第6話 不安と期待
バットスライムのルナは、主である魔王に憧れの眼差しを向け、その目を輝かせていた。
悪魔執事が大きなゴブリンの相手をしている時、魔王がコソッとルナに耳打ちしていた。
魔王「ルナは成体とはいえ、まだ生まれたばかりだからあまり見せたくはないんだけど、私、よく怖い顔をするし、怖い事や酷い事もするんだよね…。私はそれを行うのがちょっと…いや、かなりかな…。大好きなんだよね…。私がルナの前でそんな事をしたら、私を怖がって嫌いになっちゃうかもしれないよ…。絶対服従契約とはいえ…、ルナに、"私を怖がらないで"なんて言えないよ…。」
魔王の本心だった。
魔王は魔王故に、それをする。というより、それが好きでやっていたらいつの間にか魔王となっていた。
だが、玩具として可愛がっていた魔王国筆頭騎士団長グレンが死に、冷徹な魔王の心に傷をつけ、ようやくルナという癒しの存在が目の前に来た…。
コレも失くしたら、魔王はどうなるのかーー。
魔王は本気で不安で、心配だった。
ルナは少し悩んだ顔をして、ポヨッと1歩、魔王の掌の上で顔に近づいた。そして、魔王の目をしっかりと見つめた。
ルナ「ボクは生まれたばかりで、確かによく分からないけど、魔王様は"ボクにそれらをしますか"?」
"核を射抜く質問だった"ーーー
魔王は「うっ…」となりつつ、一瞬だけ沈黙し、その重たい口を開いた。
魔王「"絶対にしない"…。しないけど、させる事は…あると思う…。でも、"嫌なら命令はしない"…。私は自分の楽しい事だけをしてるつもりだけど…、ルナが嫌なら、その時は目を閉じてても良いよ…。さっきは…、無理やり体に力を入れてごめん…。せめて、言葉だけして…その後、ルナが良いよって言ってくれたモノのみを、するべきだったよね…。」
魔王はシュンと凹み、視線は足元を向き、その目は潤んでいた。
ルナ「…魔王様、ボクは嫌な事は嫌って言うけど、"まだ何が嫌なのかは分からない"んです…。魔王様は今、ボクが嫌がりそうな事を言ってくれているというのは分かります。だから、魔王様がボクにしたりさせたりして、魔王様が嫌と思う事は先ず止めて下さい。あとは……"ボクに魔王様が普段どうやって楽しんでいるのか、見せて下さい"。その時に怖かったら目を閉じて、終わるのを待っていますから…。」
魔王「!!…分かったわ。でも、今は魔力を極力出したくないから、抑えはするよ?私の魔力で、私の探し物が壊れるかもしれないから…、私はそれは絶対避けたいんだよね。」
"見せて下さい"か……。こんな事を言われるの、いつぶりかな…?
ルナ「…わかりました。じゃあボクは見ているので、お願いします。」
こうしてーーー現在、ルナの目は輝きに満ちていた。
魔王「あら…。弱い人間ね…。」
魔王は人間達に歩み寄り、執事はその場にスっと立ち上がった。
執事「彼らはLv5程度で、先程のゴブリンはLv35程度でしたからね…。彼らにとっては、あのゴブリンは本当に化け物ですよ…。フフ……それにしても"ようやく"ですか…!」
執事はずっと背中をゾワゾワさせ興奮しながら、魔王を見つめた。そして、それに反応するように、魔王はチラッと執事を見つつ、睨みを効かせた。
魔王「なによ…。私はただ、ルナに見せてくれって言われたから、見せただけなんだけど?まぁ、久しぶりだったけど…。ルナ、大丈夫だった?」
私はルナの表情が見えていなかったから、結構不安だったけど…。
ルナ「ボク、ワクワクしてました!もっと見たいです!」
ルナはその場でポヨンポヨンと跳ねながら、大興奮していた。
魔王は目を見開いて驚きつつ、口角を僅かにニッと上げた。
魔王「フフ…、まるで、ミニ執事(ルード
)ね…。良いわ、ルナ、肩に乗せてあげる。私が暴れたりちょっと怖かったら、執事の方にいなさい。」
流石、私の魔力を浴び、変人執事に弄られた子ね…。
ルナの目の輝きは増え、「ありがとうございます!」と言って、ぴょんっ!っと魔王の肩に飛び乗った。
そして、魔王の瞳には再び冷徹さが宿った。
魔王「ルナ、貴方の水魔法で、この人間達に水をかけて起こして。」
魔王は少し吹っ切れた様子だった。
荒野の夜、少し肌寒い時間にした命令である。




