頼人。

「色々と聞きたい事があるけど」

「答えられる範囲なら」

「あの二人は何者?」

「私達と対立してる組織のメンバー」

「なら、私達はアンタ達に巻き込まれたって事?」

「そうなる……かな」

 暗殺を生業としている組織の抗争に巻き込まれたのか? 俺達は!

「ホントなら私達が動ければ良かったんだけど、メンバーが足りなくて」

「それで私達を使おうって」

「彼の事は知ってたし」

「……ふーん」

 睨む店長。

その視線に気付いたのか気付いてないのか。時計を確認する依頼人。

「報酬の受け渡しは今度連絡します。後、帰る時に後に気をつけて下さいね」

 にこやかな笑顔。……最後の言葉が無ければ。

「では。近いうちに」

 手を上げて去って行く彼女。

「じゃ、帰ろっか」

 店長の合図で立ち上がる。

「こんな早く私達の事が分かる訳無いやん」

 依頼人の警告を笑い飛ばして車に乗り込む。

とは言いつつも尾行に注意しつつ物騒な喧騒から離れて行く。

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