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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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95/95

95話 夜明け前の選択──怪盗たちが残したもの

夜会が終わったあと、

街は静かだった。


いや、正確には――

静かすぎた。


音楽も笑い声も消えた会場の外で、

夜明け前の冷たい空気が、ゆっくりと街を包んでいく。


「……後処理、大変そうだね」


レイリンが、小さく息を吐いた。


騎士団と学院関係者、

そして慌ただしく出入りする役人たち。


誰もが、今夜起きた出来事を

“事件”として扱おうとしている。


だが――

本当に残ったものは、

書類や証拠だけじゃない。


(空気が、変わってる)


街の人々は、まだ知らない。

だが、知ってしまった側の空気は、確実に違っていた。


「ロン」


背後から、低い声。


振り返ると、

フレデリコ・ディルが立っていた。


昼の仕立て屋としての姿ではない。

かといって、夜の義賊の顔でもない。


その中間。

素の彼に近い表情だった。


「少し、話せるかな」


「……ああ」


俺とレイリンは、会場の裏庭へ移動した。


噴水の水音だけが響く場所。

夜明け前の空は、薄く群青色に染まり始めている。


「今夜の“証拠”は、どうなるんだ?」


俺が尋ねると、

フレデリコは迷いなく答えた。


「然るべき場所へ渡す」

「ただし――」


彼は一瞬、言葉を切る。


「すべてが表に出るわけじゃない」


レイリンが眉をひそめた。


「隠すの?」


「違う」


フレデリコは静かに首を振った。


「暴けばいい、というものでもない」

「真実は、時に刃になる」


(……理想論じゃないな)


彼は、現実を知っている目をしていた。


「だから、選ぶ」

「守るべき人を、優先して」


その言葉に、

今夜見た彼の行動が重なる。


結界を張る場所。

守る順番。

攻撃より、防御。


すべてが――

弱い側からだった。


「……あの怪盗は?」


俺が聞くと、

フレデリコは夜空を見上げた。


「彼女は、もう行ったよ」

「朝が来る前に」


「正体、ばれたらまずいんだろ?」


「致命的だろうね」


仕立て屋でも義賊でもない、

もう一つの顔。


人々に夢を売る存在が、

夜に真実を盗んでいると知られたら――

壊れるものは多すぎる。


「それでも、やめないのか」


俺の問いに、

フレデリコは少しだけ笑った。


「やめられない人間は、いる」

「彼女も、その一人だ」


そのときだった。


噴水の縁に、

一輪の花が置かれているのに気づいた。


赤紫の、見覚えのある花。


レイリンがそっと拾い上げる。


「……メッセージ、かな」


花の裏に、

小さな紙片が結びつけられていた。


――今夜は、ありがと

借りは返すニャン♡

またね、正義の仕立て屋さん

そして、ラーメン屋さん♪


(……軽いな)


でも、

なぜか嫌な感じはしなかった。


フレデリコは紙片を見て、

小さく息を吐いた。


「……彼女らしい」


その表情は、

少し寂しそうで、

少し誇らしそうだった。


空が、わずかに白み始める。


夜明けだ。


騎士団の足音が遠ざかり、

街が、ゆっくりと“日常”へ戻ろうとしている。


「俺たちは、どうする?」


レイリンが言う。


「帰る」

俺は即答した。


「ラーメン屋だ」

「朝は仕込みがある」


レイリンが笑う。


「変わらないね」


「変わらない方がいいこともある」


フレデリコは、俺たちを見送るように言った。


「君たちが、ここに居合わせてくれてよかった」

「今夜は……助かった」


「こっちこそ」


俺は、噴水越しに手を振った。


「また、服の仕立てが必要になったら呼んでくれ」

「今度は、平和な夜会でな」


フレデリコは、静かに頷いた。


俺とレイリンは、歩き出す。


街の石畳を踏みしめながら、

背後で――


風が、花弁を運ぶ音がした。


振り返らなかった。


振り返らなくても、分かる。


怪盗たちは、もういない。


だが、

彼らが残したものは――

確かに、ここにある。


(正義ってのは、

 表に出ない方が、強い時もある)


朝日が、街を照らし始める。


新しい一日が始まる。


そして、

またいつか――

夜が来たとき。


きっと、

花の怪盗と、義賊は動く。


そのとき俺たちは、

またラーメンを作っているだろう。


それでいい。


それが、俺たちの選択だった。


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