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椎名代理店  作者: 奇文屋
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1/21

椎名代理店

「いらっしゃ……何だ、眼鏡か」

 ノーティス通りに面した喫茶店『レスト』

店に入った瞬間にこの言葉が聞こえてきた。

「自分だって眼鏡かけてるじゃないか」

「何?」

 小声で言ったのに聞こえたようだ。

「……店長来てない?」

「見て無いけど?」

「ありがと。じゃ」

 店を出て行く。

ここじゃなかったか……。じゃ次に行きそうなのは……


 フリージア王国『ラフト=シティ』

ここにある『椎名代理店』

そこで働いているのが俺『小林千歳』と店長の『椎名夏子』

二人だけの『代理屋』

代理屋、依頼人に代わり名の通り代理を努めるのがこの仕事。

現在は俺が代理屋を雇いたい心境だ。

 今、俺は店長を探して走り回っている。

行きそうな場所を探し回っているのだが、外れまくっている。

 いい加減な性格の店長だが仕事は暇で無い程度に生活に困らない程度に回ってくる。

店長曰く「私のお陰」と意味の判らない事を言っていた。


 走り回って着いた先は古本屋。

外から中を窺う。

 店長らしき人は……

漫画コーナー付近にらしいのがいる。

「いらっしゃいませー」

 店員の声がいくつも響く店内に入る。

……いた。

店長は俺に気付いた様子も無く立ち読みに夢中だ。

「ケータイを切らないで下さい。聞いてます?」

 チラッと俺を見ただけですぐに目は漫画に戻る。

「何?」

「朝、事務所に行ったら誰もいないから探してたんですよ。ケータイも繋がらないし」

「それ位で……子供か? お前は」

 気に入ったのか、読んでいた漫画とその続きを数冊持ってレジへ、

「千歳、払っといて」

 ……ここでごねてもしょうがないので素直に払う。

店長が去った後で一言、店員に告げる。

「あの、領収書を」


 店を出て真っ直ぐ事務所へ帰る。

ノーティス通りから路地一本入った所に建っているテナントビル二階にあるのが

『椎名代理店』

 何の飾り気も無いドアを開く。

「じゃ、私は資料を読むから」

 そう言ってソファに寝転がり、資料=さっき買った漫画を読み始める。

「……どうぞ」

「ありがと」

 テーブルにジュースを置く。

何にしてもこれで読み終わるまでは大人しくここにいる事は間違いない。


 自分のデスクに戻って仕事。

といっても特にする事が無い事に気付いた。

ネットの世界をうろうろとしている。


 それから数時間後、俺はネット世界から帰ってきたが、店長はまだ読んでいた。

俺はデスクに向ってこの前偶然解決した強盗事件の資料を読んでいる。

無論、暇つぶしではなく後学の為だ。

 「すいませーん」

ノックと共に声が聞こえる。

「あ、はーい」

 ドアの向こうには、依頼人らしき女性が立っている。


「こちらが店長の椎名で私が助手の小林です」

 やる気がまったく見られない店長に変わり俺が話を進める。

店長は漫画を取り上げられて俺の隣で口を尖らせて拗ねている。

「『沢下あかり』さんでよろしいですか?」

「はい」

「免許にそう書いてあるじゃないか」

 漫画を取り上げられた腹いせに細かいところにツッコミを入れてくる。

「で、どのようなご依頼でしょうか?」

 完全にスルー。

「ふん……。私はやら無いからな」

 ソファの上に三角座りでいじけている。

「ちょっと黙ってて下さい」

「あの」

 店長の態度に不信感を募らせる沢下氏。

「あ、続けてください」

「まだ、何も喋って無いだろ」

「ホントにちょっと黙ってて下さい。……漫画捨てますよ?」

 ズズズ……ジュースを啜る音で抵抗してくるが、予想の範囲内だ。

「『普浄』と言う野草を探して欲しいんです」

「んっ……『普浄』を探し出し入手でよろしいですか?」

 普浄。とは野草の一種で病気に効くといわれている。

「薬買えばいいじゃん」

 仕事だぞ? 分かってるよな店長!

「新薬開発に活かせないかと思いまして……」

「なるほど」

「そんな怪しい薬誰も……」

 店長の口を塞ぐ。

「で、それの探索と入手。それが依頼ですか?」

「はい」

 チラッと店長を見る。受けるか受けないかは店長の判断に任せる。

うだうだと文句を言いながらも今は他に依頼がないのが現状だ。

「……期間があれば。と言う事なら引き受ける」

「どれ程の期間内がよろしいですか?」

「年内なら」

 この人も適当な性格なのか? 今年が始まって六ヶ月。あと半年あるんだぞ?

おそらくこの一言が決め手になったのだろう。

「この依頼引き受けます」


 依頼人が帰った後、本屋で普浄の知識を仕入れる。

店員の目が痛いが気にせずにぶ厚く重い本を読む。

「なるほど……思ってたより薬草って使えるんですね」

 て言うのが素直な感想。

「当然でしょ。昔は今みたいに薬が手に入らなかっただろうし」

 言われて見ればそうだよな。

「でも、最初にこれで病気や怪我の治療された人は信じられなかったでしょうね」

「そうかも。誰もその効果を知らない訳だしね〜」

本を棚に戻して、他の本を調べる。

「うーん、他のは……似たり寄ったり」

「そうですね」

「よし。帰るか」

 週刊誌を立ち読みしてから事務所へと帰る。。


 店に戻って詳しい情報がないかネットで検索。

「最初からコレでやれば良かったのに〜」

 漫画の続きを読みながら勝手な事をほざいている。

「店長が行くって言ったんじゃないですか」

 ……無視。

「で、どうやって探すんですか?」

「そんなの山に行って探すしかないでしょ」

「まぁ、道端や川原にはないでしょうけど」

 立ち読みで仕入れた知識とネットでの共通した事は山に群生している。という事。

「場所と時季は分かる?」

「えっと……時季はちょうど今ですね。場所は……この辺だと……」

 画面をスクロールして、

「麻蓬山……が一番近いかな? えっと、ここですね。一番近いのは」

 他の場所も載っているが麻蓬山が一番近い。

「近いって……車で三時間掛かるじゃん」

 そんな事言われても……

「あ、近くに軍とかの演習場無かった?」

「えっと……」

 麻蓬山近くの地図を開く。

「ありますね。……て言うか麻蓬山も演習場に入ってるかも」

「マジで」

 いつの間にか店長の顔が肩越しにある。

「うーん」

 口を尖らせて考えている。

「ま、しょうがないか。演習場に普浄があったら見つからないように取ろう」

「ちょ、ちょっと店長。そんな事して見つかったら」

「だから、見つからないように取るって言ったでしょ」

「え、いや、だから。見つかったらどうしようって言ってるんですよ?」

「見つからない様に取るの。だから見つかる事は無いの。分かった?」

「いや、だから……」

「細かい事は臨機応変に! 以上!」

 こういう時は何を言っても無駄だということが、最近分かってきた。

「じゃ、車取ってくるから」

「今から行くんですか!?」

「善は急げ。知らないの?」

「それ位は知ってますけど。今から行けば着いたら夜ですよ」

「昼間よりは見つかる可能性は低いんじゃない?」

 ふふん。と笑う店長。

その顔は見つかるほうが楽しみだ、と言わんばかりに輝いていた。


「じゃんけーん……ぽん」

 店長がグーで俺がパー。

「じゃ、行きは私。帰りは千歳。それでいい?」

「了解」

 一通りの準備を終えて、事務所に集合。

所長の愛車に乗り込み、一路麻蓬山へ。


 ゆったりとしたシート。クーペなのに長時間乗っても疲れない。

等と最初に乗った時に自慢された事を思いだす。

 カーラジオから聞こえる歌、ゴキゲンでハンドルを握っている。

夜の高速を快調に走り抜ける。


「着いたぞ」

 店長の声で目的地に着いた事に気付いた。

「あ、はい」

 車から降りる。いつの間にか寝ていた様だ。

「とりあえず、コレ」

 渡される冊子。

「これの……二十ページに普浄の事載ってるから、形はコレで確認」

 ぽん、と冊子を叩く。

「細かい事はその都度決めていこう」

「はい」

「じゃ、行こうか」


 何が起こるか分からないので、無い事を祈るが一応戦闘の準備をしている。

「この状態で軍の演習場の連中に見つかったら何て言います?」

「うーん……薬草探してますって素直に」

「それで通じると思います?」

「お前には無理だろうけど私なら大丈夫じゃない?」

 その自信はどっから来るのか? 

「お前は野獣に襲われた時の為にって言えば?」

「それで通じると思います?」

 ……首を傾げる店長。


 夜の山を歩く事……二時間。

懐中電灯の頼りない灯りと時折木々の間からの月明かりの下、登ったり降りたりを繰り返す。

「無いですね」

「……もう少し、向こうかな」

「危ないですよ。店長」

 懐中電灯を持っているのは俺だ。

真っ暗な中を適当に歩いていく店長。俺の諌めの声も聞いているのかのかいないのか。

「……おい。電灯消してこっち来い」

 そんなに遠くには行ってない筈なのに小声で呼ぶ店長。

「何……ぐ」

 口を塞がれ、電灯を消して目だけで

「うるさい。黙れ」

 と、威圧される。

「これ」

 店長の指が何かに触れて、少し揺すっただけでカシャカシャと音が聞こえる。

「この先に行きたいんだけど」

 俺の危険察知レーダーが警報を鳴らす。

口を塞がれているために、目だけで

「止めましょう」

 と、俺の意思を伝える。

「これから先は単独行動。……見つかっても見つからなくても午前五時に駐車場に集合。OK?」

 やっぱり俺の意思は伝わらない。何故だ? 店長の考えている事は目を見れば大体の事は分かるのに俺の考えは何故伝わらないのだろうか?

「じゃ、五時に」

 そんな事を考えている俺を置いて店長はかすかな音を立てて金網を乗り越えて行く。


「まったく……」

 辺りを窺いながらぼやいている俺。

金網の中に侵入してしまった店長を追いかけて俺も越えてしまった。

うろうろとしていたら建物が見える場所にいた。

「見つかったらどうするんだ?」

 ぼやきがきっかけで見つかっては余りにも間抜けなので余計に疲れる。

それならぼやかなきゃいいのだが、つい口に出てしまう。

「これが、軍の宿舎」

 そうすると……随分入り込んでしまったな。

人の気配を感じ、植え込みに隠れる。

 灯りは二つ。となると二人以上。

見つからない事を真剣に祈る。

 緊張で喉が鳴る。その音でさえ聞こえないかと張り詰める。

見つかったら……悪い方へのシュミレートが進んで行く。

「ふー」

 二人の警備兵が通り過ぎてからも五分位は隠れていた。

恐ろしく長く感じられた。

 体中にびっしょりと汗を掻いている。

今夜は後何回、こんな思いをするのだろうか?

考えただけでもぞっとする。


 建物から離れて、再び森を捜索。

「よくよく考えれば……こんな灯り一つで野草探そうというのはかなり……」

 しまった。咄嗟に木陰に隠れたが気配は確実に俺を見ている。

静かに息を吐いて構える。

覚悟を決め、体を伏せて相手に向う。

 俺の上を何かが通り過ぎる。

銃か? いや、何か引っ張る様な音も聞こえた。

遠距離専用なら間合いを詰めれば、相手が軍人とは言え勝機はある。

相手の姿がおぼろげに見える。

 ……女か? だが容赦はしない。

後一歩で俺の間合い。そこから全力で地面を蹴り、槍を突き出す。

 金属音と共に右手に衝撃が走る。

牽制の突きが宙を突いた瞬間、相手が消えた。

 何処に……

「いっ……」

 探す間も考える間も無く、下からの衝撃。

ダン、と一歩下がって耐える。

 対峙する相手は、女。

闇に慣れた目で見据える相手は、意思の強い視線で問い掛ける。

「誰ですか?」

 場違い過ぎる質問に、

「小林……千歳」

 と、馬鹿正直に本名を答える俺。

「小林……千歳?」

 復唱されて、名前を言った自分のアホさ加減に気付いて顔が赤くなる。

「軍人?」

「違う」

「じゃあ、何で私の邪魔をするの?」

「邪魔って……俺にはアンタの都合なんか知らないし。俺達は普浄って……」

 遠くから複数の足音が聞こえる。

「見つかった?」

「みたい」

「みたいって。他人事みたいに」

 足音が近づく。

「囲まれてる」

 足音だけでそこまで分かるのか?

目の前にいるこの女の素姓が気になるがそれどろではないな。


「そこでっ」

 何をしている。そう言いたかったのだろうが、その前に女の攻撃がヒット。

後に倒れこむ兵士。

呆気に取られる俺と兵士達。

「あ、ちょっ」

「キミも捕まりたくないでしょ」

 俺の手を引いて走り出す。

一瞬遅れで兵士達が追いかけてくる。


 森の中を走る。方角も何も分からない。

確かなのは降りている事。

「ちょ……何処へ?」

 かなりのスピードで駆け下りる。

木々の間からぼんやりと光りが見える。

「ソレ、使えるよね?」

「ソレって?」

「キミが手に持ってるソレ」

 槍の事か。

「あぁ、まぁ……人並に」

「なら、構えて」

「何で?」

「捕まりたくないでしょ?」

 森を抜け、手が離される。

……こういう事か。

 武装した兵士八人が俺達を囲んでいる。

「大人しくこちらの」

「従う訳無いでしょ……起動しないであげる」

 女の先制攻撃。

左手に装着しているシールドからワイヤーが伸び兵士にヒット。

伸び切ったワイヤーを巻き戻すタイミングで兵士が間合いを詰める。

「あまい」

 振り下ろされた剣。スッと間合いを詰め右手そ相手に添える様に軌道を変える。そのまま足を振り上げて顎を蹴り抜く。

「邪魔しないで」

 もう無理だろう。

残る六人が戦闘体勢に入っている。

「こちら、第八ゲート! 怪しい二人組みを発見!」

 一人が応援を呼ぶ。

「キミだけでも逃げられる?」

「え? 逃げないの?」

「私はする事があるし」

「する事って……この状況じゃ何も出来ないだろ」

「どさくさに紛れてやるから」

「な、何を?」

 俺を見る目が悪戯を思いついた子供の様に微笑む。

「暗殺」

 冗談とも取れる言葉。

誰がターゲットなのか? それはここで一番偉いヤツ。

名前は知らない面識も無いが俺の正義感と呼べる心が女を止める事を決めた。

「じゃ、幸運を」

 兵士に向って行く女。遅れてそれに続く。

 

「侵入……」

 立ち塞がる兵士達を薙ぎ倒す女。

この状況では俺も共犯……て事になるのか?

「ちょっと……待って」

「何でついて来るの? さっさと逃げれば良かったのに」

「人を殺すと聞いて……逃げられるか」

 俺が彼女を追いかけている理由。

「じゃ、私の邪魔するの?」

 階段の途中で立ち止まり、振り返ったその顔は殺気が篭っていた。

「邪魔とかじゃなくて……」

「じゃ、何?」

 声に苛立ちを感じる。

「何で……」

「殺すかって? 聞いてどうするの? その理由を聞いてそれで納得出来る?」

 ……無理だろう。

例え親の仇でも。

「……邪魔するのなら」

 女が構える。

ダン。コンクリートの踊り場を蹴る音。

「え」

 視界から女が消える。

何処? 

「がっ」

 背中に衝撃を受ける。

階段に正面から突っ込む。

「この程度では済まさないよ」

 見下ろされるその目に本気で殺されると思った。


 正直、ここで一番偉いヤツが死のうがどうしようが俺の生活に影響は無い。

「済まないって?」

 呼吸のたびに体が痛む。

でも、そう簡単に割り切れないのが人の心ってモンだろ。

 ゆっくりと立ち上がり、

「じゃ、どうする?」

 女は答えず、左手のシールドを俺に向ける。

射出されたシールドを避けると、目の前に女がいた。

巻き戻されるシールドの軌道にいるとヤバい。

しかし俺の考えを先読みして、行動する女。

 場慣れしてるな。くそ。

「くっ」

 密着されたままの攻撃。長柄では防衛で手一杯だ。

足を払われる。咄嗟に避けるが体勢が崩れた。

「痛っ」

 強引に体を捻り直撃を避ける。ギリギリで避けられたがシールドの尖端が俺の肩を掠める。

「まだ……やる?」

 少し間合いを開けて余裕の声。

肩に暖かい感触。

 その声に腹が立ったが、実力差はどう考えても向こうが上。

この差はどうしようも無い。それに無理に勝つ事は無い。向こうが諦めなきゃいけない状況にする事で俺の目的は達せられる。

 ……麻蓬山に来た目的とは大きく外れているけど。

「この程度で……勝ったなんて」

 今度は俺から仕掛ける。

突きから斬り上げ。間合いを詰めて振り下ろして薙ぎ払う。

体の動きだけで避けられる。

 右手を大きく引いて捻るとカキン、と小さく音がする。

左手に持った槍の後方部を振り抜く。

 完全に意表を突いた。そう思ったが、

ガキィィン……

「っっ〜」

 金属音と女の痛そうな声。

シールドで防がれた。

 短槍二振り。それが俺の戦闘術。

「珍しい。と言うかそんなの初めて見た」

 軽やかに、舞う様に攻めてくる女。

彼女のシールドが輝いている。俺もレーザーを起動して中和する。

お互いの武器が触れる度に光りが飛び散る。

徐々にスピードが上がる。

 右肩の痛みが増して行く。劣勢になり、壁際に追い詰められる。

「くそ」

「もう分かったでしょ? 邪魔しないで」

 首にシールドが当てられる。

「殺さないであげるから……もう」

「もう? 何?」

 やっと……来た。

俺と女の間に光りが駆け抜ける。

「あなた方が何者なのかは後でゆっくりと聞かせてもらいます」

 凛々しく構えるその後姿は俺の視点から見ると……随分

「キミは?」

「私は『雪原純子』『騎士団』所属です」

 騎士? こんなちっちゃいのに!

「そう……なら」

 ワイヤーが飛ぶ。

それを避ける。

と同時に俺と騎士が間合いを詰める。

 俺が払いと振り降ろしで女の体勢を崩す。

その隙を狙い、騎士が

「やぁぁっ!」

 レーザーこそ起動していないが躊躇いを感じさせない剣閃。

その剣をシールドで受け、弾く。

その勢いを保ちシールドでの裏拳。

 俺も左手の槍で遠心力を使い、騎士の頭上から真っ向から受ける。

 武器が触れる瞬間、僅かに軌道を変える。

手にシールドの微かな感触。

切っ先は女の顔に届くと思ったが、ギリギリ届かなかった。

 お互いの攻撃が空を切った瞬間、

「つぁ!?」

 女の右足が顔にクリーンヒット。

倒れる俺の視界で騎士の剣と女のシールドが何度か火花を散らしていた。


 かなりの人数の足音が近づいてくる。

「む〜。時間切れか」

 女が悔しそうに呟く。

「ま、後はキミが逃げられるか、楽しみにしてるよ」

 階段を駆け上がり、兵士をなぎ倒しガラスが割れる音が聞こえた。

「……キミは?」

 倒れた俺に剣が向けられる。

……えっと……

「俺は」

「俺は?」

「何て言ったらいいのか」

 頭の中は、どうやってこの状況から逃げるか? その事で一杯でパニックだ。

闘う事は無理だ。余計な誤解を招いてしまう。

とにかく隙をついて逃げるしかない。

「そこまでだ!」

 一、二……五人。

騎士の目もそっちに向いた。

 チャンス! かどうかは分からないが体は動いた。

「あ! 待て!」

 とりあえず階段を駆け上がる。

こっちには誰もいない筈。なぜなら女が皆やっちゃったから。

 後は……俺に飛び降りる勇気があるか無いか。それだけだ。


「ふ〜」

 どうにか振り切った……様に見える。

いつの間にか空が白み始めている。

時計を見る。

 四時五十分。

場所は運良く待ち合わせの駐車場。

 車にもたれかかり空を見上げる。

疲れた……。

ただそれだけだ。普浄は探して無い。そんな暇無かった。

兵士に見つからない様に、ここに来るので精一杯だった。

あとは店長が頼りだ。


「うわっ!」

「うわっ!」

 肩を揺すられて飛び起きる。

見つかった! 

「痛っ!」

「ビックリさせんな」

 聞き覚えのある声。

「〜〜〜」

 心の底からの安堵の声にならない声。

「な、何? その涙目は」

「良かった〜」

 あ、本気で泣きそう。

「で?」

「ん?」

「ん? じゃなくて見つけた?」

 ……何の事だ?

……あ。

「それどころじゃなかったんですよ!」

「うるさい!」

 一喝。

「見つからなかった。そういう事か!」

 結論はそうなる。

ただ、黙って頷くしか出来ない。

「まったく、お前は何しにここに来たんだ?」

 俺にもいろいろとありましてね、依頼の事を忘れてた訳じゃないんですよ。

 店長がゴソゴソと持っているバッグを漁る。取り出したのは、

「見ろ。私がどれだけ真面目に這いずり回ったのかを!」

「とにかく! 早くここから離れましょう!」

 店長のバッグから車の鍵を取り、運転席へ。

「おい、ちょっと」

「早く! 店長!」

 助手席を開けて急がせる。

「な、何をそんなに」

 普段ならこんな事はしないが、下手をすれば指名手配をされかねない状況だから俺も必死だ。

「説明は後で」

 ホイルスピンで発進。

「おい!」

 アクセルを踏み込み、駐車場から出る。


「馬鹿じゃないの?」

 そんな言い方無いでしょう。店長。

「不可抗力というか……何と言うか」

「何とも言わない。そんなのは」

 帰り道のサービスエリアでの仮眠と朝食の後、店長は普浄を発見入手。俺は騎士や軍、それに妙な女の事を話す。

それについて店長の一言が俺の心に突き刺さる。

「まったく……見つかったらヤバいとか言ってたくせに」

「返す言葉も無いです」

 俺にも事情があったのだが、自分でも説明できない程に状況に流されていた事に気付いた。

「……ま、怪我してなくて良かった」

 窓の外を見ながらぱつりと呟く。心配はしてくれている様だ。

「じゃ、さっさと帰ろうか。検問とか張られると面倒だし」

「はい」


 翌日、依頼人の沢下さんと連絡を取り、確認を取って貰う。

「はい。間違いないです」

「では、依頼は完了。と言う事で」

「ありがとうございました」

 依頼の品を引き渡し、報酬は後日支払う事を確認して今回の依頼は終了。

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