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サービス終了したゲームの世界で、俺はまだラーメンを作っている  作者: アザネ


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93話 夜会開幕──仮面の舞踏

夜会当日。


 日が落ちる頃、俺とレイリンは街の中央にそびえる大広間の前に立っていた。


 白い石で組まれた建物は、昼に見たときとはまるで別物だ。

 無数の魔導灯が壁や柱を照らし、光が反射して、空気そのものがきらめいて見える。


「……すごいね」

 レイリンが、小さく息を吐いた。


「ああ。ラーメン屋じゃ、まず縁のない世界だ」


 正直に言えば、少し居心地が悪い。

 仕立て屋で誂えた衣装は身体に合っているし、動きづらくもない。

 でも、この場に立つと、服よりも“立場”のほうが重く感じられた。


 入口では仮面が配られている。


 白地に金の縁。

 目元だけを覆う、控えめなもの。


「仮面舞踏会、って感じだね」

「顔を隠して、素性を忘れて……か」


 そう言いながら、俺は仮面を受け取った。


(忘れられるほど、軽い立場ならいいんだけどな)


 中へ入ると、音楽が流れ出す。


 弦楽器と笛の調べ。

 優雅で、どこか計算された旋律。


 貴族たちは笑顔で談笑し、

 宝石や香水の匂いが混ざり合って、

 甘ったるい空気を作っていた。


 壁際には、夜会の目玉が展示されている。


 《光輝の聖槍飾り》。


 槍そのものではない。

 儀式用の装飾具だが、

 台座に置かれたそれは、確かに異質な存在感を放っていた。


「……光、強いね」

 レイリンが、眉をひそめる。


「ああ。飾りにしては、やりすぎだ」


 料理人の感覚かもしれないが、

 “盛りすぎ”は、だいたい裏がある。


 俺たちは人波に紛れ、会場を歩く。


 ここでは、誰もが仮面をつけ、

 本音も、嘘も、同じ笑顔で包んでいる。


 その中で――

 ふと、視線を感じた。


 振り返る。


 ステージの奥。

 照明が集まる場所。


 そこに、彼女はいた。


 シャノン・フルール。


 アイドルとしての姿。

 華やかで、まぶしくて、

 場の空気を一瞬で持っていく存在感。


(……なるほど)


 噂になるのも、無理はない。


 彼女が軽く手を振るだけで、

 会場の視線が一斉に集まる。


 その一方で――

 俺は、別の“気配”を探していた。


 仕立て屋の男。


 フレデリコ・ディル。


 昼の穏やかな表情とは違う、

 夜の顔を持つ男。


(……どこだ)


 視線を走らせると、

 壁際で、静かに立つ影があった。


 背筋が伸び、

 動きが最小限で、

 周囲をよく見ている。


 仮面越しでも分かる。

 あれは、狩る側の立ち方だ。


(やっぱりな)


 俺が気づいた、その瞬間。


 音楽が一段、華やかになる。


 シャノンが、ステージ中央へ進み出た。


「皆さま、今宵はお招きいただきありがとうございます♡」


 甘く、軽やかな声。


 アイドルとしての“顔”。


 だが――

 俺には、どこか計算された間が見えた。


(……あの子、舞台を“見る側”でもあるな)


 視線が交差する。


 一瞬だけ。


 彼女の瞳が、

 仮面の奥で、鋭く光った気がした。


 その直後。


 会場の隅で、

 小さなざわめきが起こる。


 給仕の一人が、足を止め、

 慌てた様子で下がっていく。


「……何か、始まった?」

 レイリンが、小声で言う。


「たぶんな」


 俺は、聖槍飾りに目をやった。


 光が、ほんの一瞬、揺らいだ。


 結界が、

 触れられたような感触。


(……証拠、か)


 この夜会は、

 ただの社交場じゃない。


 売買されるのは、宝じゃない。

 情報と、罪と、立場だ。


 音楽は続く。

 笑顔も崩れない。


 だが、

 仮面の裏で、

 確実に歯車が回り始めていた。


 シャノンは、歌いながら、

 さりげなく位置を変える。


 フレデリコは、

 誰にも気づかれない角度で、

 一歩、踏み出す。


 俺は、深く息を吸った。


(……料理人が、こんな場にいる理由は一つ)


 巻き込まれるからだ。


 そして――

 見過ごせないからだ。


「レイリン」

「うん。いつでも」


 俺たちは、

 まだ動かない。


 だが、

 この夜が“舞踏”で終わらないことだけは、

 もう分かっていた。


 仮面の下で、

 それぞれの顔が、

 ゆっくりと姿を現そうとしている。


 夜会は、始まったばかりだ。


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