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椎名代理店  作者: 奇文屋
3/21

山頂の華

「新聞に載ったね〜」

 レストに来たら、開口一番。衣里が笑っていた。

「……案内しろよ」

「テレるな。眼鏡」

 何がそんなに嬉しいのか。

ニヤついている衣里の笑顔に裏があると思うのは何故だろう?

「ま、空いてるから適当に座んなよ」

 そう言ってカウンターに戻って行く衣里。

……何て適当な扱いなんだ。一応客だぞ? 俺は!

「あ。どうも」

 窓際に座りコーヒーを注文した後に、喫茶店の店長『新沢佼成』さん。じきじきに持ってきてくれた。

「よ。今、暇か?」

「暇と言えば暇ですけど」

 目の前に座る。

「ちょっと頼みたい事があるんだが」

「はぁ」

 啜りながら聞いている。

「『龍頭山』知ってるだろ?」

「ここから見えますよね」

 ビルの谷間からうっすらと見える山が龍頭山。

「登った事あるか?」

「無いですね」

「で、頼みたい事なんだが」

「はあ」

「ウチの娘があの山に登りたいと言ってるんだ」

「む、娘?」

「そう。中学生」

「いたんですか? 娘さん。中学生ですか? ……と言うか結婚してたんですか?」

「あれ? 言ってなかったか?」

「初耳ですよ」

「ま、それはいいんだが。ウチの娘が登りたいと言ってるんで付き合ってくれないか」

「登山……ですか」

「交通費と手数料は払うから。行ってくれないか」

「や。そんないいですよ。暇だし」

「ま、とりあえず夏子にも言っといてくれ」

 夏子とは店長の下の名前。

「はい。分かりました」


「登山か〜」

 レストでの話を店長にする。

ソファに寝転がりながらアニメを見ていた店長。

目の前のテーブルにはスナック菓子とジュースが置かれていた。

「しかし娘さんがいたのか〜」

「店長は会った事ありますか?」

「う〜ん。多分無いと思う。って言うか顔知らないし、もしかしたら店ですれ違う程度の事はあったかも」

 その可能性はあるな。

「あ。それと交通費と手数料は払うって言ってました」

「あはは。そんなのいいのに」

「行きます?」

「ま、いつも世話になってるし」

「じゃ、行くって言っときます」

「よろしく〜」


「よ」

「こんにちわ〜」

 夕方、レスト店長がウチに来た。その後には女の子が一人。

「こっちこっち」

 テレビを消して二人を呼ぶ。

「ウチの娘『由宇』」

「ご挨拶するのは初めてですね。始めまして『新沢由宇』と言います。ウチのお店では何度かすれ違ってますけど」

 ペコリ、とお辞儀する姿が可愛い。

開口一番。ウチの店長が、

「うわ〜。礼儀正し〜。ホントに娘?」

 レストの店長と娘さんを見比べる。

少しは見習ってくださいよ。店長。

 挨拶しない店長に代わり、俺が挨拶。

「いつ行く? 今からでも」

「店長。今から行ったら夜中ですよ」

「あ。そうか」

 この人テンション上がってないか?

「こっちとしては夜の方が都合良いんだ。な」

「……何で?」

 きょとん。とした店長の顔を初めて見た様な気がする。

「『月に歌う花』って知ってます?」

 娘さんの遠慮がちな声。

「月に歌う花……?」

 ……聞いた事あるような。

「あ〜。今の時期咲いてるよね」

「そうです」

「知ってるんですか? 店長」

「知ってるよ。地元の観光スポットじゃない」

「そうなんですか?」

「お前……もうちょっと地元の事に興味持てよ」

「店長に言われたくないですね」

「で、いつ位がいい? 都合はそっちに合わせるから」

「うーん、平日はガッコがあるから……」

 ガッコ? あぁ、学校の事。何で『う』を省くかな。

天井を見上げるウチの店長。

「じゃ、今度の日曜。十二時にここでOK?」

「あ、はい。私はそれで」

「じゃ、よろしく頼むよ」


「こんにちわー」

「こんにちわー」

 開くドアと元気良く聞こえた二つの声。

「こんにちわ」

 ん? 声が二つ?

「友達に話したら見たいって言うから……ダメでしたか?」

「いいよ〜」

「由宇の友達の『福井梓』です。今日はよろしくお願いします」

「お。よろしく。じゃ、行こうか」

 店長が見ていたテレビを消し、くるくると車のキーを弄びながら颯爽と歩いて行く。


「代理屋って儲かるんですか?」

「んっふっふっふっふ」

 女子中学生の素朴な質問? に不気味な笑いで答える店長。

「儲かってないとこんないい車に乗れないでしょ」

「んっふっふっふっふ」

 車が自慢の店長が嬉しそうに不気味に笑う。

「でも、カッコイイですよね。代理屋って」

 とは、レスト店長の娘。

「私もなりたい。どうやったらなれるんですか?」

 答える気の無い店長に見切りをつけたのか。俺に聞いてくる。

「千歳さんはどうして代理屋になったんですか?」

「どうって。俺はここで働いてるから」

「え? それだけ?」

「だと思うよ。ライセンスとかもいらないし」

「じゃ、私も代理屋で働いたら代理屋って事?」

「そうなるね」

「いるとすれば、武器携帯かな」

「あ〜。何となくバイオレンスの香が漂ってきましたね〜」

「お二人は武器とか持ってるんですか?」

「んっふっふっふっふ」

「何なんですか? その笑いは?」

 遂にツッコんでしまった。

「どうなんですか?」

 答える気が無い店長に変わって俺に聞いてくる。

「俺は……短槍二振り」

「?」

 きょとん。とする二人。

「マニアックでしょ?」

 前を見つめたまま笑う店長。

「何ですか? その短槍二振りって」

「簡単に言うと短めの槍二本」

「剣の二刀流と同じですか?」

「ま、そうかな」

「でも、コイツの刃のトコはレーザーが起動しないからただの棒だよ。簡単に言うと鉄パイプ」

「違いますよ。柄でレーザー中和出来ますよ」

「あ、槍ってそうなんですか?」

「刃の部分だけで受けるのは不可能に近いから」

「コイツのは違法改造」

「犯罪じゃ……」

「違いますよ! 違うからね? 店長! 本気にするじゃないですか!!」

「あっはっはっはっは」

「笑ってる場合じゃないですよ!」

 途中、休憩を挟んでからもこんな会話が車内で続いていた。


「到着〜」

 午後二時。龍頭山の駐車場に到着。

「結構いますね」

「んっふっふっふ。観光名所だし」

「うわ〜。何か……」

「早く行きましょうよ!」

 テンションが上がってきた三人。


「やっっ……止めてよ」

「嫌ですよ。疲れるから」

 中腹の休憩所で登山の定番行動取ろうとする店長を止める事はしなかった。

「何か腹立つ。千歳の癖に生意気な」

「……よく聞く台詞ですね」

「千歳のオゴリでジュースが飲みたい。買ってきて」

「嫌ですよ」

「可憐な少女、三人が喉渇いたって言ってるの」

「自販機そこですよ」

 店長から二メートルほどの距離に並んでいる自販機達。

「カッテコイ」

「発音がおかしいですよ」

「あ。私行きます」

そうなったら俺の自尊心が動き出す。

「いや。娘さんが行く事無いですよ。俺が行くから」

「お前……娘さんって。ハハ、名前覚えてないの?」

「いや……名前で呼ぶのは。依頼人だし」

 そこはちゃんとしないと。仕事だし。

「ま、こんな生真面目なヤツはほっといて」

 何を飲もうか悩んでいる店長。


「おー!」

 展望台に到着。

日も沈みかけ、赤く染まった展望台。

駐車場に止まっている車の台数を実感する程の人の数。

「うわ〜。キレー」

「夕日に染まる街並み」

 何を感じたのか真っ直ぐに街を見つめたままの店長。

「その赤い世界の中でクーイデンはレトヴェルに告白した」

「誰ですか? クーイデンとレトヴェルって」

「知らないんですか?」

 え? 有名な人?

考えても顔すら浮かんでこない。

「二人は知ってるの?」

「毎週読んでますよ」

「私も」

「……あぁ、漫画ですか」

「何? その呆れた顔は?」

「千歳さん。漫画だからと言って馬鹿にしちゃ駄目ですよ」

「由宇ちゃん。とくと聞かせてやって」

 夕日に染まる世界の中、俺は三人から懇々と『灼熱の皇子』と言う漫画について語られた。


「ん? あそこにあるのは」

 展望台からもう少し高い位置に見えた建物。

「あれは……『龍髭寺』ですかね」

 確かそんな名前の寺があったような。

「行って見ましょうか?」

 声色からそれは決定の様に聞こえた。

「夏子さん?」

「え? 何?」

 見上げたまま固まっていた店長。

どうやら行きたくは無いようだ。

「そろそろ、時間的に厳しいから」

「あ、そうですか?」

 確かに夕日に染まっていた世界も、暗くなり始めていた。

「雰囲気出てきたし、行こうか」

 確かに展望台にいた人達も移動している。

「あ〜。何か緊張して来た」

 二人ではしゃいでいる由宇さんと梓さん。

「良かったね。あそこに登らなくて」

「それはお互い様ですね」

 頷く店長。

俺も体力が無い訳じゃないが、必要以上に消耗はしたくない。

と言うのは言い訳だな。


 ぼんやりとライトアップされた遊歩道をゆっくりと進む足並み。

「あ、見えた」

「え。どこどこ?」

 俺の視界にチラッと入ってきた『月に歌う花』

由宇さんが背伸びして見ようとする。

「危ないですよ」

「うーん。……後ちょ……っとで」

「千歳。後どれ位?」

 声が若干恐い店長。


 近づくにつれ、この状況に魅入ってしまう。

 暗くなった空にぼんやりと光る白い花。

風が通るたびに聞こえる儚く涼やかに聞こえる花の歌声。

歩いていると何かの物語の中に入り込んだ感覚になる。

 幻想。

 その言葉しか浮かばない。

言葉が無い。疲れも忘れてしまう。

雑踏も時間も関係ない。今、目に映る世界は白く淡く輝く花と音色だけ。


 帰りの車内。

行きとは違い誰も喋らない。

 ハンドルを握る俺の横で前を見つめる店長。

「千歳〜。腹減った、どっか寄って行こう」

「何処行きます?」

「この気分を台無しにしないような所」

「曖昧すぎますよ」

「この条件に合う所をチョイス」

「じゃ、俺が決めますよ」

 隣を見たら、不意に目が合い、

「期待してる」

 ……妙にドキドキしてしまった。

う〜む。あの状況の後だからか……?

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