表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
94/95

94話 花の怪盗、降臨──盗まれるのは宝か、真実か

夜会場の空気が、一瞬で変わった。


それは音でも光でもなく、

――違和感だった。


ざわめきの質が変わる。

楽団の演奏は続いているのに、音が遠くなる。

貴族たちの笑顔が、どこか強張る。


(……来たな)


俺がそう思った、その瞬間だった。


天井近く、シャンデリアの影から――

花弁が、舞った。


赤と紫が混じる、あり得ない色の花びら。

風もないのに、ゆっくりと、計算された軌道で落ちてくる。


「……なに、あれ……?」


誰かが呟いたと同時に、

二階バルコニーの欄干に、一つの影が降り立った。


軽やかで、しなやか。

まるで舞台に立つような所作。


仮面越しでも分かる、

あまりにも目立つ存在感。


「皆さま、ごきげんよう♡」


鈴を転がすような声。

甘く、挑発的で――どこか芝居がかっている。


「今宵の夜会、とっても素敵だけど……

 ちょっとだけ、“返してもらいたいもの”があってニャン♪」


(……花の怪盗)


噂だけが先行していた存在。

猫の足跡、花弁、そして消える真実。


会場がどよめく。


「怪盗だ!」

「警備を呼べ!」

「宝狙いか!?」


その混乱の中で――

一人だけ、動かなかった人物がいた。


フレデリコ・ディル。


彼は静かにグラスを置き、

視線をバルコニーへ向ける。


「……やはり、君だったか」


声は低く、確信に満ちていた。


怪盗は、くるりと一回転し、

フレデリコを見下ろす。


「さすが、仕立て屋さん♡

 夜の顔も、ちゃんと見てくれてるんだ?」


(……知り合い、か)


俺の横で、レイリンが小さく息を呑む。


「ロン……あの二人、ただ者じゃない」


「分かってる」


次の瞬間――

警備隊が一斉に動いた。


魔導装置が起動し、

床に展開される拘束陣。


だが。


「遅いのよ」


怪盗が指を鳴らす。


――闇が、踊った。


影が伸び、光を歪め、

拘束陣が一瞬だけ“ずれる”。


その隙を突き、

怪盗は会場中央へ降下。


そして――

ある貴族の胸元に、手を伸ばした。


「っ……!?」


男が声を上げる前に、

怪盗は何かを抜き取る。


宝石、ではない。


薄い水晶板。

魔力記録媒体。


「――いただき♡」


その瞬間。


「そこまでだ、花の怪盗」


フレデリコが、前に出た。


床に光の紋様が広がる。


《ティリングクロス》


淡い黄金の結界が展開され、

逃げ場を封じる。


だがその結界は、

“怪盗”ではなく――

周囲の民を守る形で張られていた。


(……なるほど)


奪うためじゃない。

守るための結界。


フレデリコの視線は、

怪盗だけでなく――

青ざめた貴族たちにも向いている。


「今宵、ここで取引されていたものは宝ではない」

「――弱者を切り捨てるための“証拠”だ」


会場が、凍りつく。


貴族の一人が叫ぶ。


「な、何を言っている!?」


その瞬間、

怪盗が水晶板を掲げた。


「孤児院の土地売却」

「労働街の強制立ち退き」

「偽の税記録」


「ぜーんぶ、ここに保存されてるニャン♡」


(……真実、か)


次の瞬間、

会場奥から魔導獣が解き放たれた。


「排除しろ!!」


怒号。

完全に開き直った権力者。


「来るよ!」

レイリンが叫ぶ。


「任せろ!」


俺は前に出る。


《みんなを守る》


魔力が走り、

衝撃を受け止める。


レイリンがすぐさま支援に入る。


「ロン、右!」

「分かってる!」


フレデリコは迷わず動いた。


《抑強扶弱》


傷ついた使用人の前に立ち、

光の加護を与える。


「守るべきは、力を持つ者じゃない」


怪盗は、その背を見て――

一瞬だけ、仮面の奥で微笑んだ気がした。


「……変わらないね、フレデリコ」


彼女は影の中へ溶けながら、

魔導獣の核だけを正確に破壊する。


《可愛くてごめンネ!》


闇の連撃。

だが殺さない。

止めるための一撃。


やがて、

魔導獣は崩れ落ちた。


静寂。


怪盗はバルコニーへ跳躍する。


「今夜の主役は、宝じゃない」

「――“真実”だよ」


仮面の奥から、

俺と、レイリンを見る。


「ラーメン屋さん♪

 あんた、意外といい顔して戦うね」


(……誰だ、このノリ)


だが次の瞬間、

彼女は深く一礼した。


「今夜は、ありがとう」


そして。


花弁とともに、

消えた。


フレデリコは、何も追わなかった。


ただ静かに言う。


「……彼女の役目は、終わった」


警備が駆け込み、

教師と騎士団が到着する。


夜会は、

“華やかなまま”幕を閉じた。


だが――

俺は知っている。


今夜、盗まれたのは宝ではない。


隠されていた真実と、

それを暴く勇気だった。


そして、

花の怪盗は――

まだ、夜のどこかにいる。


俺は、そう確信していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ