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王家の崩壊  作者: 千歳
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エッジワース伯は客間で思考を巡らせていた。


何も妻はわかっていないらしい。

いや、自分があまりに遠ざけすぎたので、わざと本人も目を背けているのかもしれないが、これは無言の圧力である。


兄上にもまだ子供はいない。

こちらは婚姻の遂行も出来ていない。


つまりはその為に時間を与えられたようなものである。


大体、あれは無邪気で繊細な風を装っているが、実のところは只の我儘で、思い込みが強く人の痛みに鈍感ではないかと感じることが多々ある。


この前の失踪事件にしてもそうだ。皆が最悪の事態を浮かべて青い顔で探し回っていたというのにあれは眠っていた。


少しばかり反省はしていたが、心配されたことに対しての冷ややかな目を持っていた。


普段は夫の悪事に目を瞑っているくせに、事が起きて初めて私のことを思い出すのね、そんな心が見て取れた。


何故ならば、翌日に国王陛下と兄上たちに対して謝罪していたが、それと並行して言い訳も出ていたし、そもそも自身が本気で責められないことをわかっているから二度寝なんて出来たのだ。



普通ならば、第二王子の妃が長時間黙って供もつけずにいなくなることが、どれだけ心配をかけるかわかるはずではないか。


しかし、売り言葉に買い言葉で「嘆きの館」の鍵を渡したのも、彼女がそんな大それたことを仕出かした原因も自分にある。


彼女を非難しても、自分に原因があったことは変わらないことを分かってはいる。


甘い新婚生活を夢見てきた少女が、その夢を砕かれ、嫉妬を押し込みながら妃となるための教育を受けるのはどれほど不安で辛かったか。


正式に王家の人間となった後も、寂しさを抱えながら好奇の目に耐えてきたことも分かっていた。


それでも、彼女に優しくしようとするとステリーの顔がちらつく。


自分が彼女と深い仲になればステリーは悲しみ、裏切りに怒り、嫉妬し、宮殿を追われるのではないかという恐怖にも怯えることだろう。


そんなことは出来ない。しかし、それならば彼女は一生苦しまねばならないのだろうか。


彼女の欠点に目についてしまうのも、結局は自身の悪徳から目を逸らしたいが為の理由付けなのだ。


ステリーに出会うまでは、彼女が宮殿に来る日を待ち侘びていた。


第二王子ということで、両親と姉からは惜しみない愛情だけを浴びせられて育った。期待の重責は常に兄に向いていて、その分何をするにも兄の方が慎重に、注意深く見守られていた。


その違いは幼い自分にも感じられた。兄ならば咎められる子供らしい気まぐれや癇癪も、自分は許された。


自分は弟で良かった。幼い頃はそう思い込んでいたが、成長するにつれて寂しさも覚えた。


父様も母様も、何に対してもまず兄上に目が行く、自分は兄の次でしかない、なおざりにされている。


兄が両親の重圧にあえぎ、苦しんでいたことは知っている。


その兄の犠牲の上に自分の呑気な子供時代が成り立っていたことも。

両親が自分に惜しみない愛情を注いでくれたことも分かっている。


それでも心のどこかにある寂しさを打ち消すことが出来ない。

メイディ嬢はその寂しさを優しくとろかしてくれるだろうか。そう思うと、自分に妻が出来る日が待ち遠しく思えた。


ある時、とある貴族の屋敷で開かれた気楽な集まりにメイディ嬢が兄と来ると聞き、理由をつけて自分も足を運んだことがあった。


そういった場には慣れていなかったのであろうメイディ嬢は、兄だけを頼りに不安げに辺りをうかがっていたが、その兄も場を離れてしまい、かちこちに固まっていた。


それが何だか妙に可愛らしく思えて、思わず攫っていってしまった。


あんなことをしなければ、彼女はもっと自分を憎み、無関心を決め込んでくれただろうか。


いや、それでも彼女は第二王子エッジワース伯の妃には変わりない。

夫の不実を許すのは耐え難い屈辱と苦しみであろう。


エッジワース伯の心は揺れていた。ステリーを愛する心は変わらなくとも、このまま彼女を疎んじ続けるかどうかについてである。


それは思わぬ形で続行され、また秘密の始まりともなった。


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