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「茶番はやめろ」
王はきっぱりとした口調で告げた。
「茶番ですって?」
王妃は目を見開いて王を睨んだ。
この男は、どうしていつも人の感情を少しは汲もうとしないのか。
「茶番だ。止せ。もう遅いんだよ」
王妃はその場に座り込んでしまった。怒りがふつふつと湧いて大声を出してやろうとしたのに声が出なかった。
見かねた監視兵が彼女に手を貸して、椅子に座らせた。王妃は静かに泣いていた。
「もう、ステリーの、ウィステリアの首も落としたのか?」
今度は王の声が震える番だった。
「落とせばいいのよ!あんな女の首!私の首が落とされる前にあの女の首だけは私が刎ねてやる!」
王妃はヒステリックに叫んだ。今にも王に掴みかかる勢いだ。
「全く、あの女の首は貴方にも刎ねる権利がある」
四人の中で一番年嵩に見える兵が大きく頷く。
「あの稀代の毒婦に対しての感情は我々もあなたと同じだ」
「どうしたんだ。ウィステリアはもう死んだのか?答えろ!」
「生きていますよ。貴方の前で殺す為に」
沈黙が流れる。
王妃の心は、自らの身を案じる恐怖とあの女に罰を下せる期待で揺らいでいた。あの女の次は私かもしれない。
監視兵たちはにやにやと王の顔色を窺っている。
王は両手で顔を覆った後、呆然と立ち尽くしていた。
大の大人がする振る舞いではなかった。大きな子供のようなその姿は傍から見れば不気味だったであろう。
しかし、その打ちひしがれた王の姿こそが監視兵たちの見たかったものだった。
宮廷の人間にも市井の人間にも嫌われたあの女を守り続け、愛し続けた愚かな王。
「ウィステリアさんはお幸せね。貴方にそこまで思われて。私だったら眉一つ動かさないでしょうに」
王妃が低い声で唸るように言ったが、王は最早反論する力もなかった。
王妃はそれを悟ると監視兵に問いかけた。
「それは本当のことなの?間違いないの?」
「ええ。一週間後には首都を出発するでしょう。たっぷり道中引き回してからにしますんで、到着は遅いかもしれないが」
「そう。本当のことなのね。皆に話してもいいの?」
「ああ、どうせ耳に入るでしょう」
「わかったわ」
王妃は椅子に深く座り直した。
「いつまでそうしていらっしゃるの」
「出ていけ、出ていってくれ」
王は床に膝を落としていた。
古びた絨毯の上に雫が乗っている。
「出ていかないわ。私、貴方と話すわ。そうでなければ私が可哀想だもの」
私が可哀想?
王は驚きと怒りで顔を上げた。
「ウィステリアでなくお前が?」
「そうよ、私が可哀想だわ。貴方ときちんと話さなければ」




