序章【下】:
十六段階の禁断の地に入ると、空気が変わった――匂いではなく、その密度が。
まるで何かに体を強く掴まれているようだった……
息をするたびに、何かが俺のそばをかすめていった。
「……」
同僚の呼吸は明らかに乱れていたが、俺は歩みを止めなかった。
視線を広場の中央へと走らせた。
地面に静かに突き刺さった剣が見えた。光もオーラも一切感じられない。
あまりにもありふれた剣で、見過ごしてしまいそうなほどだったが……
その周りの全てが「断ち切られている」ように感じられた。
「……あれが源なのか?」
同僚の声は震えていた。俺は答えなかった。
なぜなら、それを見た瞬間、胸の奥底で――
爆発したからだ。
「……」
息が詰まった。
世界が凍りついたように感じた。痛みではなく。
共鳴によって。俺とあの剣の間には、何かが繋がっていた。
「おい、それ以上進むな――」
遠くから同僚の声が聞こえた。まるで水の壁が俺たちを隔てているかのように、彼の言葉は全く聞こえなかった。
足元を見下ろすと、既に一歩踏み出していた。
しかし、「進め」という命令は、俺の心の中にはなかった。まるで牛が引かれていくように。
引っ張られるように前へ。抵抗する術もなく、意識は状況を否定しなかった。
一歩。
もう一歩。
距離は徐々に縮まっていった。
空中に漂っていた奇妙なものが、実際に俺の肌に触れ始めた。
手の甲に細い血の筋が現れた。
「……」
しかし、痛みはなかった。
俺の五感はすべて、あの剣に奪われていた。視覚も、意識も、すべてがあの剣に奪われた。
俺の思考はただ一つ、あの剣に近づくことだけになっていた。
「キンコンディア!!」
同僚がようやく叫んだ。
今度ははっきりと聞こえたが、俺の足取りは揺るがなかった。
俺は既に剣の前に立っていた。
手を上げ、指先をゆっくりと剣に伸ばした。
まさに触れようとしたその時――
ブーンという音。
ブーンという音だった……
俺は少し口を開け、驚いて周囲を見回した。
「あぁ……」
訂正。ブーンという音ではなかった。「亀裂」だった。
俺が見たもの。
その瞬間、世界が切り裂かれた。
視界が激しく歪んだ。
空気、光、空間――すべてが歪んでいた。
まるで無数の刃で同時に斬られたかのようだった。
「――!」
同僚が駆け寄ってきて、俺の肩を掴んだ。
彼は力強く俺を地面に押し倒し、俺の体は激しく揺れた。
意識が現実へと引き戻されたようだった。
呼吸が突然戻り、心臓が激しく鼓動した。
まるで全てがごく自然なことのように、ここで起こった。
「何をしているんだ!?死にたいのか!?」
彼は俺に怒鳴りつけた。
しかし俺はただ剣をじっと見つめ、かすれた声ながらも妙に確信に満ちた声で、何も答えなかった。
「…汚染じゃない。」
俺は囁いた。
「これだ。」
再び空気がかすかに震えた。
剣はそこに静かに突き刺さったままだった。
まるで何も起こらなかったかのように。
「大丈夫か?」
「まだ意識はある…」
同僚は俺がまた危険なことをするのではないかと心配するかのように、俺をしっかりと抱きしめた。
その時、突然空気が震えた。
「危険」という言葉が瞬時に頭をよぎった。目を見開き、同僚を力任せに突き飛ばしたが、逃げる暇はなかった。
「ジュッ!」
そう思った途端、腕に鋭い痛みが走り、布が裂ける音が響いた。
「痛っ!」
俺は無傷だったが、同僚の腕は怪我をしていた。
「……」
この剣から放たれる力はあまりにも異様だった。
なんとか頭を上げ、剣をじっと見つめると、柄に思いもよらない名前が刻まれていることに気づいた。
「キンコンディア!正気か!?近寄るな!!」
同僚の警告を無視して、俺は立ち上がった。
再び歩みを進めたが、今度は俺の方から踏み出した。
「キンコンディア!!」
背後から同僚の声が響いたが、俺は振り返らず、立ち止まらなかった。
なぜなら、何かを理解し、何かを悟ったからだ。
俺は両手を伸ばし、ためらうことなく地面から剣を引き抜いた。
しかし、剣に触れた瞬間、目の前に閃光が走った。
圧倒的な不安感が俺を襲い、まるで煙に包まれた戦場にいるような感覚に襲われた。
そして、その煙の中に、一人の人影が立っていた。
その人影は特に大柄ではなかったが、鋭いオーラを放っていた。その手に握られていたのは、まさに俺が今手にしている剣――断絶の剣!
彼の剣さばきは極めて簡潔でありながら、言葉では言い表せないほどの力を秘めていた。
剣の一振りごとに、あらゆるものを引き裂くオーラが伴っていた。それは単なる物理的な破壊ではなく、意志の絶対的な粉砕だった。
「…」
剣士の心に宿る意志を感じ取った。それは、守ろうとする揺るぎない決意だった。
彼の心は、純粋な守護の念で満たされていた。それ以外に何もなかった。
その守護の念には、幻想と恐怖に立ち向かう勇気が混じっていた。
しかし、その意志はただ表に出ただけではなかった。
それはむしろ、問いかけのようだった。
「お前は、一体どんな権利で俺を拘束するのだ?」
その瞬間、息が詰まった。
頭の中が真っ白になった。昼食に何を食べたかさえ忘れてしまった。
しかし、なぜか一つの考えだけが鮮明に残っていた。
「なぜなら…」
俺は口を開いた。声は小さく、自分でもほとんど聞こえないほどだった。
「世間に忘れ去られた伝説の人生…その子孫である俺が、この物語を紡ぐのだ。」
俺の魂は、その思いと一体化したようだった。
突然、胸に温かさが広がった。
それは痛みではなく、温かくも鋭い何かが、ゆっくりと体中に染み渡っていくような感覚だった。
誰かが耳元で囁いているようだったが、言葉は聞き取れなかった。
「キンコンディア…おい!大丈夫か!?」
同僚の声でようやく我に返った。
彼はまだ地面に膝をついたままで、片手で負傷した腕を押さえ、もう片方の手で俺の袖を強く握りしめ、その目は恐怖に満ちていた。
「…大丈夫だ。」
瞬きをして、視界をはっきりさせようとした。
「断絶の剣」が、確かに俺の手の中にあった。
刃は道端に落ちていた木片のように、何の装飾も光る効果もなく、ごく平凡だった。
不思議なことに、手に持った感触は予想外に…自然だった。
まるで、最初から俺のものだったかのように。
「さっき、急に目がぼんやりして、しかも笑ってたぞ?めっちゃ変だ!」
同僚は立ち上がり、明らかに安堵した声を発したが、すぐに不満げな口調に変わった。
「笑ってなんかいなかった…かな?」
少し恥ずかしそうに後頭部を掻いた。
そして、あっさりと剣を引き抜いた。
緊迫した出来事はついに終わった。
「キンコンディア…この剣は返さなきゃ。」
同僚は真剣な表情で俺に言った。
俺は剣をしっかりと握りしめ、しばらく黙っていた。
「この剣は返せない。」
「?」
なぜ?彼の表情がそう物語っていた。
他に理由はない。
「ホリルのものだからだ。」
剣術の創始者、その先駆者の名はホリル。
「そして俺はキンコンディア・ホリル、彼の末裔だ。」
彼の名前はエリオン・ホリル。
この剣は、まさに彼の断絶の剣でもある。
◈◈◈
報告書を書き終え、自室に戻った。
俺は剣を手に入れた――
さらに重要なことに、それは俺の祖先、あの偉大な人物が使っていた剣だった。
伝説によれば、彼はこの剣で数え切れないほどの敵を打ち破ったという。
鞘なしで剣を持ち帰り、いつか使うつもりだった。
正直なところ、妙に落ち着いている。
それが俺を不安にさせる。
大切なものを手に入れたのに、興奮が全くない。
それでも、何か別のものを手に入れたような気がする。
まるで雷に打たれたかのように、一瞬頭が真っ白になった。
古びた、装飾のない剣を、ひっくり返した原稿用紙の山を元に戻し、机の隅にそっと置いた。
新しい原稿用紙を取り出し、ペンをその上にかざした。
もはやためらいも不安もなく、不思議な静けさだけがそこにあった。
剣に触れた後、俺はすっかり心が落ち着いた……これこそがこの剣の力なのだ。
「どうすればインパクトのある書き出しができるだろうか」と悩むことも、「剣術の創始者」や「剣術の創始者」といった輝かしい功績を羅列することに固執することもなくなり、俺は書き始めた。
代わりに、彼を一人の人間として、その生涯をありのままに綴りたいと思った。
何を書くべきか思いを巡らせながら、俺はペンを手に取った。




